山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》5
「うわ…っ?」
蛍光灯の眩さに目を瞬かせていると、やがて有屋 鳥子の隠れ事務所にワープしたのだと悟った。何せ事務所だとひと目でわかる景色だった。デスクと積まれた書類。観葉植物。ソファ。
人ならざる者マジックに翻弄されているが、ドアに『有屋事務所』とマーカーペンで書かれていたのに間が抜ける。
有屋らしいというか、几帳面なのか、天然なのか…。
状況把握に忙しいこちらにネーハが詰め寄ってきた。
「アトラック・シンシア・チー・ヌーに会ったのを、詳細に話してほしいんだ。干渉者の中でもアトラックは危険でね」
星の生命体に寄生する思念体──アトラックと呼ばれる者たちは、外見や記憶を我がものとして時空を内側から食い破っていき破滅させる。
時空旅行者や坐視者たちには恐れられている存在である。
坐視者が紀元前から確認されているように、干渉者も同じく各地で確認されているのだ。
「アトラックは、辰美さんにも関係があるんだ」
疑問符を浮かべる辰美に、彼は言いづらそうに口を開く。
「アトラックの親玉は辰美さん自身なんだよ」
飲み込めない様子を有屋がいつの間にか眺めていた。「知らなかったのね、本当に」
「人聞きの悪いっ!」
「貴方の監視をさらに強めるわ」と彼女は言ってのけた。
「たまに邪魔が入って、監視対象を可視化できなくなる。その間に何をしていたのか、言いなさい。誰かと会っているの?地球外の生物と」
エベルムだと直感する。辰美はエベルムの存在を言っていいか悩む。緑たちに時空の話をした際の言動を踏まえると、それはやめたほうが良さそうだ。
ただ人ならざる者に月世弥の事を聞いて回っている、と率直に答えてみた。
すると彼女は釈然としないまま許してくれる。──甘い人だ。
「有屋さんも月世弥について教えて欲しい。そうしたら監視下に置かれても文句は言わないよっ」
それを聞き、有屋は渋々と言った様子で答えだした。
内容はこのようなものだった。
その墳墓にはタマヨリメという神が祀られている。タマヨリメとは古代で巫女などを意味する言葉。多分月世弥を指している。
本来なら地主神に封じられている異国の巫覡が埋葬されるはずだったが、"タマヨリメ"が埋葬された事になっている。月世弥はあの場で自害した。まるで月世弥の怨念がそうさせたみたいだ。
不自然でしょうがない。
前代の最高神─月の神に容姿や性格が似ており、摩訶不思議な娘だった。秘めたる力が宿っていてもおかしくはない。
越久夜町が一度壊れたか月世弥により歪んだのではないか、と有屋は推測していた。
倭文神が零したタマヨリメの話は信憑性が高い。あの神が何を考えているかは分からないが、合点がいく。
「月世弥が死んだあとのムラはどうなったの?」そう聞くと、有屋は言葉につまる。
「…記憶が無いわ。たしか、異国の巫覡が死んだあと、天津甕星が暴れて、月世弥がしんで、─鎮められて…そうね。これも時空の改変かしら」