表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
102/349

悪い魔法使いと越久夜町 6

「これから予定でも?」

「な、ないけど」

 なら話は早いと辰美(たつみ)は連行される事となった。湿り気のある空気のせいもあるが、嫌な汗がドッと出る。

 虫の知らせにも似た、悪い予感。これからまた何かに巻き込まれていくような……。

 三人で路地を歩き、寺に向かう。雨が止んだからかチラホラと通行人がいる。皆、三ノ宮(さんのみや)さんだと嬉しそうに挨拶してきた。


「私たちは悪い魔法使いについて話そうと、寺に向かっていたのです。」

 世間話を止めて、緑が若干申し訳なさそうに明かした。

「なぜ寺?と思うでしょう。僕は()()()というお寺の、変な表現になるかもしれないけれど跡継ぎなんですよ。」


(善郷寺(ぜんきょうじ)っやっぱあのタヌキの!!)


「どうしました?そんな青ざめて」

「い、いやぁ」

「三ノ宮さんを嫌がっているんではないですか?」

「まさかあ。」と、三ノ宮は言うが否定は出来なかった。

「言いたくない事もあるでしょう。」

「い、いや、どうしたらいいのかなっ。話していいのかわかんないけど、多分明日、また寺に来ます。」

「ハハハ、なんだいそれ。」

「その時話します!」


 笑っているイケメンに、緑はやけに静かだった。やがて「…私も辰美さんに隠していた事がありました」とポツリと零し、辰美を見すえる。

「三ノ宮と組んで、悪い魔法使いを探していた。加えて越久夜町で起きている事件について知っていました。ゾンビなる者が徘徊し、人を襲う……または悪い魔法使いが魂を食らう。」

「知ってたんだ!じゃあ、私たちで力を合わせて明朱ちゃんを探したり、悪い魔法使いの使い魔みたいなのを倒したり─」


「……。それは、夢でも見ていたんじゃないでしょうか。私には辰美さんと一緒になって、衣舞(いま)さんの妹さんを探した記憶はないのです。」


「そんな……。」緑は勇敢に戦って、"イヅナ使い"になった。その記憶を彼女は持ちえていない。

「辰美さん、落ち込まないでください…というのは無理な話でしょうけれど。貴方に何が起きているのは分かりませんが、私は確かに辰美さんと出会い、こうして話しているじゃないですか。」

 そうなのだった。緑は緑なのだった。この前も割り切ったじゃないか、と辰美は焦燥した。

「そ、そうよね。ごめん…。」


「辰美さんには、あまり我々の世界や魔法使いの抗争に巻き込ませたくないんです。」

「そうだね。あまり一般人を我々の界隈へ巻き込むのは良くない。けれど、辰美さんには頼みたい事がありまして。…越久夜町の水面下で僕たち魔法使いやそれに類似した生業をする人々が、悪い魔法使いを倒さなければと会議をしましてね。」

 胡散臭い笑みを崩さず彼は言う。

「もう皆高齢で、太刀打ちできない。中には負けて魂を奪われた者もいる。高齢者ばかり狙っているのもそのような理由もあるのかもしれません。それに」

「うん。」

「現代、魔法使いの界隈では反魂や呪詛、蠱毒は禁じられている。呪詛返しもダメで、反対に吉事に関する"(まじな)い"が奨励されています。」

「ええ。吉事しか我々は行えないのです。」

「良い魔法しかダメなんだ。」


 悪い魔法使いは、"悪い"魔法を使うから。単純な名前だが、それが一番的を得ているのだろう。

「呪詛返しくらいできたらなぁ……。」

 三ノ宮が悔しそうに呟いた。

「ああ、これ以上外で話すと悪い魔法使いに聞かれてしまうかもしれない。続きは寺で話しましょう。」 



 ―――

  住宅地の外れの小山に寺がある。善郷寺(ぜんきょうじ)だ。周辺は町の檀家(だんか)さんにより手厚く管理され、小綺麗な石畳に、季節ごとの植物、そして立派な門構え。さして有名な文化財ではないにしろ歴史を漂わすザ・お寺であった。

  そこの寺(小山)はむかしから霊験のある狸が住んでいて人らに悪戯や霊験を知らしめたり、はたまた異類婚姻譚(いるいこんいんたん)の伝承を残すなど非日常な存在であった─と三ノ宮は教えてくれた。

  さして狸や狐、貉が人に関わりを持つのは珍しいことではないらしいが、未だ寺の住職がその狸の親分の子孫だと語り継がれているのは、現代において稀有なのだという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。

こちらもポチッとよろしくおねがいします♪


小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