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第六話

「はあ~」


 リネット、トリーシャ、メイの三人はその順番で横並びになり、湯船の縁の岩場に背中を預け、温泉を堪能していた。


 ただ、トリーシャはどこか、落ち着かない。

 左右を友人たちに囲まれ、囚人のように肩身を狭くしていた。


「──ねぇトリーシャ」


 リネットが、夜空を見上げたまま、言葉を発する。


「……何」


「あなた、何か隠してますわね?」


 直截ちょくせつ的な問いかけ。

 トリーシャはやはり、星空を見上げながら答える。


「……うん」


「それは、わたくしたちには話せないことですの?」


「……うん」


「つれないですわね」


「……うん。ごめん」


「いいですわ。だったら体に聞きます」


「……うん。…………はい?」


 不審な言葉に引っかかってトリーシャがリネットの方へと体を向けたとき、背後からメイが、トリーシャのわきの下にするりと両腕を滑り込ませ、銀髪の少女をがっちりと羽交い絞めにした。


「えっ……何してるのかな、メイ?」


「に、逃がしません」


 背後の気弱な獣人の少女から返ってきたのは、返答になっているような、なっていないような言葉である。


「ふふふっ……さあ、覚悟なさい、トリーシャ」


 そして前門には、手指を多足動物の足のようにわきわきと動かし、トリーシャに襲い掛かろうとするエルフの姿があった。

 身動きを封じられたトリーシャは、迫りくる魔手に怯えるしかない。


「か、覚悟って、何の覚悟だよ……? 怪しいとは思ってたけど、リネットやっぱり、そういう人なの……?」


「あら、『そういう人』っていうのは、差別的ですわね。それに、わたくしはただ単に、可愛いものが好物なだけでしてよ。トリーシャみたいな可愛い子は、愛でたくなるのが当然の心情というものですわ。……それにしても」


「──ふあっ!?」


 今にも唇がくっつきそうな距離まで顔を迫られたトリーシャが、びくっと跳ね上がる。


「やっ……ど、どこ触って……!」


「自分のことを『ボク』なんて言うものだから、ひょっとしたら男の子なのを隠しているのかと疑ったけれど、やっぱりそんなことはありませんのね。それに、胸だってこんなにけしからん大きさで──普段はさらしをしていますの?」


「してるけどっ! ああんもうっ、メイも放してよ! 怒るよ!」


「お、怒られてもいいです! トリーシャさんと、仲良くなりたいです!」


「──メイに何吹き込んだこの腐れエルフぅうううううっ!」


 結局その後、メイを力づくで振り切ったトリーシャは、一目散に脱衣所に逃げ込んで、世界記録を更新しそうな素早さで服を身に着け、その場を去って行った。

 その姿を見送ってから、エルフの少女は嘆息たんそくする。


「……なかなか、難しいものですわね」


「……?」


 横ではメイが、首を傾げていた。


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