星神と鬼神 2
「元干渉者だから知ってるンだぁ〜〜。あ!今はこの時空に縛り付けられてるから勘違いしないでね?」
干渉者。危険な香りがする響きの存在。天の犬──坐視者。たくさんの知らない者たちが現れる。
「なんなの、それ…」理解したくなかった。少女の赤い瞳は悪戯めいて、意地悪に笑っている。いやらしい視線だ。嫌いだった。
「ペナルティだよ」
「よくわかんないけど、そうなんだ」
二人はしばしジメッとした熱風に吹かれた。辰美はこの人ならざる者が何のために現れたのか聞く余裕もない。疲れていた。
「何をって?辰美ちゃんが良いようにされてるのが見てて耐えなかったから──アノ犬に惑わされるなよ?」
化けの皮が剥がして彼は言う。(思考を読まれてる?!)
「日が暮れちゃう!またねっ!また会えるの楽しみにしてるね!」
パタパタと無邪気に走っていくのを傍受しながら、日が山際にあるのを自覚する。日が沈んでしまえば辺りは暗くなる。なんたが薄ら寒い。
橋を慌てて渡りきり、「犬人間。あれホントなわけ」
「あの野郎を信じるな」
背後から現れた犬と人間が合わさった人ならざる者──犬人間が不機嫌そうに吐き捨てる。
「どっちも怪しいけどねえ。うーん…」
「俺は全てを見通せる。あいつはどうだか」
腕を組み、彼は浮遊している。灼熱のアスファルトには着地したくないみたいだ。
「それって答えてなくない?」ジト目をするもやれやれとはぐらかされた。
「古着屋には老人用の服しかねーぞ」
「ムッ。やな事いうわね」
「行ってみればいいさ」
徐々に透明になっていくエベルムにため息がでる。皆はぐらかして真相は語らないのだから。
古着屋にたどり着くも、閉店間際、シャッターを閉めようとしているおばさんと鉢合わせする。
「うちの店は老人用の服しかないわよ?」
「えーっ!そんな…」
エベルムの予言が的中し、ガックリと項垂れる。
「若者のファッションといえば隣町よ。流行り物がたくさん売ってるわねえ…そうそう、御厨底町で全国初のショッピングモールができるらしいじゃない。そこで買った方がいいわよ〜」
「は、はあ……そうなんですね…」
(ショッピングモールって全国にあるんじゃ…?)
今いる時空はどこかおかしな点があると、辰美は受け止める。何かがおかしいのだが全体像がつかめないのだ。
おばさんに礼を言うとトボトボと帰る。
次の日。夏が深まり暑さが身に染みる。
アブラゼミのきつい音を聞きながら、ベランダでぼんやりと日が暮れるのを待つ。昼間は暑くて何もする気になれない。
ぬるい水道水を飲み、喉を潤す。
ふと思考に鬼神の姿が浮かんだ。天津甕星が現れた事を報告し忘れていた。
──鬼神が希望を見いだせるかもしれない。
「うん、行ってみるか」
人ならざる者に会うのなら丑三つ時に決まっている。夏休みのお決まりである肝試しに行くのだと勘違いされそうだが、懐中電灯を片手におっかなびっくり歩く。
夜は比較的涼しい。山奥なのだからそうなのだが、関東であるのは変わらない。じっとりとした湿度に汗が滲む。
鳥居の前に佇み、肝試しの先客は居らず奇妙な静けさが支配している。緊張しながら潜ると誰かが立っている。
民族衣装に身を包んだ少女。この神社の主である鬼神だ。
「やあ、君の匂いがしたと思ったら」
「え。そんなにクサイかな」
汗をかいた服を嗅ぎながら焦る。女子としては臭うと言われるのはつらい。
「魂のにおいだ。まあ、現代人は洗剤やら香水やら色んな匂いがするものだが」
「た、魂」
「…で。なんの用だい?会いに来た理由があるはずだ」
興味深そうに鬼神は詰め寄り、奇妙な瞳を細めた。
「天津甕星って名乗る人と最近出会ってるんだ。」
お久しぶりです。
メンタルに負担なくゆっくり更新していけたらいいな、と思います。