悪い魔法使いと越久夜町 14
「先輩っ、ここに居たんですね。」
ガランガランと喫茶店の扉が開き、有屋が困り顔で現れる。
「あら、鳥子。見つけるのが遅かったわね。」
「勝手に出歩いてっ!」
「いいじゃない。私だって一息つきたいわよ。」
「で、でも」
困り果て威勢の良さを無くした有屋は辰美を一瞥して、嘆息をついた。
「辰美さん、貴方…」
「いや、前々から狙って近づいたわけじゃないですけど。」
「まあいいわ。…先輩、体調のために私邸に戻りましょう。」
傲慢な態度から一点、彼女は切実に春木の腕を引いた。まるで従順な従者か召使いのようだ。
「なにを。見なさい、私は元気よ?」
肩をすくめると、彼女は有屋へ呆れ顔をした。
「しかし…私は心配で………!」
「分かったわ。家でゆっくり編み物でもしましょう。」
「は、はい!」
顔を明るくさせ、有屋は嬉しそうに背筋を伸ばした。それから二人はお金を払い、しゃべりたがるおばさんに対し早々と出て行ってしまった。
--…彼女の少し具合が良くなったみたいで、私も安心しているの。忙しくなくなるといい。」
--ええ。私からしたら先輩だから、そんなに堅苦しい間柄ではないわ。
(あの人が雇い主。なるほど。)
―――
(ぜんっぜん気が休まらなかった……。)
コーヒーが半額という幸運な事はあったが、リラックスできたかといえばできていない。かえって疲れてしまったじゃないか。
(このごろっていうか、ここ数日色んなことが起こりすぎじゃない?)
ゲッソリしながら歩いていると、ボロアパートの階段の前にあの少女が突っ立っていた。長髪の黒髪に血の気のない肌、惨殺された女子高生の高校と同じ制服に─貼り付けた白々しい笑顔。
その奇妙な笑みでこちらに近寄ってくる。
「待ってた!」
「いや、なんで」
「辰美ちゃん、久しぶり!」
「は、はあ?!」
「前に会った、とは思うけど?ほら、…違うわたしに。」
ね?と迫られ、辰美は勢いに頷いてしまった。
「本当にあなた、あの時の」
「辰美ちゃんも随分雰囲気変わったねぇ?ちょっぴり〜大人しくなった!」
「そ、そうかな?」緑と駆け回った"異聞奇譚"を思い返すも、自らを客観的に見た事はなかった。
「ふふふっ。辰美ちゃん、独りよがりだね。」
「……。」
「アイツらの会議に行くの?」
(アイツらって)分かりたくなくて辰美はわざと首を傾げてみせた。
「いじめっ子はキライだよ。わたしはあの人から生まれたような者。あの人には一応、感謝しているつもりだよぉ〜。ね?あの人をあまりいじめちゃメッだよ?」
青ざめた唇を尖らせて、彼女は言う。
「いじめて-もしコロシチャッたら、死んじゃったら、時空がいかれちゃう。」
「あの人って」
あの人というのが誰を指しているのか。辰美には分からなかった。
「えっ、分からないのぉ?まあいいや。辰美ちゃんは、時空が壊れちゃっても他に宛があるしぃ、やり直せばいいんだもんね?」
「そ、そんなこと……ってできるの?」
「覚えてないの?」
「えっ、何が?!おしえてよ!」
「ウフフッじゃあね〜〜~!この調子ならまた会えるよっ!」
「ちょっと!」
パタパタと駆けていった少女を、辰美は何も出来ず見送るしかなかった。
(また、会える。)
様々な、二名しかいないが最近言われるフレーズだった。
(また会えて何になるんだろう?)




