悪い魔法使いと越久夜町 4
「今度は狸さんですか?!」
「覚えているかい?私たちと会った事を。」
「お、覚えていない…ような?あ、覚えていないです。」
既視感があるような?…ないような、そんな感覚に辰美は困惑した。
「大丈夫だ。次期に分かる。」
「…う、うん。」初めて会う狸に、狐の時よりも驚きが少なかったのはそのせいなのだろうか?
(でも、毛の色も普通のタヌキだし。前掛け以外は)
「前も使わしめの狐にあったろう?アレは私の知り合いなんだ。」
「はあ、そうなんですね。」
狸はこちらに近づいてくると、こてんと腰を下ろした。
「なら話は早い。辰美さん、明日くらいに狐と同じになるが私の住んでいる寺に来てほしい。ただあやつと違って急かしはしないよ。」
「寺…ですか」
稲荷神社の次は寺ときた。黄緑色の瞳は真剣そのもので、自然と喉が固唾を飲む。
(私、次は何を頼まれるんだろう。)
「越久夜町の住宅地のハズレにある善郷寺という寺だ。地図を見ればすぐには分かると思う。越久夜町唯一の寺だからね、難しくない。」
「ぜんきょう寺ですね」
「明日門の前で待っているから、時間はいつでもいい。来て欲しいんだ。」
そういうと頭を下げ、狸は「じゃあ、人に見られるのはマズイ」と去っていった。やはり人にたくさん見られるのはお法度なのだろうか。
人気のない道に残され、辰美は唖然としたままサドルにまたがっていた。
「……あ、お米買わなきゃ。」
いつまでもこうしていられないのを思い出し、渋々漕ぎ出した。
「あ〜〜~、ないじゃーん。」
棚には五キロ分の米しかなく、貴重な二号分の米は売り切れていた。コンビニに流れる陽気な音楽の中、気持ちは下がっていった。
「五キロ買うのは痛手だな……どうしよう…」
毎日食パンでもいいが、味に飽きそうではある。
「ああ…帰ってふて寝しよう。」
今日はなにもしたくはないと、ノロノロと歩き出した。
「知ってるか伊藤さんよぉ。笹目の家の奥さんが居なくなって、旦那も死んじまったんだとよ。噂にゃ感染症じゃないかって。」
「奥さんがやったんじゃないの?」
「奥さんが殺したってのはありえねえって。外傷がなくて--」
おじいさんと店長のおばさんが話し込んでいるのを横目に、コンビニから出る。
(--たしかに、あの狸に会った事があるような…)
自転車の鍵を差し込みながら、辰美は考えた。頭の隅に既視感というのが、あるかもしれないのだ。
(私の中にそれらしい記憶があるの…?)
カチャリと音が鳴ったのを聞いて、サドルに座り込んだ。
(私にも変わってしまっている部分がある?)
(自分ってなんだ…?)
同名のお寺があったら申し訳ないです。一切関係ないです。
善い郷のお寺という意味でつけました。
お米は私の家の状況を参考にしました。
追記
誤字脱字が酷かったので修正しました。




