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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
未確認思惑《パラレルワールド分岐点》
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未確認思惑「彼女の穢れを祓わなきゃ」

魚子と麗羅の考えの違いが浮き彫りになる回です。そういう回だと思ってください……。話が堂々巡りになっているのはそのためです。

次回で最終話になります。

「私たちがなんとかしなきゃ、いけないの。私たちが創り上げた妄想をぶち壊すのは私たちしかいないの。」


 自ら築き上げた世界への──他力本願で押し付けてしまった破滅願望を否定するなんてお笑い草だと、麗羅は思う。今だってこの非常事態を望んでいる、楽しんでいる非道な部分がある。現実から目を逸らしたいだけの強がりかもしれないが、きっと自分だけではなく世界に何万と日常の打破を願っている人たちがいる。平和であろうとそうでなかろうと、今ある自らの状況を変えてしまいたい人は増え続けているだろう。


 悪い噂も変な生物も邪な思念も思考する生命がいる限り、増え続けていくだろう。人類とはそう設計されている。神が、そう作ってしまった。

 神。

 脳裏に揺らめく記憶がある。生まれた時からある、自らに似た神がいて死者の顔をして笑っている。──誇大妄想。

(神なんていない。何故ならば、…私は今こんな事をしていないわ。柔らかくて暖かい場所で吾妻と話している。ああ、幸せな気持ちになる。薬物や現実から逃げなくていい─)

「ライラさん?」

「ああ、なんでもない。準備は出来てる?」

「…はい。捕獲した有り金、半分いただきます。」

「いいよ、ね?タケやん。」

「ああン?ヤダね。」


 会話が成立し思考は周囲へ向けられる。天井から瓦礫やらがなだれ込み、運良くトイレへ収納されたようだった。もし落ちどころが悪かったりもっと身体が破損してしまったのなら…今頃血みどろの肉塊になっているか。


 三人は事実悪運か幸運か生き残ったのである。アスベストがなけりゃいいなと竹虎が茶々をいれた。第一こんなガラクタまみれな時点でクソもありゃしないじゃない。ああ、数日前の生活がムカつくぐらい輝いて見える。そんなものか。そんなもので世界が変わるなら―ホコリ混じりの痰を吐いて麗羅(らいら)はまず幻覚剤を渇望した。


「なんだかもうここまでくるとフィクションみたいですねえ…。もし、私たちが主人公なら何かしら好展開になるアクションが起こるはず。」

「残念ながらおらちは脇役だ。そしてあんたもな。」

「ジョークでいったんです。」

「ほほう。ジョークをかませるようにナッタかァ!成長したなぁお嬢ちゃん!」


 アドレナリンによるハイか、はたまた現実逃避のふりか。三人は不格好な薄ら笑いを浮かべ沈黙した。


「これからどうします…?」

「私はドロンかましたいかな〜。地方に逃げた方が安全っぽいし。」

「おらちも同意見さ。」そんな本音にバイヤーはあからさまに軽蔑した。  

「流れ的に戦うを選択するでしょっ普通!創り上げた妄想をぶち壊すって言ってたのは誰ですか?!」

「いやぁー命より大事なものはないって。それにあれはあんたを励まそうとして、言葉の綾よ。あや。」


 人間のクズですね、と魚子(ななこ)に罵られる。そりゃあそうだ。人間のクズだと自負している人間にそんな罵り言葉を吐いても効果はない。


「地方に逃げたところでミーム汚染は間逃れられません。問題を先延ばしにしているのと同じです。私たちが食い止めないと…」


 こんな風に生きてみたかった。彼女の愚直さを羨ましく思う。ひねくれもせず、優しい人々に囲まれて育ってきたのだろう。


「なら。こんだけ大事に発展させるまで、どのぐらいのミームを汚染したかしら?」

「さ、さあ。あの女の子が切れ者だったとしか…。自殺してからは半年くらいは経っていますが…彼女が桁違いの破滅願望を持っていて…それと現代の歪曲した感情も加わったのかも。拡散速度は現代ならではのSNSでの伝達なら、無理のない話ですけど…。」

「ンなぁこたどうでもイイ。形成過程を議論するより、破壊できるかが本題だろーが。」

「ハッSNSであれはデマでしたって?さっき無駄だって配信しちゃったのに?」

「ハあン?」

「繰り返しになりますが私達がアレを破壊できれば、破壊可能というミームが加わるはずです。」


(破壊できるのかな?)

 タコは軟体動物でぐにゃぐにゃしているし、いったいぜんたいアレがどんな生態なのかも不明なのだ。"彼女"は無であり全てであり──それではまるで神ではないか。軍隊が苦戦しているから防御力や攻撃力もすごいんだろうか?


