悪い魔法使いと越久夜町 22
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何も起きず一週間が経ち、辰美は魔の二日間を忘れようとしていた。
(包帯、汚れてきちゃったな……。)
獣と化した左手を眺めながら包帯を巻く。毛並みが押さえつけられて心地は悪いが、周囲から変な目で見られるのは嫌だった。
(新しいのを買いに行くか…。)
日用品も取り揃えているコンビニに感謝しかない。が、少し距離がある。梅雨明けが近いからといって雨も降りやすい天候だ。
けだるい。
重い腰を上げて、辰美は財布を手にボロアパートを出る。
あれから被害が出なくなり、悪い魔法使いが町に及ぼす危険性は薄れたと─緑は言っていた。安心しきるのは安直ではあるが今は警戒だけでいいのではないか、と。
一連の流れは嵐のような出来事だった。できれば二度と体験したくはない。
雨が降りそうなどんよりとした曇り空の下、コンビニにたどり着くと見慣れた車が停車している。
(まさか)
来店と共にレジカウンターにどさり、と大量の缶ビールを置く有屋 鳥子の姿が目に飛び込んできた。
(うわ)
顔は見るからに赤く、動作も雑になっている事からして相当酔っ払っている。時計を見ると昼だ。
こんな時間から酒に溺れているとは、ただ事でない。
声をかけられない雰囲気に、辰美はスゴスゴと衛生用品の方へ向かった。
「ありがとうございましたー」
コンビニからでるとジメッとした湿り気が押し寄せる。不快だと眉をひそめると、信じられない光景が広がっていた。
車の扉を開けたまま、アスファルトに泥酔寸前の有屋が何やらブツクサとしゃがみこんでいた。
「有屋さん?!」
慌てて駆け寄り、酒臭さにウッとしり込みする。
「あなた、どうして?」
虚ろな目で辰美を見つめるとあろうことか、片手に持っていた缶ビールをあおった。
「ちょ!とにかく車に行きましょう!」
「ああ、そうね…」
よろよろと立ち上がり、肩を借りながら車内の座席にへたり込む。「奇遇ね、辰美さん。」
「どうしたんですか?こんなトコで」
「酒盛りよ、おえっ」口を押さえ、有屋はうつ伏せる。
「──ああ、わたしバカみたい……酒を飲まないとやってられないわぁ……」
「水、買って来ましょうか?」
「らいじょうぶよ…まだ飲めるんだからぁ。」
呂律も回らず、彼女は散らばっている空の缶に新たに缶ビールを追加した。車内は開け放たれ換気されているにも関わらず酒の臭いが充満していた。
「…辰美さん、わたしはもう越久夜町に居られるか分からないの。さようなら、かもしれないわ。だから──」
「どういう事ですか?!」




