星神と鬼神 4
夜中の涼しさに起きていたいと足掻いてしまう。寝ないと昼間に熱中症になってしまうのを自覚しながら、しばらく路中にある駐車場のブロックに座っていた。
生ぬるいコンクリートの感触が不快だ。大学生の夏休みとはいえちゃらんぽらんでランチキな日々を送れるわけではないみたいだ。
(トモダチ作ろーとしないツケかな…)
腰を上げて自宅に帰ろうと、路地へ向かう。
細い道を歩いていると赤子のような叫びが聞こえてきた。猫の喧嘩か、静寂を引き裂いて騒々しい。
まさか、の思考に引き寄せられる。もしも赤ん坊だったらどうする?もしも人ならざる者だっら?
見るなと言われたら見てしまう心理に近く、足を早め声へ接近する。
──街灯の下で少女が野良猫に威嚇されていた。
毛を逆立ていた黒猫は辰美に気づきスタコラサッサと逃げていった。
「逃げちゃった!あーあ」
「野良猫、あんなに威嚇してるの初めて見た」
少女─天津甕星は口をとがらせる。
「あと一息だったのにっ!」
「撫でようとしたんだ?」
「食べようとしてたんだよぉ〜」
「えっ?!ね、猫を?!」
──猫が来ないと、自分が辛いんだ。
明朱を探していた時期に越久夜町の野良猫が減った噂が立った。あれは冗談ではなく、天津甕星が本当に猫を食していたのだからだったのだ。ゾッとして、辰美は後ずさりした。
(あれ…?私、その言葉どこで聞いたんだろ?)
「あははっ!人間ダッテ畜生食うくせに!ねえねえ?辰美ちゃんは何してたの?ヒミツな夜の探検?」
人畜無害な笑顔を浮かべ、すり寄ってくる。
「…鬼神さんと会ってきたの。天津甕星は知らない?藤原 宗勝。羊なる者…だっけ。」
少女は首を横に振った。
「ううん?しらなーい。わたしは不完全だもん」
「え」
「魂をバラバラにされたんだァ。ミンナに拒絶されてさ。拒絶されるっていうのはね?神や人ならざる者にとってはとーっても危険で惨いのなんだよ」
「そ、そっか…」
「だから人ならざる者は必死に受け入れてもらおうとするの」
(う、なんか他人事じゃないなあ)
昔より拒絶されるのに弱くなっていると実感する。─昔の、越久夜町に来る前の記憶が曖昧で怖くなってきた。
自らは人であるはずなのに。
「不完全だから頭がすっからかんだし、なにより寄せ集めのガラクタのわたしは真の天津甕星じゃないんだ」
「うーん。そうかぁ」
「フフ。落胆しないで。ケド、わたしは天津甕星だよ。寄せ集めでも天津甕星って存在なの。わたしが天津甕星だと思ってれば本物になるよ。辰美ちゃんもそうでしょ?」
「は?!私は佐賀島 辰美だよっ」
「でしょーっ」
そうして、にーっと笑ってみせた天津甕星にしたたかさを感ずる。
「あのさ、…。鬼神さんと会ってくれるかな。あの人に希望を抱かせたいのよ。お願い」
手を合わせて懇願してみせた。すると
「いいよ。辰美ちゃんのお願いなら聞いてあげる。でもでも残念だけどわたしは境内に入れないよ。」
あっけらかんとした様子で言うと、指を銃の真似をして頭部に突きつけた。スッと指が輪郭を破って、砂嵐の如くざらついた。
「境内の結界は人しか入れない仕組みで、聖の世界なんだ。あとペナルティで神のテリトリーには入れないんだぁ」
(ペナルティってなんなのよ…)
ついつい更新してしまいます。
でも不思議と楽しいです