山の女神と幻像の巫女 《はじまり》6
(どうして、アマツミカボシは月世弥が町を壊そうとしてると思ってるんだろう?)
当の本人は追い返され、ブツクサと不満を零している。
「あのさ」
「──あのオンナぁ、現実から目を逸らしやがって。あれがその証拠だ。ムカつくよなァ」
彼は牙をチラつかせそう吐き捨てた。
「月世弥をどこにいるか知ってるんだよね?」
「さぁ?ほいよ!」
「あ!」はぐらかされ、ムカッとした矢先、獣の身軽さで木に登ると、ピョンと幹から空へ飛び出した。まるで山の精みたいだ。
木から木へと飛び移り、やがて姿は見えなくなる。辰美は狐につままれたような気になる。
己は人ならざる者を、結局は理解できないのではないか?
こちらがぼんやりしていると、緑が地面に落ちていた呪符を拾い、見つめた。
「あれ」
「さてと」生地に向かってスっと指を滑らした。何も無い空間からイヅナがニューッと現れるや、小さい口で牙を剥き、のたうつ文字に噛み付く。インクの文字がばらけ、白紙の紙切れになってしまった。
「これでこの呪符にかけられた呪いは解けました」
「あ、ありがとう」
「この呪符は、呪詛返しは大変危険な術なんです。失敗すればこちらに厄災が降りかかる。貴方みたいな素人が気軽に使ってはならないものです。次からはやめるように」
「はーい…」
叱られ、苦笑するが…なぜただのインクの文字にマジナイが宿り、呪符となったのかは分からないままだった。