山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》3
「約束…?」
「約束はとても強い魔法であり呪いだ。呪いとなった約束が、町を歪めているんだね」
「…」
──月世弥は、素晴らしいシャーマンだった。
古代、神々の声を聞き民に伝えていた女性のシャーマン。神の言葉を聞く能力を持っていた。珍しいシャーマンだった。大陸や他に見られるトランス状態になり、神を降ろすのでない。不思議な娘だった。
その異能は群を抜いていた。私が見てきた中でも優れた霊媒体質だったと思う。──再三いうが彼女は神の言葉を聞く能力を、確実に持っていた。
それは憑依や口寄せを行うシャーマンではなく、体の外側から神霊の影響を受け、目や耳にしたことを神意として伝える力だった。
特異な能力を持つとして──太陽神を顕在化させる事ができると、神官達にスカウトされ最長の三十代まで務めあげたのだ。
熱弁すると彼は自嘲した。
「かたや私は異国からきた後天性の巫覡だった。立場は違うが、今思うにシンパシーを感じていたのかもしれないな」
シンパシー。同情。共感。あわれみ。
憐れんだ彼は敗者になった。
「…歴史は勝者によって作られるとは言うが、この町はヒドイ。私が目覚めると、生き証人たちの痕跡は皆無だった。何があったのか。何を作り、考えていたのか」
月世弥も敗者として歴史から消された。
「どんな終わり方をし、どんな風にムラは反応したのか」
それはどちらも同じ結末。
「それはすっぽり抜けていた。私が見ていた光景は夢幻のようだ」
鬼神はそう語るとぼんやりとうだる暑さの境内を眺める。変哲もない田舎の、輝かしい深緑のモリ。
シンパシー。エンパシー。辰美は理解できる気がして、と心のすみで緑を思い出し、膝を抱えた。あの言葉を、忘れられない。