越久夜町の偽神話 5
「辰美さん、諦めないで欲しい。この町を救う事を。彼女に頼まれた事をないがしろにしないで欲しい」
「えっ…?リネンさん…?」
驚いてリネンを見つめるも、彼女は何事もなかったかのように「さ、私はもう行こうかな」と零した。
「あの、リネンさん、さっきの…」
返答はなく、じゃあとジェスチャーされる。問い詰めたとしてもリネンはきっと語ってはくれないだろう。辰美は追う事はせず、見送った。
「…家に帰ろ…あ、自転車」
仕方なくボロアパートに帰ると、喉が渇いているのに気づく。あまりに目まぐるしくて喉の乾きすら忘れていた。蛇口をひねり、コップに水を注ぐ。
(星守とは会えずじまいだったな…)
テーブルに水道水の入ったコップをおき、なんとなく眺める。水の入ったガラス越しの景色を見るのは心地よい。
(リネンさんと話した時よみがえった記憶もなんだったんだろう?)
不思議な事にコップの向こう側で巫女装束を着た子供が見えた。ツリ目気味の赤い目をした…四歳くらいの女の子だろうか?
彼女と目が合った。辰美はいきなりの事に身を固くしていると、トントンと窓ガラスをノックする音がして我に返った。
「やあ、また来たよ」
そちらを見やると、先程撃たれて消えた巫女式神がいた。傷口は塞がっており──何より巫女装束は着ていなかった。
「撃たれたのに元気だね」
渋々窓を開けて、巫女式神と対面する。彼女はニカッと笑ってみせた。
「あんなの石ころと一緒だよっ!」
今回はかなり短めです。




