山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》1
「ところで、春木さんの会話はどういう経緯があってああなったのですか」
呪符だった物が破られ、切れ端が風に舞うのを眺めながらも、彼女の問いかけをきく。
「山の女神の本性を暴きたかったみたい」
「何ですかそれ」
「うーん。あのヒト、訳わかんないし」
風見鶏みたいな奴だと、心の中で呟く。何を軸にしているか分からない。すぐに消えて、すぐに現れる。
「私は月世弥に会えるかなー、とか変な期待もしたんだけどね」
天津甕星がもしかしたら月世弥かもしれない──なんて、考えも浮かんだりした。
「まぁ、月世弥に会えたら苦労しませんよ」
「そーだよね」
苦笑したこちらに彼女は無表情のまま、紙の欠片をよこしてくる。
「燃やしてくださいね。これ」
「うん」
燃やさねばならない何かがあるのだろうか?
「神世の巫女は会ってくれなさそうな気がします。それに、魂って何百年も同じ形を保てるのでしょうか?」
「だよね、私が会った時もちぐはぐな感じがしたし、何か変な気がするんだ」
崩れかけた顔面に過ぎる、含みのある微笑に背筋が凍る。まるで波長の合わないラジオ放送を感受しているみたいだった。
「まさか、崩れかけてるのかな」
「…」
後日、緑からお誘いがあり、二人で史跡の本を読みながら話していた。
円墳を作り弔われた事は、史実に残っている。出土したのは縄文時代の貝輪と古墳時代の埴輪と土器、勾玉だけだった。誰の物かまでは分かっていない。
石積みの円墳はここら辺では珍しいという。
緑は時代が合わないが、春木が後から弔ったのだと納得したという。貝輪は女性のシャーマンがつける確率が高い。奇跡的にそれが残って出土遺物となったのかもしれない。
しかし何のために?
まず辰美は、弔いをしようという気持ちが湧き上がってきたからではないかと提案した。
──神が、人を弔うのだろうか?
緑の問いかけに言葉につまる。神とは人とは異なる思考をしているはずだ。人を、一個人を特別視し、弔うなんて。
「雲の上の存在の気持ちなんてさ、人は理解できないよ」辰美は苦笑しながら言った。
「月世弥も、尋常ではない感じがしますよね。ほら、ツクヨミは、同じ響きの日本神話に月読命という月の神がいますし」




