幻像の気配 5
「あまり、分かりたくないですね。めんどくさいですし」
キッパリ言い張る骨董屋店主はいかにも怠惰だった。リュックサックを背負いながら、辰美の脳裏にある事がふと思い浮かんだ。
(緑さんの…おじいさんは天の犬の力を使って何を調べようとしたんだろう…?町の歴史ってのは分かるけど)
「祖父は……何を調べようとしていたのか気になります。月世弥を調べていたにしても…まるで私たちと同じ道を辿っている感じがしませんか。」
緑もそれを思ったらしく、手記を大事そうに金庫にしまった。
「人智を超えている、なにかの力を使って。隠された歴史を可視化する奇跡のような力を…。辰美さんは存じ上げているのですよね。その力が何か」
「あー、いや。私はぁ」
「貴方は私と対照的に感情が顔に出やすい。…知っているのですよね?」
「う、うーん。なんだろぉ?神さまみたいな不思議な力かなー?」
はぐらかしていると客が来店してきた。
「あ!お客さんだーっ!」
ガラス戸が開き、なんと話題の人物でもある山の女神こと天道 春木が骨董屋に来店してきた。涼し気なクールビズの服装とどこかしら麗羅に似ている顔つき。柑橘系の香水が香ってくる。
─香水は苦手だ。
「こんにちは」
「あ、は、春木さん、こんにちわぁ〜」
出迎えるも、リュックサックに視線が行き気不味くなった。
「やっぱり」
無表情の中に呆れが混じる。緑も表情筋が乏しいが、彼女はまた違う。感情を押さえつけているような…。
「珍しいですね春木さん。いらっしゃいませ」
緑も疑心の瞳から常日頃のどろんと濁った目付きに変わる。
「─貴方たち、良くない事を企んでいるわね?」
「ゲッ、バレた。もしかして町中盗撮されてる?」
「神をなめないで。盗撮じゃなくて透視よ」
「こわ〜〜」叱りつけられヘラヘラと笑ってみる。効果はあまりなかった。
「稲荷神社の神使から言伝があったから、何かと思ったら。」
「え〜〜秘密にしてって言ったのに。」
「言ってないでしょ。嘘つかないで」




