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山の女神と越久夜町の昔日 4

 急いで二人は町にある公民館と併設された小規模の公共図書館へ向かい、道を歩いていた。アスファルトの地平に蜃気楼が揺らめいているのを眺めていると、視界に紫色が入ったのに気づいた。


(あ…)

 細い路地に続く入口付近で不思議な、紫色の和装をきた子供が佇んでいた。鋭い日差しに鈍く鈴が光り、生気のない目付きがこちらを見つめている。──童子式神ではない。あの式神にとても似てはいるが、あの子供は鈴をつけてはいなかった。

 ──あの式神は、親友の衣舞(いま)の妹である明朱(あす)を探した時に対峙した式神。


「どうしました?」

「あ、あのさ、あそこに式神がいるんだ」

 緑が怪訝そうな顔で問うてきた。静かに式神がいる場所を指さそうとしたが─もう式神の姿はなかった。

「あれ?」

「暑さで白昼夢でも見たんじゃないですか?」

「ええ~!いたよ…多分」

 再び式神がいないか当たりを見渡すも、二人以外道路には誰一人いなかった。



 図書館の冷房に当たって、クールダウンしていると緑と司書がこちらに歩いてきた。

「書庫を見せてもらえるそうです」

「小さいから大した物はないけれどねえ。見つかるといいわぁ」おっとりとした女性の司書はにこやかに言う。

「ありがとうございますっ」

 辰美が礼を言うと、いいのよ~とさらにのほほんとした。

 三人で書庫へ入り郷土資料を漁る。書斎で見かけたような本がズラッと並び、目新しい物はなかった。越久夜町の古地図を手に取っていると、緑が司書に尋ねた。

「これより古い書物はありませんか?」

「いいえ。五十年前の以前の物はないのよぉ。ほら、あの出来事で残されてなくて。五十年間の間に出発されたのはあるんだけどねえ」

「そうですか…」緑がわずかに落胆する。


(なんだろう?あの出来事って?何があったんだろ…五十年前に)


「隣町の、大学の図書館なら何かあるかもしれないわ」

「そ、そうだ!大学なら」

 古い書物がたくさん並んでいたのを辰美は思い出し、司書に感謝した。「緑さんも関係者として入れるかも」

「それは良かったです。辰美さんが曲がりなりにも大学生で」

「な、なによっ」

「うふふ。暑いからバスで行くといいわね。歩いたら茹で上がっちゃうわ~」

 お節介にもバスの時刻表をもらい、二人は図書館を出る。図書館の自販機の前に偶然にも見知った人物が立っていた。

「あ、春木さん」


 天道(てんどう) 春木。白いレディーススーツと対照的な褐色の肌。鋭い鷹のような瞳。悪い魔法使い──星守(ほしもり)を退治する際に協力した妙齢の婦人である。浮世離れした雰囲気をまとい、なにより麗羅にどこか顔つきが似ているのだ。

 彼女は自販機からお茶を取り出すと、こちらに気づいたようだった。


「あら、辰美さんと小林さん。どうしたの?こんな暑い日に」

「これから蛭間野町に行こうと思っていて、ね。緑さん」

 すると春木は少し顔を曇らせた。


「今はやめておきなさい。隣町の神々がこちらを、悪い魔法使いの件に関わった人物にも警戒しているのよ。あんな事があって、こちらが隣町の均衡を壊そうと思われてる。私はこれから交渉に行くの」

「どうして春木さんが?」人か怪しげで町の重要な立ち位置にいそうな有屋 鳥子なら分かるが、彼女もそうなのだろうか。


「私が──山の神だからよ」

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