幻像の気配 1
七月二十三日。夏の盛り。山奥の田舎、越久夜町にも夏祭りがやってくる。
都市でやっている大規模な出店もなく、お神輿やお囃子など他に神事を行う原初的なものだ。
朝方。
辰美は寄り合いで緑がいないと思いつつ、骨董屋を尋ねた。
彼女はのんびりお茶を飲み、レジの隣にある椅子に座っていた。
「あれ?お祭りの準備しないの?」
「私は一応憑き物筋なので、町からは異端扱いされているんですよ。村八分までとはいかないですが…それにこの町の祭りは関係者だけで済まされるんです。」
「そ、そっか」
来店した客におせんべいを渡すと、のんびりラジオを聞いている。うだるような暑さとは無縁と言いたげだ。
「辰美さんこそ、宿題は済ませましたか?」
「まさか!てか小学生じゃないし!」
悪びれもなく彼女は冷やした麦茶をふるまった。よく冷えていて美味しい。
最も夏らしいこの時期。夏休みの始まりに浮かれた学生たちは故郷に帰省し、まばらだがこの町にも若者がいるようになった。
もちろん辰美は帰る場所などないので、暇を持て余している。
また夏祭りにくり出すような幼少期を送っていないので、夏祭りの様子に少し興味があった。緑がいなかったら町をうろつこうともしていたのだが。
1話だけ早めに投稿しました。