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山の女神と幻像の巫女 《はじまり》5

 なだらかだがきつい参道を登り、神社の一の鳥居──両部鳥居(りょうぶとりい)の前に着いた。厳かな雰囲気のある境内と深緑。まさに最高神の風格を漂わしている。


「辰美ちゃん。オフダかして〜」

「い、いいけど…」

(嫌な予感がするわぁ…)


 彼が呪符をかざし、通せんぼをしていた結界に押し当てた。途端に静電気が起きたように、電流が走る。セキュリティが故障したのだ。

「何ですか?今の?何か、光ったような」

「緑さんにも見えた?」

「ええ、少し」

 部外者である天津甕星が鳥居をくぐれるようになり、じゃじゃーん、とポーズを決めてみせた。

「すごくない?色んな場所で試したんだ〜」

「試すなや」


 すると即座に、境内に、天道(てんどう) 春木(はるき)が神通力を使ったのか、降ってわいたように現れた。イラついた様子で三人を睨みつけた。

 その睨みは殺意すら感じ、すくみ上がる。

「どうして人ならざる者がセキュリティを無効化する呪符を持っているの?何事?」

「そ、それは」

 気まずいと、辰美は引きつった笑いをうかべた。

「辰美さん。変な真似はやめてちょうだい」

「ごめんなさいっ」

 妙齢の婦人は憂うつそうな顔でため息をついた。が、それもつかの間、彼女は目を丸くした。

「つくよみ…?」

 隣に立っていた天津甕星の姿を一目見て、彼女の鉄壁とも言える平生が崩れる。辰美は彼女の瞳には少女が写っているのだと微かに驚いた。

「こんにちはぁ、女神さま」


 しかし甘ったれた挨拶に、スウッと冷淡な、常日頃の無表情になる。月世弥と空目して動揺したのだろう。

「…あなたは誰?月世弥ではないわね」

「忘れちまったのかい〜?大先輩をよぉ?」

「神威ある偉大な星…天津甕星。──黄泉に縛られていたはずよ。今更何の用?」


 再び威嚇した雰囲気になる春木に冷や汗がたれた。何も無い空から紙垂を模したイナズマの形をした光を召喚すると、くるくると回転させた。それはあっという間に鋭い剣に変形した。


「待って、この人の言いたい事をきいて!」

「The 開闢のミーディアム・辰美ちゃんの言ってる事が聞けないのぅ〜〜?」

「黙って!」

「えー!」辰美に怒鳴られ、ムッとする。

「月世弥を侮辱するのはやめて」

「ふぅん?随分と一人の──ただの人間ごときを贔屓してるじゃないか。平等に愛せよ。最高神さんよォ」

 双方殺気立ち、鋭い眼光をたぎらせた。

 腕の筋肉を僅かに動かし、剣を構える。しかし彼は余裕を感じさせる様子だ。

「やってみ」

「ふざけないで!」


 素早い動きで切りつけるも、刃先が天津甕星を通過した。凶器は一ミリも実体に触れられず、彼女は手を止めた。

「はぁ…そういう事ね」

 山の女神は堪忍し敵意を喪失する。

 場が収まり、内心ホッとしていると──

「話すのなら早めにして」

 彼女は心底嫌そうに問うた。

「わたしはぁ、──オレはあのオンナの企みを知ってるんだ」

「企み?馬鹿言わないで」

「お嬢ちゃん、アンタを壊そうとしてる。加えて町を壊滅させたがってる」

「…あの子がそんな」

 何を言っているのか理解できないと否定したい。そんなものが無表情の下に見え隠れしていた。

「…月世弥は過去の人物よ。もうこの世には存在していない。それに月世弥はそんな人柄では無いわ」

「ふは、バカの戯言と思ってもいいぜ。…お前の中の月世弥が崩れないために、そうならないために、巫女を解き放ち浄化するべきだ」

「あなたがそんな風に町を心配するとはね」

「…。それとお前に言いたい事があるんだよ」彼はいう。

「自らに課されたペナルティにも関わるものだからな」

「…そう」


 しかし山の女神は首を横に振り、拒絶した。

「今は話を聞きたくない」

「春木さん…?」

「帰って欲しい。お願い」

 深々と頭を下げられ、辰美は戸惑う。一端の神霊が頭を下げるなどあってらならない気がした。

「行きましょう」

「け、けど」

 緑に促され、しょうがなく境内から出る。振り向くと既に山の女神の姿はなかった。魔法みたいだ。

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