 まだ見ぬ宇宙人を想像するのとおんなじで取り留めがない。麗羅は心なしかドキドキしていた。緊張とときめきは表裏一体だ。自信にもそれがどちらなのかは判別がつかなった。わくわくしているのならいい、だったらまだ生きていける。


「つっつくぐらいでもいいのケ?」

「そうですね、それを動画配信すれば…多少は…。」


 そんなものでUMA が打倒できるなぞ否定したいのは山々だ。けれどまあ、実際映らなかったのであるし。


「配信は無理かもしれないけれどあの子は、私たちを知ってる。だったら何かアクションを起こせるかも。」

「あの子だって認めるんだ?」

「いいえ…なんと表せばいいんでしょう。あの子の残留した情報ですかね?」

「ふーん。」

 私的な推測ですけれどあの子の私情と思惑がUMAを突き動かしていったのかも―魚子だってそう言っていたじゃないか。


「人柱となったあの子の情報がどのくらい残ってるかで、崩し方は変わってくると思うわ。」

「まァったく厄介なもん生み出しやがって。魔法使いの老いぼれどもに叱られるどころじゃねェんじゃねーの?」


 怒られる所ではな済まないだろう。鳥子(とりね)が「なんとか」してくれることを祈る。彼女も今どこかで肩をすくめているに違いない。


「人柱?魔法?何言ってるんですか?」

「お嬢ちゃん、アンタはあのバケモノをネット配信やらで倒すンだよな?」

「ええ、それしか方法がないかと。」

「それじゃだめだよ。そんなんじゃあれは倒せない。あの子を直接ぶん殴ってやらないと。」 


 あの子の内に溜まっていた私怨。主体を喪った残留思念はやがて実存するために主体になる。あの子はあのタコの内側にいるのだろう。あの子と誰かが決着をつけなければ、否定しなければふざけた悪夢は終わらない。


「さっきから何言ってるんですか?理解ができないのですが…。」

 怪訝そうに彼女は問うた。


「そのままの意味だよ。」


「えっ!まだあの子があのUMAに変異したと考えてるんですかっ!?」 

「ありえる話なのよ。昔から、そういうお話しが残ってるでしょ?女性が鬼になったり蛇になったり、人は一応変化できる力を持ちえてたんだ。」


 悪霊を超越した魔なる存在。時たま人間と位置づけられた種族からそのようなモノが生まれてしまうことが多々あった。悪鬼と化した人物の怒りを鎮めるため人々は崇め、畏怖を抱いた。その怒りを鎮めるのは決まって太古の魔法使いと呼ばれ呪術を行使する生業の者。


 霊魂がこの世界に存在してるはずがありません。


 魚子のような人々は今のご時世たくさんいるだろう。それだ。それがいけないんだ。彼女は歪曲され、この世を汚染しているだけだ。虚像の皮を剥がして対面させるべきだ。


「彼女の穢れを祓わなきゃ。」

「また…だからあれは悪集したミームですよ。」テンプレートのような返答を頂いた。

「あんな大量の穢れをアンタに祓えるんかね?ありゃあ大変そうだなァ。」竹虎がうむむと唸る。 

「あれが怨霊だとかなんだとか今は置いときましょう。」

「いや、あれはどきつーい祟り神だよ。」

「ハンターは神秘主義に陥りやすいとお聞きしましたが、噂は本当だったようですね!」

「アー、ねーちゃん。ゴチャゴチャやってると死んじゃうゼー。」


 竹虎の待ったに魚子はふがふがと鼻息を荒くしたまま、不可解な動きを繰り出した。ヒステリックになるには条件が悪すぎた。トイレというシェルターはギシギシと崩壊しようとしている。


「ライラさん、あなたとは契約を破棄させて頂きますから?!―ひゃっ!」

 どうやら正当な判断はできるとみた。バイヤーの腕を引っ張りながら瓦礫を掻き分けながら、明るい方を目指す。辛うじて進める隙間があるのがありがたい。どこかの建物が被弾したらしく、振動とがらがらと芥が崩れる音がした。


 タコとして書き換えられるはずの破片共は鋭利なまま、柔い肌を傷つける。もしや「改竄」する能力は底をついたのか?タコだったらぬめぬめしていて多少不快感はあるだろうが…今の状況よりはマシである。


 なんとか体を引きずり出して、やや広い空間へたどり着いた。後ろにいた魚子へ手を貸し、携帯のライトを消す。わずかに漏れる外部の陽が視界を手助けする。

読んでくださりありがとうございます。

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