山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》7
緑は町役場に行って、書斎にあった文献が本当なのか確かめたいと内心決めていた。多分記録は多少残っているかもしれない。それに"生き証人"がいる。
「有屋さんが話してくれて、事が進んだ気がしています」
「まぁ、月世弥は存在していたってのが分かったのはキセキに近いよね」
「なのでまた聞きに行きましょう」
「な?!」
(この人、ブレーキ効かなくなると突拍子のない事するよお…)
「さあ、行きますよ」
意気揚々と外へ出る緑にヒヤヒヤしながらもついて行く。
越久夜町の町役場はこじんまりとしている。和洋折衷建築が特徴で、どことなく古めかしい小学校のようにも見えた。
町役場に来ると、彼女は迷いなく入っていく。ハラハラする横で、彼女は有屋 鳥子を指名した。
(案外暴れなくて…良かった…のかな?)
受付で有屋に会いたいと申し出るや、困り果てた役員を他所に、デスクで仕事をしていた本人が嫌そうにやってきた。
二人をジロリと観察し、まだ調べているのかと呆れられる。
「辰美さんを別荘に貸しますから」と、緑は頭を下げる。「別荘?!何で知ってんの…?」
はあ、とわざとらしいため息をつくと彼女は役場の奥へ案内しだした。
「私はここではただの役員なんだから、あまり目立ちたくないの。年寄りどもがうるさいし」
謝られた事も気にしていない態度。
「有屋さんこそ、この町にずっと居るのに長老の人たちに頭が上がらないの?」
不思議がる女子大生に、有屋は言う。
「神霊になんて年齢はないわ。まあ私は一応、若造になっているけれども。人間と流れている時間が違うし、第一、神と人を比較するなんて意味のない事。人間の時間で例えてみれば、私だと覚えている限り約三万年前くらいは生きているのよ」
長命だと緑は感心するが、こちらは何と反応していいか分からなかった。スケールが違う。
倉庫に招かれると、早速遺物を見せて欲しいと頼んだ。
「遺物は隣町の大学博物館に展示されているので、ここにはないわ」
「なら、書類だけでも見せて欲しいのですが…」
渋々といった様子で、棚から調査報告書と書類ファイルを取り出した。
三人で調査報告書を眺める。
そうそう円墳は珍しいものでは無い。関東地方は西日本側とまた異なった時代背景がある。縄文時代も同様だ。鬼神が来た頃は西では大きなクニが生まれようとしていた。
この辺の古墳はだいたい横穴式石室で、特徴的なナガトロ系変成岩を使っている。この円墳も同様だという。ただ劣化が激しい。
川岸にあるのと、忘れられていたのもあるだろう。幸い盗掘にはあっていなかった。
本を読みながら、緑が説明してくれた。