彼らの痕跡 2
夏の通り雨が去り、眩い日差しがアスファルトに注ぐ。夕立には少し早い雷雨だった。
午後三時。辰美は廃れた商店街の骨董屋で、掃除を手伝っていた。客は来ないため、店主の緑がたまには店を掃除しようと言い出したのだ。
ハタキを手に辰美は不気味な日本人形を見ていると、緑がポツリと言う。
「私の祖父は、越久夜町の祟り神について調べていたそうです。 」
「祟り神って、あの地主神の神社の?」
「ええ、書斎にあった手記にありました。」
チリトリを元の場所に戻し、彼女はこちらを見てきた。
「緑さんのおじいさんって、謎に包まれてるよね。」
「まあ、不思議な人ではありました。でも子供の頃は私と遊んでくれたり、色々な昔話などを教えてもらいましたね。記憶が曖昧ですが、越久夜町について調べていたのは覚えています。 」
「緑さんが子供の頃から調べてたんだ。」
「いつからは分かりませんが、母も一緒になって調べていました。それを父は良く思っていなかったのですが…今思うと微笑ましいです。」
無表情ながらもわずかに温かさがにじみ出る。緑にとって、いい思い出なのだろう。
「へー…そっかぁ、じゃあ、おじいさんっ子なんだ。」
「まあ、そうなりますね。両親が死んでから、私を育ててくれましたから。…鬼神と名乗った少女はきっと、確かに祟り神なのでしょう。」
そう言うと、彼女はレジの横にある椅子に座った。
「町には祟り神の伝承がいつからは不明ではあるけれど、古くからあると書かれていましたし…手記にまるで、見てきたかのように物事が書かれていました。祟り神が、祟るまで。」
「え、じゃ…緑さんも、鬼神が異国の民だった事を知っていたの。」
「はい。読んでからですが…祖父は彼がどんな人物で、何を崇拝していたのか─調べていました。」
衝撃だった。辰美が体験してきた事柄をなぞるように、祖父は手記に書いていったというのか?─祖父は一体何者なのだろう?
「ど、どうして」
「何の神を崇拝していたかまでは分からなかったようです。辰美さん、鬼神の少女に会いに行ってくれませんか?」
「えっ」
「祖父の痕跡を知りたいのです。鬼神は祖父に会っていたかも知れません。」
お願いしますと頭を下げられ、困惑する。
「いつ会えるか分からないよっ?それに」
「いつでも大丈夫です。嫌ならば、断っても構いません。」
「そんな!断らないよ!…分かった。地主神の神社に、明日行ってみるね。」
すると死んだ眼にわずかな光が煌めいたのを、辰美は見つけた。なんだか嬉しい、と不思議とやる気になる。
「ありがとうございます。」
「いいよ〜!緑さんのお願いだもん!」




