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越久夜町の偽神話 3

「──ソイツは誰だい?」


「えっ?」

 背後を見やると、悪戯にニタリと赤い瞳を歪ませた、奇妙な和装の少女が佇んでいた。水干ともまた異なる不気味な赤紫の装束。この前に見かけた人ならざる者にとても似ている。

「ネーハ。久しぶりだなっ!」

 嘲笑うかのような、懐かしむような口調で、しかし快活そうに彼女は言う。

「だれだ?お前は、私と会った事なんて一度もなかったはずだが」


「…辰美、これからちょっとお話しよう?」


「辰美さん、ダメだ!この者は──」

「うるさいなァ。黙れよ、護法童子(ごほうどうじ)風情が」苛立ちと殺気を含む声音に、辰美とネーハは立ちすくむ。

「な、何を」

「は?分からないワケ?口出しすんなって言ってんの」

「──分かった。ネーハちゃんに何もしないで、話を聞くから」

 一触即発なところを辰美は割り込む。人間がいる世界で二人が戦ったら、どのような影響が出るか分からないが…末恐ろしさだけは理解できる。


「そっか、辰美の言う事はキクヨ。──じゃあ、行こうかっ!」

 スタスタとお構い無しに歩き出した少女の後を追う。ふいにネーハをみやると、緊張した顔をして佇んでいた。

『辰美さん、気をつけて。彼女の言う事を信じないでほしい』

 テレパシーか、脳裏にネーハの声が響く。少女はよほど危険な存在なのだろうか?

 疑問に思った瞬間、視界が真っ暗になった。「わ?!」

 瞬きをして目眩や失神では無い事を確かめていると、刺すような日差しが降り注いでくる。慣れない視界に慌てていると、空気感に違和感を覚えた。


 ───越久夜町にいる。

 隣町の蛭間野町から望める小さな山々ではなく、山奥の辺境にいる。


「なにこれ…瞬間移動?」

「ああ、()()()にはできるんだ。こうやってどこにでも行ける」

「人ならざる者って便利だね」

 目が慣れてきて、辰美は蜃気楼がゆらめく路地を眺めた。人ならざる者の能力には舌を巻く。

「あんたもそうだろ?」


「いやいや、アタシは人間っ!…で、話って?」

「こっちこっち」と相変わらずのマイペースさで少女は歩いていく。

 越久夜にある橋だった。澄み渡った清流がキラキラと輝いている。

久夜川(ひさやがわ)、キレイだよな!あたしも良くここから眺めてたんだ」

「は、はあ。アナタ、この町の者なの?」

「ああ、この町で生まれたんだ!パラレルワールドの、ね」

(境遇が似てるのかな?)辰美もパラレルワールドの異なる都心で生まれ、この越久夜町にいる。彼女も孤独感に苛まれているのかもしれない。 

 

「あたし、本当の名前は巫女式神っていうんだぜ」

「巫女…には見えないけど」

 赤紫色の装束からは巫女要素は見いだせない。巫女というのは世にいう白と赤の袴姿だ。

「いいだろ?大切な人にそう名付けてもらったんだ〜。えへへ」

 純粋に笑った巫女式神の表情から、真に嬉しがっているのだと察する。けれどどこか壊れている。そんな嫌な気色がした。

「巫女式神、…さんはなんの用で私にお話しにきたの?」

「内緒の話を教えてあげたかったんだよ」

「内緒の?」

「ネーハも、多分越久夜町の皆が秘密にしたくてしたくてたまらないお話を特別に教えてあげたくてさ」

 純真無垢な顔つきからニタニタと真意の読めない笑顔に変わる。どろんとして、煮詰まって、古びた池のような瞳だった。

「あんたからは色んな気配、たまに干渉者の気配がする。たくさんの匂いが混ざってんだ。だから、安心して打ち明けようと思う。それに」

ポケットを指さした。

「ソレ、持ってるってコトは知ってんだろ?」

ブローチに似た土器の存在を指摘され、戸惑っていると「知らないのか?」

「何を?」


「越久夜町のはるか昔の、神話もどきだ」

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