星神(せいじん)と鬼神 1
逢魔ヶ時。徐々に上がった最高気温に比例した、鮮烈な夕日がアスファルトを照らしている。早々とセミが仰向けに転がっているのを目にして、季節が過ぎ去ろうとしているのを目の当たりにした。
七月。
辰美は町唯一の古着屋に向かっていた。安くて良い上着がないか、と。
それは大家さんに腕を心配されすぎているのと、見水に越久夜町に古着屋があるのを聞いたからだ。
暑い昼間を耐えているといつの間にか夕方になっていた。閉店時間ギリギリに行く事になってしまったが、のんびりした時間が流れている町だ。大丈夫だろう。
久夜川という町を分断している川の橋を渡ろうとした。
橋の真ん中あまりに人がいる。黄昏て夕日を眺めているのだ。怪しいを通り越し、不気味である。
町外にある私立中学校の制服をきた少女──だから、当然中高生だろう。
それにあの制服には見覚えがあった。
殺されてしまった中学生の着ていた制服─加えて衣舞の妹の。
歩きながら明朱だろうかと思っていると、違う人物だと分かる。天津甕星と自らを名乗った少女だ。
「待ってたよ〜!」
辰美を見ると、無邪気に笑う。
「いつでもいるわね。」
「え〜〜っ!人界と異界の境だから会えたのっ。でないと人界に紛れ込めないよ」
ぶりっ子する天津甕星にうんざりしながらも(前はフツーに会えたよね?)と不思議がった。
「出会いやすくなってるんだよ。これも時空のお導きでしょ?ねえねえ!あの犬と仲良くしてるのぉ〜?」
「あの犬?あの犬人間?」
「そ、アイツと仲良くしてるなんて悪趣味だね。良くしてくれるんでしょ?」
(いや…そこまで仲良くしてないな…)
仲良しというよりは一方的に話しかけられているだけである。
「そーそー!あの犬が良くしてくれるのには裏があってね?知ってる?」
鋭い牙を隠そうとしないで少女は破顔する。言葉とは乖離した仕草に恐れが生まれた。
まるで楽しいといったようで。
「知らないよ」それだけ言って、立ち尽くした。
「そっかあ〜、これまでもそうだったんだよ?そーして何度も時空を壊してきたんだぁ」
辰美はなんとも言えぬ気持ちになった。彼女が真実を話しているのかと、判断力がない。
「あの犬はね、ヒトをそそのかして時空を壊させるんだよ。小林ミドリっていうオンナの先祖はそうして時空を壊したっけえ」
「な、何を言ってるの?!緑さんのおじいさんは時空を救うためにっ!」
感情を顕にしたこちらを、天津甕星は待ってましたとニタリと笑った。




