星神と鬼神 5
詮索したとしてもこの人ならざる者がきちんと答えはしないだろう。
「どうすればいいかなぁ〜」
「結界をすり抜けられればねー」
壁をすり抜けるとなると、抽斗の少ない辰美にしたら昔話の隠れ蓑やアニメのひみつ道具しか思いつかない。
(隠れ蓑って透明になるんだっけ?)
「無理な話なんだよ。あきらめちゃえば?」
「鬼神さん消えちゃうよ」
「別に良くなーい?人ならざる者ってそーいうのだし、気にするだけムダじゃん」
やはり思考回路が人とは異なるのだと再認識した。この少女といると思考が引きずられそうだ。
「分かったわ。話にならないし、私は帰る」
サジを投げて、空が白み始めたのに気づく。早く帰ってシャワーでも浴びて、寝るのが一番だ。
「え〜!つまんない!遊ぼーよっ!」
腕を掴まれて猫なで声で詰め寄られる。遊ぶ?
「ヤダよ!あたしゃ帰る!」
ズカズカと歩き出して「……」
「また会えるって言わないの」
「なに〜?さみしいのぉ?素直じゃないなァ!辰美ちゃんの気持ち次第だよ。」
にかっと少女は嬉しそうに言う。
「波長が合うといいね」
「その波長ってさ─」
振り返ると白々しい少女の姿はない。路地の先にもどこにもいない。最初からいなかったように。
鬼神が言っていたように、幻影と会っているのだろうか。人ならざる者の不確かさに触れ、辰美は薄ら寒さを感じた。
風が強く吹き出してシャツをはためかせる。背筋がゾッとして早足で歩き出した。
二日後になり、辰美はそぞろに神社に向かう。
天津甕星の約束など無いに等しい。ただ鬼神の様子を見たくなって、足を運びたいと思った。
──消えていたらやるせない。
さらに天の犬に近づいてしまうやもしれない。
辰美は懲りずに逢魔が時にサンダルを履く。まだ外気は生ぬるい。絶好の人ならざる者と会えるチャンスだ。
「あ」
階段に少女が腰掛けて、ぼんやり山並みを眺めていた。──天津甕星だ。
女子中学生より幼いように見える。少女特有の華奢な腕が夕日に照らされて、実態感がある。
幻影には見えなかった。
「来てくれたんだ。」
「ん〜…まだあきらめてないの?」
振り向くと天津甕星は嫌そうに顔を歪めた。歯をむきだして、イーッと抗議した。
「え、けど私に会いに来たんじゃ…」
「わたしはどこに居テ、どこにも居ないんだよ?」
「うーん。あ!待ってて!」
ドタバタと部屋に戻ると、とある物を手にしてやってくる。
紙で作った拙い御札だった。
「なにこれぇ??」