山の女神と幻像の巫女 《はじまり》3
「あ、アマツミカボシ」
「どうしてその名をしっているの?」
詰め寄られて、天津甕星が見えていないのを目の当たりにして、辰美は彼女が言っていた意味を理解する。
けれども何故、自分は見えている?
「私…しか見えてないみたい」
「辰美さんの事だから幻でも見ているのかしら?」
「いやいや、ここにいるんだけどぉ」
天津甕星はニヤニヤとイタズラっぽい笑みを浮かべたまま、こちらを見ている。
「まあいいわ」
"天津甕星が居る"。それは事実であり、反対に有屋からしたら天津甕星の姿が見えなく、いないのが事実だ。人ならざる者が見えるという事はそういう現象が付き物だった。
目視しているのは自分だけなのだと。
「女神の前でその、天津甕星の名を出してはダメよ。命を失いたくなければね」
有屋鳥子はめんどくさいと、髪をかきあげた。キューティクルの艶がきらめく。
「えっ、けど」当の本人はどこ吹く風で蟻で遊んでいる。蟻が掌に包まれ消えてしまう。
残酷な子供のように、少女は蟻を亡きものにした。(蟻は触れるんだ…)
「女神はその者が大嫌いなの」
眉をひそめ、厄介事をもちこむなと釘を刺される。
「なんで嫌いなんですか」
「言わなきゃいけないわけ?貴方、馬鹿なの?」
「は?馬鹿って言った?」
「まあまあ、二人とも。悪目立ちするからやめてください」
緑に宥められ、バツが悪そうに口を閉じる。田舎において目立つというのは恐ろしい所業だった。
「…じゃあ、私はそろそろおいとまするわ」
「…お気をつけて〜」
残された小林 緑と辰美は気まずいながらも、立ち尽くしていた。
彼女は二人の行動に興味を持ったのか尋ねてくる。