悪い魔法使いと越久夜町 18
「うっ!」
堅く封じられたかのごとく眠っていた記憶が蘇った。頭の中で再生される、目にした事のある記憶。
(私は前も夢の、偽物の町に来たことがある。)
──人の魂の意識と夢の隙間、って言うのかな。誰かが秩序を乱したら、皆の潜在意識を傷つけることになっちゃう。現実世界大変なことになるのよ。
──…うーん。よくわかんないや。
いたいけな顔や仕草をした女性-ヒロミ。彼女は夢に迷い込み、悪い魔法使いの話をしていた。
──悪い魔法使いに連れてこられたの。あなたも多分、夢を経由してここに閉じ込められたんだと思う。
「ヒロミさん…ああ、私忘れて」
この町は偽物の町だ。
月光を反射して何かが移動している。猫しては形が歪で、リスにしては大きすぎた。
目を凝らし正体を見破った。ネズミだ。それもハツカネズミのような可愛らしい部類ではない。都市部に住み着くスーパーラットである。
そのネズミは電線を伝っていく。そいつはハクビシンより大きくブクブクに太っていた。異様な雰囲気にヒロミは察する。ヤツが悪さをしている術者だと。
──あいつだ。
悪い魔法使いは、鼠の姿をしていた。
(私が、あの時…悪い魔法使いに話しかけなければ…ヒロミさんは閉じ込められなかったのに!)
──人間は穢い。
「人間は穢い」
根性が穢い、他者を除き自らを正当化させ、地球にしか存在を見いだせない。-その癖生きたがる。自らもそうだ。人間の意地汚さが刻み込まれている。だがこの時!自分を活き活きとさせてくれる!
魔法使いはさも嬉しげに宣言した。支離滅裂と言える言い分に、辰美は背筋を凍らせた。
常人の考えではなくなっている。狂っている。
(私は悪い魔法使いとも会っている。)
包帯が巻かれた左手を眺め、辰美は記憶を反芻した。
──オレは人へ干渉する神の存在を確信した。
──神だけというよりは数多の、上位の存在だ。我々地球にいる生命を弄ぶ、タチの悪い遊び人だろうな。
──神は人に近い。聖なる存在だと自惚れ穢れているのだ。干渉を拒み、魔や人だけで"運命"を左右する楽園を作る。
(…町を存続させるために、星守は)
蚊帳の外にいたはずのヒロミは"悪の魔法使い"によって、夢の狭間に閉じ込められたままだ。彼は壊れてしまう越久夜町の時空を、維持するためにこの幻想を形作り理想を叶えようとしている。神使たちは町が滅びる運命にありながら、それを保守しようとしている。辰美は。
─ハッピーエンドにしなきゃ。
(このままだと時空は壊れてしまう。でも、私ならどうする?)
どれが正しいのか、誰が正しいのか分からない。
「頭がクラクラする…」
越久夜町は悪い魔法使いの世界に飲み込まれ始めている。それを皆知らないのだ。
「私は、どうすればいいか分からないよ…。」
投稿できる時に一気に投稿しちゃいました。
小説って難しいですね(いまさら)。




