悪い魔法使いと越久夜町 7
使わしめの狸がいても不思議はない、と辰美は納得する。
門をくぐり見事な紫陽花を見た後、三人は寺院の敷地内にある庭園へ向かった。
「ほら」
不思議な事に狸たちが庭園に集まっていた。彼らは皆、地蔵がしている赤い前かけをしており異質な雰囲気を醸し出している。二十匹を超えた、狸の集会だ。
「これは」
緑があっけに取られ、跡取り息子へ答えを求めた。
「私に賛同してくれている者たち、または眷属です。」
三ノ宮はごく普通の事のように言い放った。狸たちは皆、黄緑色の瞳をしている。神使-使わしめだ。
「おや、辰美さん。」一匹の狸がこちらに気づき、嬉しそうだ。
「知り合いなのかい?」
「ええ、今朝会いましてね。」
にわかに信じられないと、二人からの視線に苦笑するしかない。
「アハハ…」
「また君たちだけで何か企んでいたな?」
偽物の笑顔を取り払い、生気のある人間くさいジト目をする三ノ宮。そんな彼に狸たちは気にもとめず、陽気に
「みんな揃ったからいいじゃないかい。」とはぐらかした。
「はあ、コイツら…のらりくらりと。」
賛同してくれている者たちまたは眷属とは言うが、家族や親戚に近いのかもしれないと-辰美は何か複雑な気持ちになった。
「僕は-説明したように善郷寺に伝わる神獣狸の総大将の、子孫でしてね。現在は総大将として眷属の狸たちをまとめております。人間と人ならざる者のハーフ、半人という部類に入ります。」
(半人…?)
どこかで聞いたようなフレーズに、辰美は首を傾げた。
「辰美さんの目に劣りますが、似たように異界などが見えるんですよ。」
「へえ、じゃあ緑さんに憑いてるイズナも見えるの?」
「少しだけですが。」
胡散臭い笑みを湛えた三ノ宮に緑はため息をついた。
「私には滅多に教えてくれないくせに。」
「教えたら怒るじゃないですか、貴方の事だから。…話はそれますが、単刀直入に言えば貴方のお力を貸してもらいたいのです。」
「力?まさか、私の目?」
「もちろん。なぜならばその特異な力は町の存続に関わり、辰美さんは千年に一度の眼を持つ人材であるという事。異界と人界を繋ぐ能力が今回は必要なんです。」
その言い草に辰美は困る。
「過大評価なんじゃ…それに」
「いいえ、他にそのような人物は現在百年以上、越久夜町にはいないのですよ。」
今回は区切りが良いので短めになりました。