山の女神と越久夜町の昔日 8
「はあ…気をつけなかったらどうなるのよ?」
「全てが水の泡さ。むしろ泡が弾けて時空が、町が壊れるかもしれない。加えて町を形作っているバランスがおかしくなるだろうな」
辰美は巫女式神を思い浮かべた。あの子は一体どのくらいの可能性を秘めているのだろう、と。
「越久夜町を形作っている時空は貴重なんだ。分かるか?」
「分からない」曖昧に首を横に振る。
「ふん。最高神の時空を把握している割合が半分を超え、原始の状態が多く残っている。山の女神が長く治めてきた年月が支配力と直結しているからだ。──貴重なのはそれだけじゃない。時空がツギハギなんだ」
「うーん。ツギハギねえ」
時空がツギハギとは想像しづらい。継ぎ足した布のようなイメージだった。
「無理やり続いてきた痕跡が───悪い面もあるが、それが希少価値を生んでんだよ」
「価値って…嫌な言い方ね。だったらいいんじゃないの?続いてるんだし、私がハッピーエンドに──」
「いいや、終わる星のように凝縮が起きようとしている。地球の神の手の元に還ろうとしてるのさ」
遮り、彼はピョンと畳に着地した。
「山の女神のキャパシティが越え始めてる。お前も関係してるぜ。他人事じゃねえんだ」
──辰美さんが越久夜町にやって来た事、何かが変わったのを私には…対応できるほどの神力がない。
春木はそう言っていた。なら、どうすればいいのだ。
「止めたければお前は、女神を奮い立たせろ。もう一度町を完全に支配できるまでの神力を取り戻させろ」
「ど、どうやって?!」
「おっと!知りたい事は三つまで。追加プランだ」
「えーっ!三つしかないの」
ぶうたれる辰美に天の犬はあからさまに溜息をつき、呆れ返った。「贅沢言うなよ」
確かに仏の顔も三度まで、とは言うが。(コイツが仏さま?ありえな…)
「…今は…すごく疲れてるからイイヤ…どうせまた来るでしょ?」
これ以上頭を動かし、天の犬の話す事実を整理できるほどのエネルギーがなかった。昨日から矢継ぎ早に物事がかけぬけていく。それに空腹である。
「なんだそれ。まーそうだな」
「夜ご飯作らなきゃ…」よろよろと台所へ向かう。眠ってしまいたいが空腹が勝るのだ。
「人間は大変だな~、腹が減ったり眠くなったり」
「アンタも手伝いなさいよ」
茶化してきた奴にズイとフライパンを渡す。きょとんとして、フライパンを受け取ってじっくりと眺めた。
「卵焼きくらいなら作れるぜ」
これにて「山の女神と越久夜町の昔日」は完結しました。
セリフが多くててんやわんやしましたが、この話を無事終わられてよかったです。