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山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》2

「月世弥も、尋常ではない感じがしますよね。ほら、ツクヨミは、同じ響きの日本神話に月読命という月の神がいますし」

「はぁ、居るんだ」

「ええ。神話以前に名付けられたのも不思議ですね」


 月齢を数える意で暦に関係する名とする説、暗い夜を照らすことによる名とする説がある。

 古代の人々が自然と潜在的な感覚でつけたのかもしれないが、春木にもそのような認識があったのかもしれない。

 それに月世弥と言われた巫女またはシャーマンの記録は残っていない。卑弥呼の様な大きなムラを形成した者くらいでないと、大陸にも認知されなかっただろう。


「遺された物から探すのは難しいですが、辰美さんならできるかもしれない。神々から、人ならざる者たちから月世弥の情報を聞き出して欲しいのです」

「ええっアタシできないよ、そんなん」

「大丈夫です。辰美さんなら」

 少しめんどくさいが、指切りげんまんをされなあなあになる。

「…うーん。どうしようかなぁ」

「手始めに鬼神から聞いてみたらどうでしょうか」


(いやいや!手始めにって)


 最高神である山の女神よりは打ち明けてくれるに違いない。だが彼も列記とした神である。

「有屋さんは」

「ああ…分かったよ、もう」

 諦めて同意して、地主神がいた神社へ向かう事にした。



 ──神代の時代、いや、はるか昔に越久夜町は一度壊れそうになったのは確かだ。天津甕星(あまつみかぼし)なる神の行いによる。ちなみに天津甕星なる神話に登場する星の神の名ではあるが、それはあて名に過ぎない。話は戻るが、山の女神─最高神に背きムラを支配しようとしたのだ。

 ──天津甕星は怒り、村を支配していた神官たちの崇拝対象であった女神へ戦いを挑んだ。それには根本として、人の世界の怨恨が関係しているのではないだろうか?

 ──天津甕星の巫覡(ふげき)が関係していたようだ。それにはもっと町が『ムラ』であった時代の事柄を視なければ…

 巫覡に聞けば何かわかるのではないか?


 神社に所在なさげにやってくると、賽銭箱の後ろに鬼神が涼し気に立っていた。

 大丈夫だったかと心配すると彼は今は平気だとシニカルに言い放ってみせた。

「探偵気取りかい?」

 彼は皮肉な笑みを浮かべた。頷くと、さらに軽薄なものに変わった。


「日影にやってきなよ」と促され、腰を低くして隣へ座らせてもらう。

「アタシの立場も考えてください」

「はは!たった一人の人間に逆らえないのかい?悲しいな」

「いやぁ…まあ、そうですけどぉ。天津甕星の言葉が気になってしまってて。なぜ、月世弥は町を壊そうとしているのかな、って」

 彼は月世弥の名を聞いて、陰鬱とした様子を見せた。


「あの娘は私と似た道を辿ったようだ。ただ、…私は意気地無しだ」

 俯いた鬼神は一転、爽やかに破顔してみせた。

「縄文時代とよばれたあの時代の、祭祀を見たことあるか?とても神秘的だったよ。仮面をつけ、踊り、または祈り、人々は神々に安寧を願う。私の国とはまた違う、原始の祀りを留めていた。この世界はもう、それがないようだ。残念で仕方ない」

「は、はぁ」

「…ツクヨミという名を知ったのは、人ならざる者になってからだった」


 人ならざる者たちの間では有名だった。太古から居る邪悪な存在として恐れられ、彼女の通った道は魔筋となる──ツクヨミという"バケモノ"がいる。

 本来は月世弥という名は春木しか知らなかった。二人の秘密として、特別な意味合いがあったのではないか?

 ──約束は破られたんだ。二人の聖なる規約が。

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