悪い魔法使いと越久夜町 8
「えぇ〜」
どう反応して良いやら。そんな辰美の様子などお構いなしに彼は続ける。
「どうして辰美さんの能力が必要なのか。それは悪い魔法使いが異界を行き来しているからなんです。暴くにはその眼が必要でしてね。辰美さん、貴方に異界の綻びを見つけて欲しいんです。」
「うーん。どうやって見つければいいの?それによる、かな」
異界への綻びを今まであまり目にした事がなかった。異界と人間が暮らす世界は案外キッチリと分けられており、互いが出会わないよう気をつけられているのかもしれない。
「ゆらぎ、という異界の空気が充満している所があります。それに当たると俗に運気が悪くなる、とか良くないことが起きるとかそんな風に言われたりします。ゆらぎが多い場所や通常とは異なる道-魔筋を使って行き来しているのでは?と我々は考えています。」
「魔筋……」
紫色の奇妙な装束を着た式神が思い起こされる。あれがあの男の式神ならば、魔筋を利用していても…。
「そして四神の結界を復活させる装置が揃った今、それと合わせて町を回復できそうなのですよ。」
「そうなんだよ、辰美さん。我々神使が四神の結界の所有を宣言できれば大手なんだ。」
「はあ」
「大丈夫。我々に任せて欲しい。」
狸たちが頭を下げる。「や、やめてくださいっ」
「僕たち狸は普段は中立姿勢を保っているんだけれども、今回の事件はさすがに放っておけない。それくらい異常なんだ。」
真剣な顔つきで彼も言う。
「辰美さんとも顔合わせできたし、明日の夜また皆で、他の神使も呼んで話し合おう。」
「話は聞いていたよ--と、いつ出てこようか迷っていたがね。なかなか話が途切れないから、困ったもんだよ。タヌキどもは」
ヌッと庭園の草木から狐の神使が現れた。以前よりも毛質が良くなったように思える。
「狐のおじいさん?!」
「タヌキ共がいったように、再び越久夜町を団結させなければならないね。神使の数が減り、私どもの力は弱くなった。」
三ノ宮の隣まで来ると、神妙な面持ちで狸たちを見すえた。
「辰美さんに手伝ってもらった例の四神を、タヌキどもも復活させるのだろう?ならば私たち稲荷の狐も加わろう。結界内のルールを我々のものとし、悪い魔法使いの行動を制限させる。」
「さすがは稲荷さんだ。いや〜僕らの考えを読んでる。」
「ふん。」
狐狸の化かし合いとはいうが、彼らは普段仲がよろしくないのかもしれない。狸たちが文句を言って、ざわめいている。
「あ、あのう。どうやって悪い魔法使いを制限できるんですか?」
ざわめきを落ち着かせたいと、辰美は稲荷神社の神使へ尋ねた。
「ルールに仕組むのさ。ルールとは理、自然の理法-あらゆる現象や宇宙に存在する一切のモノを表す、簡単に言えば人や動物の説明書だ。この場合、越久夜町の事柄が記述されたモノになる。我々の力ならば一個人くらいなら少しぐらい操れる。それには町全体の使わしめの力が必要になる。」
「その、ルールを悪い魔法使いのためだけに使って大丈夫のでしょうか……。」
珍しく緑が心配そうな様相を浮かべて口にした。
「本来ルールは誰の目的によっても使われてはいけないな。我々はいづれどこかしら罰を受ける事になるだろう-加えてしわ寄せが他時空に及ぶかもしれない。」
リーダー格の狸が冷静沈着に言い放った。それも承知の上で計画を立てたのだろう。
「大丈夫なの?」
「紛れもなくイリーガルだ。だがそれしかないのだよ。」
おじいさん狐は残念そうに言う。
「神に叱られたらお前も、だぞ。言い逃れはナシだ。」
「憎らしいやつだな。当たり前だろう。」
タヌキに言われ、おじいさん狐はムッとした。まるで人間みたいだと辰美は不思議な気持ちになる。
「それには、何度もになるが秘密裏に越久夜町の神使たちを招集しなければならない。」
「私もなにかできないでしょうか?イヅナを送るとか…。」と緑の提案に
「やってみるしかないかな?僕の狸は式神が見張っているからねえ。」
と三ノ宮も乗り気だ。
「よろしくたのむよ辰美さん、これは秘密にして欲しい。」
「知られたら一巻の終わりなんだ。私たち狸からもお願いする」
狐狸に頭を下げられては否定はできまい。
「う、うん。約束する。」
イリーガルの意味はきちんと調べましたが使い方を間違っていたらすいません。何故に英語にしたし………。
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