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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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悪い魔法使いと越久夜町 12

「ただいまぁ〜。」

 誰もいない部屋に向かってただいまと言う。防犯目的の行いに、今日ばかりは親しみを覚える。


 -日常に戻ってきたのだ、と。


 扉を閉じ鍵をかけると、無気力に米の入ったビニール袋を台所に置いた。

 部屋は朝からでかけたままになっている。時が止まっているようだが、こちらの時はあれから相当動いたように感じる。

 辰美(たつみ)は一晩、リネンの診療所に寝泊まりした。雨も降っているし、乙女が夜中に出歩くのは危険だと引き止められ、確かにそうだと泊まる事にしたのだった。

 リネンはシュラフをどこからともなく引きずり出して、貸してくれた。リネン自身もベッドでは寝られない体質だと、診療所の椅子で寝るという。変わった人だな、と辰美は思った。


 雨が止んでいる朝のうちに戻ってこれたのは良いものの、精神状態は休まっていない。ヘトヘトだ。

「はあ〜〜~。」

 米びつに米を入れ終わると、辰美は台所に突っ伏した。

(そうだ、今日は三ノ宮(さんのみや)さんたちと……。つ、疲れた。)


 心情が虚ろになっていると携帯電話が振動した。辰美は気力なく、通話に出る。

「もしもし?辰美?大丈夫?…起こしちゃった?」

 久しぶりに見水(みみず)の声音を聞いた気がして、胸を()で下ろす。

「起きてたよ。えっ、どうかした?」

「何か…虫の知らせというか、不安になったから電話したの。」

「ありがとう。嬉しい。見水は大丈夫?」

「うん。なーんにもしてない、ダラダラしてる。」

「アハハ」

「ヒドイ顔をしてるよ、辰美。」

「……電話越しに見えるわけないじゃん。」

 見水のとぼけた言葉に笑みがこぼれる。

「私にはわかるのっ!…辰美、私の家でお菓子パーティーしない?なんなら私が来るよ?」

 声音からして痛切に心配しているのが伝わってくる。

「大丈夫。…不安にさせてごめん、ありがとう。少し休むよ」

「無理しないでね。」

 それからはひとしきり他愛もない話をする。緊張していた心地が、多少穏やかになった気がして辰美は正気を取り戻した。

「無理…か。」携帯電話をテーブルに置き、前髪を正す。何もかもおざなりになるほど、巻き込まれていた。

 悪夢のようだ。

(眠ろうかな…でも、目が冴えてて眠れそうにないや。)

 辰美は敷布団をながめ、ある事を思いつく。

(たまにはやってみよう。)



 気分転換に散歩をする-というのを、元来あまりしない辰美であるが、この日は散策がてらやってみようと思い立った。

 一度は越久夜間山(おくやまさん)へ散策に行ったが、それからは一緒のルートか魔筋(ますじ)しか歩いていない。商店街の地域を歩いてみれば改めて発見や、楽しみが生まれるかもしれなかった。

 今は何も考えたくない、と言うのもある。ただ歩いて風景を見る。それだけをして、頭を休めたい。


 商店街は辰美の住むボロアパートから少し遠いが、越久夜間山よりは近い。体を疲れさせるにも丁度いい。

 ビニール傘をさしながら、辰美は無心に歩いていた。

 商店街の大多数がシャッターで閉まっており、閑古鳥が鳴いている。それは地方ではよくある光景でなんら変わりはない。ただ、珍しく空いている店があった。

 喫茶店だ。

 昭和レトロを体現したオシャレな外観をしている。可愛らしい看板『遊月(ゆうげつ)』と古めかしい窓ガラス。雑誌に載っていそうなオシャレな喫茶店。

 それだけならまだ辰美は好奇心で近づくだろうが、眼前には近づき難い光景が広がっていた。


 喫茶店の窓ガラスにベッタリと、密着している不審人物がいた。可愛らしい制服を着た背の小さい…女子高生だろうか?


 あの制服は存じている。見水の妹、明朱(あす)が通っている制服である。

(私は、あの少女を見た事がある…。)

 あのバケモノじみた少女だ。ジイッと喫茶店の中を覗き込み、雨に打たれている。

 見水の妹が行方不明になった時も、骨董屋を訪問したり山道に佇んでいたりと気味の悪い雰囲気をまとっていた。

 少女はこちらに気づくとニタリと微笑む。人ならざる者だと辰美は確信する。

 青白い血の気の引いた白い肌。血が(よど)んだような濃い赤目。そして人の歯ではない牙が覗いていたからだ。

 -以前より増して人ならざる者であると、見せびらかしているみたいだ。


「こんにちはあ。」

「……こんにちは。」

「アナタもあの人を見に来たのぉ?」

「あの人?」

 喫茶店の中は薄暗くよく見えない。人もまばらで、にぎわっているようにはなかった。

「ふ〜〜~ん。なんだ。()()()と同じで狙ってるのかと思った。」

「あの子って--」


「ちょっとちょっと」

 背後から声をかけられ、振り返ると-。

「あなた、噂の子?」

 店内から人当たりの良さそうなおばさんがニコニコしながら立っていた。


(いない?!)

 先程までそこにいたはずの少女が忽然と消えていた。


「もしかして最近引っ越してきた子よね。入りたそうにしていたから、声掛けたくなっちゃって。」

「は、はは。まあ」

(え…まさかあの子、見えてなかった?)

そこまで熟考できませんでしたが、進められました。

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