辰美、打ち明ける 3
「…アンタは…」
「パラレルワールドではありがちだよ、辰美。だから…落ち着いて、息を吸って」
反論する余裕はなく、言われるままに深呼吸する。状況は良くならなかった。だが少しだけ頭に空気が入った気がした。顔を深くうずめ、さらにうずくまる。
「私…もうダメかもしんない」
「あたしがいるよ」
辰美は泣きじゃくり首を横に振った。
「…。誰も信じたくない…」
「信じないと壊れちゃうよ」
「何の用なの?ひとりにしてっ!」顔を上げ、感情を吐き出すかのように投げやりに怒鳴った。怒鳴られた巫女式神はやけに平然としている。
「これだけは言うよ。─鬼神が消えかけてる。…ねえ、あたしがついてる、独りで抱え込むのはやめるんだ。また、会いに来るから」
そう言って、この世の者でない子供は路地に消えていく。それを眺めていたが、やがて大人気なく泣き出した。
「う、う」
(──自分ではどうしようもない。)
独りで抱え込むのはやめるんだ──巫女式神の言葉が反響している。甘い囁きにも思えた。
あの子供や誰に頼っても何にもならないだろう。けれど脳裏に浮かんだのは『小林骨董店』の店主だった。
どこまでも、情けない。自分に失望しながらもすがるしかなかった。
(緑さんに打ち明けよう…)
辰美は決意して涙を拭った。
午後十五時。散々泣き腫らした目や皮膚が痛いが、泣いてぶちまけたおかげで心做しかスッキリとさえしている。周囲の目を気にして腕に包帯を巻いてみたが、反対に痛々しくなってしまった。
バッタリ出くわした大家さんは腕を見て酷く心配していたし、毛を剃った方が良いかとも思うが今はそんな気持ちにもなれない。骨董屋の僅かに上がったシャッターをぬい、辰美はガラス戸をスライドした。
「緑さーん、来たよ」
「た、辰美っ!」親友の見水が何故か店内で待ち受けている。慌てふためいて駆け寄ってきた。
「見水…?」
「びっくりした?ごめん」
「私が呼んだので、見水さんには罪はありません」
椅子に座っていた緑がしれっと言う。唖然としたが責める気にもなれなかった。
「そ、そう。別にいいけど…」
「心配したんだよっ、何かあったの?!」
包帯が巻かれた腕を見ながら彼女はさらに詰め寄ってきた。
「そうですよ、夜中に」
「…。ごめん、心配させて」二人に気にかけられ調子を崩される。しかし決意は変わらなかった。
「私、二人に隠していたんだ。──違う時空──違う越久夜町からきたって」
久しぶりになりました。