悪い魔法使いと越久夜町 30
「まさか、本当に」
三ノ宮は顔馴染みなのだろう。絶句して後ずさった。
「三ノ宮 妙順、この、星守一族の末裔に盾突くのかっ!──おいっ!式神!コイツの喉をかっ切れ!」
「君の言う式神とやらはこれか?」
リネンが主と同じくがんじがらめに縛り付けられた式神を吊るし、楽しそうに見せびらかした。
「お前…」
「主さま…っ」
式神はすまないと俯いてしまう。その状況にリネンはニヤリとあくどい笑みを浮かべた。
「どうする?悪い魔法使いくんよ。」
「諦めよ、人間。」
歪んだ鉄柵を潜り、黄金色の狐─稲荷神社の神使が現れる。その他に狸や山鳩、様々な神の使いである動物たちが集まってきた。皆、黄緑色の瞳を怪しく光らせ彼を睨んでいる。
「諦めるか、バカが。オレがこうしなければ、お前たちは気づかなかったんだ。越久夜町が滅ぶ事を。─それはオレたち人間にも関わる。なぜ阻止しようとするんだ?え?」
「町が滅ぶ?そんなはずはない、ふざけた事をぬかすな。」
緑が呻くように拒絶した。
「神々は我々を見放し、滅ぶのを選択した。そうだよなァ?」
神使たちは反論できず、ただ黙るしかない。それに三ノ宮と緑はかすかに動揺する。
「こいつもソレを知っている。」
辰美に顎をしゃくり、彼は意地悪い笑みを浮かべた。当然目線がこちらに集まる。
「私は、この町を救おうとっ!」
「ほら、オレと同じだ。コイツはお前らの味方でありながら欺いていたんだ。」
「何が言いたいの?!」
辰美の問いに加わるように、狐が「そうだ。お前の御託は聞かぬぞ。さあ、罰を受けよ。」
「罰だと?」
「人間として神の神力を高める手伝いをし、魂を神々に捧げ、管理される事。尚且つ式神をこちらに明け渡し、貴様の悪事により死んだ人間の分─輪廻を廻り苦しむ事。それが貴様に与えられし罰だ。」
「はあ?!ンなの自分から受け入れるバカがいるかよっ?」
体にありったけの力を込め、束縛していたルールの糸を無理やり引きちぎった。血飛沫が上がりコンクリートに散らばる。
「ぎゃっ!?」
その刹那─辰美の体が拘束され、喉に人外と化した爪がヒヤリと冷たく迫った。身動き一つとれない。
「ならばこちらも要求しようじゃないか。」
「人質ととるというのは撃たれる覚悟があるってのと一緒だ。」
呪術のぬらりとした光が掌に形成され、銃のシルエットが形作られていく。
「は────」
何かを言おうとした星守を容赦なくライフル銃で撃ち抜いた。「え」
辰美の脳天を魔法の弾丸が通過していく。衝撃波に頭が揺さぶられ、視界が真っ白になった。