第七話
一行はその後、数日の道程を歩み、ある日の昼頃にようやく、ドラゴンが棲みついたという火山のふもとにたどり着いた。
火山は木々がほとんど見られない岩山で、頂上の火口を見上げれば、天に向かってもくもくと黒い煙が立ちのぼっている。
そのあたりまで来ると、周囲はだいぶ熱気を増しているのだが、メイが使用した冷却の魔術の効果によって、冒険者たちの体表回りだけは、涼やかな空気に覆われていた。
四人が険しい山道を登山しながら散策していると、もうすぐ夕刻になろうという頃、山の中腹あたりに、巨大な洞穴を発見した。
自分の背丈の何倍もの高さと、その高さに匹敵する幅をもつ洞窟の入り口に、四人はしばし圧倒されていた。
「……あらためて、とんでもないものと戦おうとしてるんだってのを、実感するよ」
パーティのリーダーである赤髪の少年の頬を、冷や汗が伝う。
その洞窟の入り口の大きさは、その中にいる生き物の強大さを物語っているかのようだ。
少年が身に着けている重厚な金属鎧が、まるで頼りない布の服同然のようにすら、錯覚される。
「あら、今更になって怖気づいて?」
リネットがからかうように言うが、そのエルフの瞳にも、怯えの色がないわけではない。
そのリネットの腰元には、獣人の魔術師メイが、不安げに寄り添っている。
「まあな。だけど……」
アシュレイの、そしてリネットとメイの視線が、一人の少女へと集中する。
その視線の先で、銀髪をポニーテイルにした少女は、ほかの三人よりも数歩ほど洞窟に近い場所で、洞窟の暗闇の先を見据えていた。
そのトリーシャとて、恐れがないわけではなかった。
それも彼女の胸中には、二つの恐れがある。
だけど彼女は、勇気を振り絞って、言葉を発する。
「……今ならまだ、引き返せると思う。アシュレイたちが、それでも進むっていうなら、ボクも進む。引き返すなら、それもいいと思うよ。その場合は、ボクはボクで、どうするかを決めるよ」
そのトリーシャの言葉を聞いて、悔しそうに歯をかみしめたのは、アシュレイだった。
「……いや、俺は行く。もうこれ以上のチャンスなんて、きっと来やしないんだ。張るべきときに命を張らなけりゃ、何も手に入れられない。でも……」
トリーシャには、アシュレイの言葉の真意は分からなかった。
しかし、「でも」の先だけは分かった。
彼が自分のパーティのメンバーである、エルフと獣人の少女を見たからだ。
そのうちの一人、エルフの少女が口を開く。
「……わたくしとしては、正直ここにきて、気が引けていますわ。ですけれど、大切な友人たちを見捨てる、というのは、選択肢に入れたくありませんの。バカな人たちを好いてしまったと、後悔していますわ」
そして、もう一方の獣人の少女は、こちらは言葉少なに、
「わ、私も……行きます!」
と決意を表明した。
三人の意思を受けて、トリーシャがうなずく。
「そう……じゃあ、ボクも行く」
トリーシャはそう言いながら、心の中で、密かに苦笑していた。
これじゃあまるで、自分の未来を、他人に委ねているかのようではないかと。
(でも……これはボクが決めたことだ)
トリーシャは、心の中でつぶやく。
これで結果がどうなろうと、それは誰のせいでもない、自分自身の意志と行動の結果なんだと。
トリーシャは、洞窟の奥へと歩き出す。
メイが慌てて魔術による明かりを作り、暗い洞窟の先を照らす。
四人の冒険者は、巨大な洞窟を、奥へと進んでいった。