悪い魔法使いと越久夜町 13
「学生応援でコーヒーを半額にしているから是非入って。」
「は、はい。」
おばさんに連れられ喫茶店に入る。店内も当然ながらレトロ調で、ステンドグラスをあしらった照明などこだわりが感じられた。
ゆったりとしたジャズが流れ、コーヒーの匂いが充満している。
(素敵なところだ…。今度、見水と来たいなあ。)
老人がのんびりと新聞を読んでいたり、休むにはちょうど良さそうだ。
適当な場所を選び、座ると窓辺付近の席に既視感のある人物がいた。
(あの人…どことなく麗羅さんに似てる…)
薄手のカーディガンが椅子にかけられ、着ている服装も気品がある。纏っている雰囲気もかなり異なるが、髪型や顔つきが似ていた。
喫茶店で黄昏ているその妙齢の婦人は物憂げに、外を眺めている。テーブルにあるアイスコーヒーは半分ほど飲まれているが氷が解けて薄まってしまっていた。
辰美は気配からして彼女が人ならざる者だと分かり、気にはなったが、誰もいない喫茶店で目立つのはやめたいと物静かにコーヒーを待っていた。
(麗羅さんって神だけど、親戚…?がいるのかな。)
コーヒーが来て、ちびちび飲んでいると不意に婦人がこちらを向いた。そして席をたち、歩み寄ってくるではないか。
「私が気になるの?辰美さん。」
「えっ、あ、はい。」
名前を呼ばれタジタジになる辰美に、春木は無表情でいった。
「その眼は諸刃の刃ね。上位の者や神でなければ身を滅ぼすわ。」
彼女から眼球を指摘される。
「……。」
「貴方は何者?人間ではなさそうね。」
「私は、人間です。ただの」
「じゃあ、その目。植え付けられたのね。」
「え、あの」
「可哀想に。」
「可哀想…?」なんだかその言葉を、辰美は反芻してしまう。虚ろな気持ちが押し寄せようとしてくる。それはまずいと、咄嗟にポケットへ手を突っ込んだ。
「あ、あの私」
よれた紙切れを渡した。たまに依頼が舞い込む、インチキ占いのために作ったお手製の名刺を携帯している。
「これ…」
チカリ、とめまいのような違和感を覚えた。名刺の文字がやけに読みにくい。何故だろう?
(…眼精疲労かな?)
気を取り直し、笑みを取り繕う。
「超能力者があなたを占います?」
「手持ちの名刺がこれしかなくて。」
「占い師をしているの?」
婦人は呆れ返るような、困ったような笑みを浮かべた。
「はい。まあ、占いと言うよりは透視なんですけど。この目、人ならざる者と異なる世界が見えるから、背後霊とかだったらその人に教えたりできるし…。」
「そう。-私は天道 春木。この町で知らない人はあまりいないわ。」
麗羅に似た顔をしてはいるが、その黒目はどろりと濁って澱んでいるように見えた。全てを諦めたその仕草に何も喋れなくなる。
冬に書いていたので、春木さんがコートを所持していました(汗)
なので薄手のカーディガンに変更しました。