幻像の気配 6
「あはは、じょーだんですよぉ」
はあ、とあからさまなため息を着くと年齢不詳な婦人は腕を組んだ。
「で、一体どこへ行こうとしていたのかしら?」
まるで悪ガキをとっちめようとする先生みたいだ。
「あーえっと、越久夜ダムに行こうかな〜って。ほら、最近酷暑でしょ?ダム底から面白いモノが出てるかもって。ね、緑さん?」
「ええ。事故を起こした車とか」
(は?!?こわっ!)
「佐賀島 辰美。正直に言いなさい」
そう言われた途端、肢体がピシリと縛り付けられた気がした。脳も思考の選択を奪われた、かの如く自我が剥離する。
「荒れ野にある墳墓に行こうと思ってる」
「…そう。辿りつけたのね…」
春木の瞳は残念そうに沈んだ。
「──げほっ!な、口が勝手にっ!何が起きたのよ?!」
「貴方は私の町にいる。眷属や…体内の細胞に近いわ。肉体や霊魂を掌握するなんていとも簡単にできるんだから」
「やめてくださいっ!プライバシーの侵害だよっ」
「辰美さんこそ、私のプライバシーを侵害しているじゃない」
ケロッとした様子で言うと、彼女はずいっと顔を近づけた。
「荒れ野の墳墓には近寄って欲しくない。何もないし、暴けば恐ろしい事が起きる」
「な、なにそれぇ?」
ふざけているのか、真面目なのか、春木は言い聞かせるように言った。
「あの墓はいわく付きなのよ。」
「曰くつき…もしや、荒れ野がそうなのは墳墓が原因なのですか?」
緑が問うと、山の女神は悲しい作り物の笑みを浮かべた。
「ええ。白面金毛九尾の狐の殺生石みたいにね。怨恨を振りまいているのかもしれないわ」
「え…」
「この鏡をちょうだい。」
「はい。」
骨董品の棚にあった、いつの時代の物か。テレビや漫画の魔法少女が使っていそうな、可愛らしいコンパクトミラー。それを手にしてソッと人差し指で円を書いた。
わずかに─太陽の温かみがある光が瞬いて、鏡に宿る。
「これを緑さん。貴女にあげるわ」
「えっ、私にですか。辰美さんでなくて?」
「貴女に必要になるから」
ギュッと緑の手のひらを包み込むように手渡すと、気味の悪い爽やかな笑顔をうかべた。
「貴女に託すわ」
白面金毛九尾の狐という呼び方って日本だけなんでしょうか?私はある小説で、呼び方を知りましたが…。
中国だと九尾の狐は良い獣らしいです。アジア圏に広まって、色々変わっていったのでしょうね。不思議ですね。




