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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
未確認思惑《パラレルワールド分岐点》
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未確認思惑「無謀」

リアリティがないかもしれないです……。

想像力と妄想力の強さは必要不可欠ですね。

 ひりひりと頬が熱をもっている、ふやけた脳みその神経がピンと伸ばされた感じがした。やはりビンタは気付け薬にはいくらか有効だ。


「ん〜、お嬢ちゃん。勇気があるってのはいいことだ。前向きな気持ちもねぇ。だけどな、この状況で何も考えずに騒ぐのは愚かってもんだ。な?」


 子供を宥めすかすように妖獣人は諭した。しかし魚子(ななこ)は髪をくしゃくしゃとさせて唸っている。ついに正気を失ってしまったか?


「ネット配信っ!」

 さも打開策のように彼女は吠える。 


「UMAが負傷している映像を流せば、周囲へ弱点がある生物だと認識されるはずです。」

「こんなんでネット開いてる奴がいるカヨ?」

「ま、まあ…そうですけど。被害が及んでない地域の人ならどうでしょう?」


 このふざけた壊滅状態が日本全土に及んでいなければ、物見遊山に都会の狂乱をほくそ笑む輩がいるかもしれない。彼らにUMAが破壊できる代物として認識されれば良いのだ。

 ただし、幾人もの目に触れなければ。


「お前のケータイ転がっちまってるぜ。」


 無残な姿になったガラケーが視界の端で転がっている。パニックを起こした魚子の物だ。


「ライラさん、あなたの携帯貸してもらえませんか?」

「あたしもガラケーなんだけどなぁ。あと通信料がさ…。」

 ハンターの報酬なんてよっぽどな獲物を捕獲しなければスズメの涙である。

「いいから!た、たけとらさんは?」

「あー…えー、イイぜ。」渋々スマートフォンをとりだし、魚子に渡した。いい機種をお持ちのようだ。

「パニクって壊すなよォ、ソレさえしなけりゃいいや。」見る影もない姿になった携帯(ガラケー)をチラ見し彼はへらへら笑ってみせた。


 携帯がタコになっちゃえば壊れたのも使い放題してもバレないかな、なんて―麗羅(らいら)はあらぬことをかんがえる。「そいやさ」


「あたしたちはなんでタコにならないんだろうね?」

 この三人はタコにならず、いまだ人類の形を保っているのである。この廃ビルだって朽ちたコンクリを晒している。

「嫌がらせかなぁ。苦しみながら生きろってこと?まったくみんなして、あたしにひどいことするなぁ。あーあ!」

「何故でしょう?私たちが生産したUMAだから、とか?」

「倒してみせろって挑発されてたりしてなァ。」


 それぞれに因縁めいた理由付けをつける。どれも正解かもしれないし、そうじゃないかもしれない。人智を超えた領域へ達してしまったら残された者は憶測しかできなくなる。


「…チャンスとしていただきましょう!これでアレに傷をつけられる!さあ、ハンターの出番ですよっ!」


 相変わずの間抜けさで彼女は発破をかけてきた。そんなハイになった女性と鈍い爆音が天井から破片を落とす変な景色に麗羅は辟易する。ハンターの武器といっても大振りな物ではなくボーガンと防犯対策のような薄っぺらい凶器しか持ちえていないのだ。


 これが責任っていうやつなのか。重い、伸し掛る。このちっぽけな体では受け止められない。処理できない責任が、心を潰しにかかる。

 薬物が欲しいと脳が喚く。─しかし、素直に薬物でハイになれるほど脳天気な気持ちではなかった。


「ならちょっとそこらの自衛軍から大仰な武器をかっぱらってこないといけねェやさ!」


 ケラケラと笑い飛ばされて魚子はムッとした。

「では、ネット配信できるか試してみます!動画配信サービスに接続は、できましたし!」

「おいおい、オイラのアカウントで何しやがる。」

「竹やん、動画配信サービス使ってたの?」 

 東京のインターネットが繋がっているかはどうとして、彼女は窓辺によった。時折地面を揺るがすような轟音が足元をすくう。バイヤーでなくマスコミだったなら大スクープ映像になるのだろうけれど…。


