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辰美、打ち明ける 4

「なになに?とぼけてるの?」

 突飛な内容のあまりに、きょとんとした見水が問うてきた。

「本当のハナシ!もしもこの時空…越久夜町を幸せな結末にできなければ…」

 包帯を解き、腕を見せつける。「こうなって、最後は人でなくなっちゃう」

「その手、何かに憑かれたの?!…本物だよね?」

 ソッと触り、偽物の毛皮ではないと悟ると手を引っ込めた。

「うん、変化してる。私の体が変わっていってる」

「ニセモノには見えないし…本当に…違う世界から来たんだね?」

「うん。けれど私は前の世界でもアナタたちに会ってる」

 う〜ん、と半信半疑で唸る見水の横で、緑は静かに真剣だった。

「それが衣舞(いま)さんの妹さんの…」

「そうなんだ。──最初は初めて会った緑さんや見水と違うんだって思ったら、きつかったけど今はそんなの関係ない。自分が人でなくなるのも怖いけど…二人が消えてしまうのも怖い…」

 朝から考えた結果だった。辰美は考えに考えて、この答えにたどり着いたのだ。

「辰美…」

「手や体が全部こうなってしまう前に、時空が壊れてしまう前に…何事もなかったって笑いたい」

 緑の顔は常日頃と変わらず無表情だった。怒りも哀れみもせず、じっとこちらを見据えている。だがその瞳には複雑な光が宿っていた。

「信じられないけど、私は辰美を信じるよっ。だって友達だもん。友達っていうのも変かもしれないけどさ!味方だよ!」

「ありがとう」涙ぐんで不格好な笑みを浮かべる無様さに、彼女たちは多少安堵したようだった。ひどい顔をしていたのだろう。

 ──とても嬉しくて、ささくれた気持ちが報われた。辰美は流れていく涙をこらえる。

「辰美さん、私はあなたが押し付けられている責任を肩代わりできる程聖人じゃない。でもあなたを裏切るような事はしたくありません」

「私も人並みの事しかできないけど、辰美のために何かできたらしたいよ」 

「…うん」見水からハンカチを渡され、涙を拭いた。

「この前のように何か解決できると良いですが…」

「気持ちだけでも嬉しい…ごめん、急に打ち明けて」

 あれだけ荒らんでいた心や脳が凪いで、正気が戻ってくる。自分は泣き腫らし恥ずかしい事をしていたのだなと、今更歯がゆくなってきた。

「そうだ!今日クッキーを持ってきたんだ。ゆっくりしながら食べよう?」

 気を使ってくれている事に感謝して頷いた。

「今日は紅茶にしてみたんです」



 三人でのほほんとお茶会をし、世間話や他愛もない話に花を咲かせた。久しぶりに人らしい時間を過ごした気がする。クッキーは少し硬めで食べるのが大変だったが、見水が頑張って作ったのだと噛み締めて頂いた。

 夕方になり、もてなしてくれた店主に別れを告げ、帰路につく。涼しくなり始めた矢先の風が心地よい。夏の虫が草木の合間から鳴いていて、ノスタルジックな気持ちにさせてくれた。

「またねー」

「うん、じゃあね」

 見水とも別れ、アパートへ向かう。

 ボロアパートは柔らかい夕日の名残を浴び、ぼんやりとしていた。錆び付いて劣化した階段をのぼり、ドアを開けた。


「よう」天の犬が玄関で待ち構えていた。


「何よ」嫌そうに警戒しながら言うも、彼には効かない。

「打ち明けた?なぜだ?」

「見てたんでしょ?今更なによ?」

「裏切られるかもしれないのに?」天の犬はニヤニヤ顔を貼り付けたまま、壁に寄りかかっている。その貼り付けたニヤニヤは嘘なのだと一目で理解した。

「あの人たちは裏切らない」

「そーかい?本当にそう言えるか?友情ごっこ、俺は嫌いだね」

「な、なによっ。私も友達ごっこは嫌いだよ!」

 二人は無言で見つめ合って、しばらく睨み合った。

「ふうん?なれば…絆されたのか?まあ、いいじゃないか。旅は道連れだ。行けるところまで行ってみればいい。──ああ!危ういねえ〜あー、見てらんねえよ!」

「いきなり何よ」


「正直に言えば気に入らねえ、なぜバラした?」  

 彼は腕組みをしてこちらを冷たく睥睨した。  

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