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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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悪い魔法使いと越久夜町 11

「えっあのリネンさん」

「足の部分に某、と書く。名前は分からないからしょうがないが、顔を似せているから大丈夫だろうね。これで調伏できる。」

「調伏って何ですか?」

「一つに密教で魔障(ましょう)を打ち破る事をさすよ。まあ、悪を()らしめるという意味合いだ。」

「え〜と、なんかヤバめじゃないですか?ソレ」


 市販の見慣れたマーカーペンと禍々しい布人形を渡され、戸惑いながらも似顔絵を書いていく。

 男の人だった。月明かりに照らされて、薄ぼんやりと(かんばせ)が浮かび上がる。辰美はいつか目にしたことがある気がしてゾッとした。

 生気のない眼をした顔色の悪い男。歳はそんなにとっていないだろうが、くたびれたように見えた--。

 名前は分からないが苗字は星守(ほしもり)と言った。表札を見たから漢字も判明している。

 もし彼が悪い魔法使いなら。


「これはこれは…。」

 苗字を目にしたリネンが片眉をあげた。

「やっぱり町では有名なんですか?」

「ああ、とびっきりのスクープだね。」

 好奇心の光を宿した瞳を見ると、人というのはなんと他人事なのだろうと思える。辰美(たつみ)は自らの黒目も同じ光を宿したのだろうか、と危惧した。


(私は元々、でもそんなに善人じゃないはず。)


「名前は分からないからしょうがないが、顔を似せているから大丈夫だろうね。これで調伏できる。」

 布人形を静かに床に置くと、リネンはまたいたずらっぽく微笑んでみせた。その笑みが底知れぬ夜闇に思えて、背筋が寒くなる。

「さ、踏んでみて。」

 しょうがなく踏んづけると、真っ白だった布人形は薄汚れてしまった。

 踏みつけた布人形を、リネンは満足気に見つめた。


「これでよし。」

(私、勝手に人を呪ってない?!大丈夫なのっ!?)

「悪い魔法使いは少しぐらい不幸になっただろうね。良かった良かった。」

「あ、あのぅ〜私は大丈夫なの?こんな事して、何か悪い事が……」

「大丈夫大丈夫!多分」

「多分っ?!」

「悪い魔法だと言うのは確かだ。」

「なっ!」


「フフ。私が蠱毒(こどく)魘魅(えんみ)を専門とする"悪い魔法(ブラックマジック)"を使う魔法使いだと言うのは、黙っててくれないかい?」

 リネンさんが人差し指を唇に当て、シーッと芝居めいた仕草をする。そのアルカイックスマイルに何も言えなくなる。


「緑さんや三ノ宮さんたちにですか?」

「ああ」

「うーん。」

「蠱毒や魘魅は古来から禁止されてきたけれど、先程やった呪術も今はやっちゃダメなんだよ。辰美さんもやってしまっただろ?共犯になる。」

「ずっっる〜〜~!!」

 悪い魔法の何も知らない一般人の小娘に、人を呪わせたとなる。なんという酷い行いであろう。


「そんな法外な呪術じゃない、類感呪術(かんるいじゅじゅつ)さ。」

「?…なんですかそれ。」辰美は聞きなれない言葉を耳にして、思考停止した。

「ジェームズ・フレイザーさんが定義した、呪術の性質を表す言葉だ。人類には類似は類似の結果を生む、っていう魔術的思考がある。」

「はぁー…難しいですね…」

「縛る呪い。打つ呪い。射る呪い。様々な呪いがある。マイナスにもプラスにもそれは転じるのさ。」

 だから安心しろと?

「もし呪いが跳ね返ってきたら、私が呪詛返しをしよう。そうすればプラマイゼロになるだろう。」

「都合のいい話ですねっ!」


「そう怒らないでよ。……お礼にその腕を診てあげるから。」


 左手を指さされ、辰美は黙るしかなくなる。先程リネンはそのような伝承や人ならざる者を知っている、と零していた。物知りや魔女と言われる緑では知りえなかった情報を所持しているのだ。


「包帯をとってみて。」

 渋々巻いていた包帯を外すと獣びた左手が(あらわ)になる。それを眺め、町医者は頷いた。

「ソレは……天の犬とも言われている。ひとつの時間や国、世界線には定住せず、(宇宙)からやってきた地球外生命体さ。」

「は?ちきゅ…なんて?」

「世界各地に似たような伝承や伝説が残っていてね。多くは犬や狼の姿をとると言われているけれど、たしかに彼らは皆人狼や犬に似た姿をしている。月食には太陽を飲み、吉凶を知らせるように宇宙を駆ける。私が聞いたのは"ナイアーラトテップ"に似た部類だと言う事。」

 それはフィクション作品に当て嵌めた名称だけれども、と彼女はつけくわえた。


「辰美さんはいづれ天の犬になり、彼らと共に宇宙を駆ける羽目になるだろう。」


「な、なによそれ」

「ああ…、私もそれ以上はよくは知らないんだ。ただ治せなかった患者がそう教えてくれただけ。」

「その患者って…。」

 黒々とした黒目を淀ませ、彼女は訥々(とつとつ)と言葉を発する。

「多分明かせば真っ先に真相を遺族へ打ち明けてしまうかもしれない。それは困る。だから私は医者として、黙っておくしかないよ。」

「………。」

前半(?)はこれにて終了しました。これから後半に入るのですが、熟考してから投稿したいのでこれ以降はかなり先になりそうです。

読んでいただきありがとうございました。

がんばります!

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