悪い魔法使いと越久夜町 16
スーパーのブランドの缶チューハイを飲みながら、辰美は浮かない顔をしていた。
「辛そうだが、私に打ち明けてみないかい?」
「……。」
「黙ってモヤモヤしているよりは、吐き出してしまった方が楽になる時もあるよ?」
「ええ…。」
辰美はリネンに渋々、先程起きた出来事を話した。彼女は決して話を被せはしない、ただ聞き役に徹してくれた。
「--そうか、否定されてしまったんだねえ。」
「ええ、少しだけショックでした。不思議と…。」
「まあ私なんて否定されてばかりだからもう痛くも痒くもないけれどね。」
「リネンさんは強そうですもん。」
酒をあおり、力なく笑ってみせた。すると彼女は肩を竦めた。
「私は強くない。それに、私や君を無償で、全て受け入れてくれる者は居ないと思うよ。私も若い頃は苦しんだけれど、世の中でそのような人間は自分しかいないようだ。悲しきかな。」
「わかってます。わかってるけど」
「…そうか、ならいい。」
それからは他愛もない雑談をした。魔筋に落ちていた物や存在する人ならざる者などを。やがて辰美はリネンに、今回緑たちに伝えたかった自分の考えを話した。それをリネンは頷きながら理解しようとしてくれる。
荒んでささくれだっていた気持ちが少し報われたような気がした。
「式神が自由に出入りしているのを、主と思われる星守が眺めているのが不思議に思えるな。」
「そうなんですか?私は式神について全然知らなくて」
「辰美さんの話を聞くに、星守は式神を管理しきれていないね。」
「はあ」
「まるで式神が自由に歩き回っているみたいだ。」
「………。」
「式神に自我はあるか?それはウイルスに自我があるのか?と問うようなモノだ。」
リネンは度数の高い缶チューハイを飲みながら、楽しそうに言った。
「自我なんて、我々ですら危ういのにねえ。我思う故に我あり。そんなの、正確に証明できないだろう?辰美さんは自分自身に"絶対"に自我が存在していると、考えた事はあるかい?」
「う〜〜~ん。あまり、哲学は不得意で…」
缶チューハイは普段は飲まないが、こうして飲んでみるといいものだ。やけにアルコールの味がするが、気持ちは楽になった気がする。
「普通はそうさ。私は今回、あの式神を見て興味が湧いた。」
「はい。私も、少し興味あります。」
式神というのを生まれてこの方、目にしたのは初めてだった。
「なら、捕まえてみよう。面白いことが起きるかもね。」
「…うーん。」
「そうだ、それだよ。君にアドバイスはできないけれど、視点を変えるんだ。」
「視点?」
指を組み合わせ、覗き穴をつくるとリネンはわざとらしく覗きこんだ。