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第五話

 夜闇の中、小さな魔法の明かりがしつらえられた露天風呂の女湯。

 脱衣所を出た裸身のトリーシャが、きょろきょろと辺りを見渡し、ほかに人がいないことを確認すると、タオルを胸に当て、温泉がたたえられた岩場へソロソロと歩いてくる。


「……気を抜きすぎると、ときどき出ちゃうからなぁ。人がいないに越したことはない、と……」


 銀髪の少女は独り言をつぶやきながら湯船の縁まで来て、茶色く濁った湯に足先だけをちゃぷんと浸ける。


「はぅっ……一番いい温度だぁ……」


 少女は幸せそうな表情を浮かべると、タオルを頭の上に乗せて、湯船の中にゆっくりと身を沈めてゆく。


「ふあああああぁぁぁ……気持ちいい~……」


 肩までとっぷり浸かったトリーシャは、極楽というように目を細め、次には岩場に背中をもたれ掛からせて、空を見上げる。

 少女が見上げた先には、満天の星空があった。


「最っ高~。……こうしてると、何しに来たのか分かんなくなっちゃうな」


 そうして、トリーシャがしばらく温泉を堪能していると、やがて静寂の中に、脱衣所で衣服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてきた。


「やっ、やばっ、人が来た……! で、出てないよね……?」


 トリーシャはその手で、自分の頭と背中を触って確認し、ほっと息をつく。

 ちょうどそのときに、脱衣所の戸が開き、二人の少女が露天の場へと現れた。


「あら、トリーシャ、先に入ってましたのね。奇遇ですわ」


「……リネットさん、それはさすがに、わざとらしすぎるかと……」


 脱衣所から現れたのは、リネットとメイの二人であった。

 堂々としたリネットはエルフらしく細身の体で、おずおずとしたメイは小柄ながら健康的な肢体である。


「あっ、リネットとメイは、これからお風呂なんだ。ボクはそろそろ出ようかなって思ってたところで、入れ違いだね」


 先客のトリーシャはそう言って、少し名残惜しそうに湯からあがると、入ってきた二人の横を通り過ぎて、そそくさと脱衣所に逃げ込もうとする。

 だがそんなことを、この場に現れた悪逆なエルフが許すわけがなかった。


「──ひゃうんっ!」


 銀髪の少女が通り過ぎた、まさにその隙を狙って、リネットの指先がトリーシャの背中をすっとなで上げたのである。

 トリーシャはびくっと、その場で硬直してしまう。


「んなっ──何すんだよっ、リネット!」


 真っ赤になって振り返り、抗議するトリーシャだが、対するエルフの少女はしれっと答える。


「だって、トリーシャがあんまりつれない態度を取るんですもの。少しのいたずらぐらい、したくなるというものですわ。ねぇ、メイ?」


「えっ……? あっ、うっ、そのぉ……」


「おかしいだろその発想! それに、メイを巻き込むな!」


「まあまあ。たまのこういう機会ですもの。裸の付き合いで親睦を深めるのも、悪くないと思いますわ」


 そう言ってリネットはトリーシャの手を取り、湯船へと引っ張ってゆく。


「わっわっ……放してよっ。ボクもう入った後だからっ、これ以上はのぼせちゃうからっ」


「大丈夫ですわ。のぼせたら、わたくしが責任を持って介抱して差し上げます」


「リネットの介抱って、なんか怖い! ねぇメイ、パーティメンバーだろ、この人何とかしてよっ!」


 トリーシャが、無駄だろうなと思いながらもすがりつく想いで獣人の少女を見ると──その少女はすぐ後ろにいて、トリーシャの背中にぐいと両手を当てて、湯船の方に押して見せた。


「……えっと……メイも、リネットの味方?」


 トリーシャが聞くと、犬耳をぴんと立てた少女は強い意志のこもった瞳で、こくんとうなずく。


「……分かったよ。でも本当に、のぼせる前にあがるからね」


 この場に味方がいないことに気付き、諦めたトリーシャは、二人に引きずられるままに、再び湯船の中へと入ってゆくのだった。


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