幻像の気配 2
「こう、夏祭りって。屋台とか花火とか、恋愛のイメージだったな〜」
「辰美さん、夏祭りに行った事は?東京でも夏祭りはあったんですか?」
「あったよ。有名なのは隅田川花火大会とか?でも勉強してたり、使用人さんに言いつけられて家にいたなぁ」
花火大会は夏祭りなのか、と頭の隅で考えながら暗い過去を振り払う。人ならざる者が見えるようになってからは、華やかな場所も避けていた。
集まってくるのだ。
境界線が曖昧になる場には──人と同じく、人ならざる者も。
「ふむ。興味深い」
気がつけばメモをとっている。「私のは書かないでよ?!」
「語り部からの貴重な証言ですから」
「…は、はあ…そっか」
二人はしばしのんびりと朝方の、どこか慌ただしい商店街を傍受していた。
「緑さんに言ってない事があって」
「何ですか?」
「けっこー前にさ、夢に手記に載っていた巫女さんが出てきてさ。会って欲しい、見つけて欲しいって言ったんだ。」
──私の名は月世弥。この地に縛り付けられ、ずっとさまよっている者。辰美、私に会って。
あの温和そうな巫女はそう言っていた。
二人だけの秘密とも。
「ああ、祖父の手記に…神の声を伝える巫女のような人物がいた、と書いてありましたものね。春木さんも」
「うん。その巫女さんは月世弥っていうんだって」
──巫女は─彼女は私の特別な人だった。数少ない神の声を聞ける人間でもあったわ。優しくて、可愛げのある子だった…。
春木の通りの夢に出てきた女性。だが、他にも月世弥はいた。
「なのにこの前路地で別人みたいな月世弥に会ったんだ。私を探すな、みたいなコト言ってて。どれがホントかわかんないよ」
「つくよみ…日本神話に登場する月読命に関係があるのでしょうかね」
「へー。同じ名前の神様がいるんだ」
「ええ。日本神話には三貴子という三柱の神がいまして。太陽神の天照大神、月の神の月読命、嵐などを司る神の素戔嗚尊がいます。彼らは兄弟なんです」
春木や月世弥らはその神話を存じていたのだろうか?
「ただ、奈良時代に書かれた日本書紀よりも以前に巫女はいたので、偶然の賜物なのだろうと思います」
「月の神さまかぁ…」
緑は無感情に頷いて、受け止めた。
「辰美さんは不思議な力を持っていますから。つくよみに出会ってもおかしくはないですね」
「いやぁ…ほら、私厄介事を引き寄せるんだよねえ」
「暇ですし、つくよみについて調べめてみましょうか」
「え?緑さん?」
なにやらスイッチが入ってしまったようだ。
「まずは稲荷神社の神使に聞いてみようかと」
「あー…物知りっぽいもん」
「では、行きますよ」
椅子から腰を上げ、レジの横にある財布を取り出したした。
「お供え物を買っていきます」
色々ネットで調べました。
神様の名前って難しいので、自分が読めるようにフリガナをふりました。