 さあ、UMAを望もう。 


「え?」

 魚子が純粋な疑問符を口にした。


 スマートフォンのカメラに、画面に怪獣は映らない。人類の放つ爆弾は回りを浮遊していたマスコミのヘリコプターへ被弾した。メディアや国外からしたら、この国はとち狂ったと誤解されるだろう。


 集団ヒステリー。あるはずのないものを恐れ戦く姿は、傍から見たらとてつもなく奇妙で滑稽だ。


「な、なにこれ……。存在してな…―」


 乾燥した唇が異変を告げようとした折、真隣が爆撃にあったようだ。爆風がもろい建物を直撃し地震のように体が揺さぶられる。咄嗟に這いつくばるもめまいがする―魚子の咳き込みが聞こえる。


「いって〜!」


 雷よりもタチが悪い、携帯からひっきりなしに警報やらのアラートが鳴り出した。爆心地にいるような人々にとってなんら意味のないただの不協和音だった。


「やべーコッチにきやがったっ!」


 竹虎の驚異的な聴覚により、麗羅は脱兎のごとく下層へ駆け込む。こんな時ハンターをやっていて良かったと頭の片隅で感謝する。認知外の生命体から逃れる癖がついていたおかげで体が速やかに退避の行動をとってくれる、壊れたコンクリの合間から地下が顔を出している!割れ目から伺えるのは簡易なトイレだけだった。


 何も察せないぐずの魚子を引っ張り階段を駆け下りる。獣人になったつもりで段を飛ばし硬い地面へダイブした。熱い爆風とけたたましい音がしっちゃかめっちゃかにする。


 ―地上の建物が破壊された。それだけは理解出来た。我に返るや雪崩込んだコンクリの破片とすすぼこりが空気を汚染する。咳き込んで顔面に吹きかけられた埃を払い、新鮮な空気を求めて喘ぐ。


「トイレがシェルターになるなんてなァ。」


 視界がましになった頃合いで竹虎がドアを破壊した。暗がりの中地上を揺らす爆音だけが現実だった。その度にパラパラと瓦礫が蠢き、魚子のすすり泣きが酷くなる。


 錯乱していた。煤やらに塗れ体を震わせている。その瞳はここにあらずかと言ってどこにもいない。空虚だ、何もない。


 三人寿司詰め状態になっているのに空虚だ。皆外敵から息を潜めているかのように静まり返っている。そんなもの気休めでしかないのに。


 麗羅は無から逃げ出したい一心で携帯電話を開く。微かに視界が広がった。

(―混沌とした思考回路を正さなきゃ。()()()()()()()()()()()私が思い描いていた破壊願望の理想に、どうして怖がらなきゃいけないの。)


 泣きべそをかいている女のせいで調子をつかめない。赤ん坊や子供の泣き声と等しくこちらまで不快にさせ、不安にさせる。


「泣くんじゃないよ。うっとうしい。」


 空っぽになった魚子へ冷酷な命令を下す。隠し持っていた金物へ指が伸びる。


「仲間割れなら他所でやってクレや。」苛ついた獣人が釘をさしてきた。

「はあ、イライラするの嫌いなんだから〜。ナナコ。泣き止みなよ。地上で生き残ったのはどんくらいだと思う?」

「サアなぁ。もう誰もいないかもナア。」

「じゃあUMAに関する専門知識を持った人は?」

「オレに聞くない。んー、このチンチクリンしかいねェんじゃねーの?」


 彼はコミカルに笑った。


「生き残ったのはアタシたちだけ、鳥子も、他のごちゃごちゃうるさい奴らもいない。頼りになるのはアンタだけ。地球最期のバイヤーさん、あんたがしっかりしないと私たちは滅ぶんですけど。」


 言葉の綾だらけの小芝居を二人で繰り広げ、役立たずのバイヤーを元気づける。

「ら、いらさん…。」


 涙でくすんでいた黒目が正気の光を灯す。芯のあるヒトの目だ。

加筆修正しました。少しわかりやすくなったかな、とは思います。

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