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第四話

 冒険者ギルドを出て、アシュレイたちのいる酒場へ帰る道。

 トリーシャはしかし、浮かない顔で立ち止まり、天を見上げる。


 少女が見上げた先には、憎たらしいほど晴れやかな青空が、いっぱいに広がっていた。


「……見知らぬ他人の命と、ボクの平穏……それでも後者を選びたくなるボクは、やっぱり、そういうことなのかな……」


 少女は天を見上げながら、胸元の服を、きゅっと握りしめる。

 瞳からは、涙がこぼれ落ちる。


 だが少女はすぐに、服の袖でぐしぐしと、涙を拭い取る。

 そして、キッと前を見据え、歩き出す。


「──違う。それはボクが、決めるんだ。ボクが何者であるかなんて、神様にだって決めさせやしない」




 そうしてトリーシャは、酒場に残っていたアシュレイたち三人の前にたどり着くと、彼らに食いつかんばかりの勢いで言った。


「ドラゴン退治、引き受けるよ──ボクをアシュレイたちのパーティに入れて!」


 こうして、『白銀の剣姫』と呼ばれる少女冒険者は、その人生で初めて、パーティを組むこととなったのである。




 冒険者たち──トリーシャ、アシュレイ、リネット、メイの四人は、それから準備ができ次第すぐに、街を出立した。

 目指すはドラゴンが棲みついたという、火山である。


 冒険用の装備を整えたトリーシャは、野外活動で役に立つ一般道具一式などを詰めた背負い袋や水袋などを身に着けているほか、剣と軽装の鎧とで武装していた。


 トリーシャと同じく戦士であるアシュレイは、同様の一般道具のほか、トリーシャのそれより大型の剣と、上半身をすっぽり隠すほどの大きさの盾、重厚な金属鎧を身に着けている。


 また、エルフのリネットは、治療師ヒーラーが好んで着用する白の法衣を着て、手には小型の弓を。

 獣人にしては珍しい魔術師メイジのメイは、少しぶかぶかの濃緑色の法衣をまとい、手には特徴的にねじくれた形の木の杖を持っていた。


 夕刻前に出立した冒険者たちは、街を出てからしばらく森の中を歩き、完全に夜闇に閉ざされる直前ほどの時刻にたどり着いた小さな村で宿を取って、そこで一夜を過ごすことにした。


 宿では、アシュレイが個室を一部屋、残りの三人が相部屋を取って宿泊しようと提案されたが、トリーシャが個室を望んだため、結局三部屋を取ることになった。




「……トリーシャさん、私たちと一緒の部屋だと、嫌だったんでしょうか」


 メイとリネットの二人部屋。

 獣人の少女は、ベッドの上でその犬耳をしゅんと倒し、うなだれていた。


 もう一つのベッドの上で荷物を整理していたリネットは、そのメイの姿を見て、ムッとした顔になる。


「……こんなに可愛いメイを、こんなにしょぼくれさせるなんて、許せませんわ。やっぱりわたくし、トリーシャに抗議してきます」


「わっ、い、いいですからっ! やめてくださいっ! 私がトリーシャさんに殺されますぅ!」


 部屋を出て行こうとするエルフの少女を、慌ててひっ捕まえて引き留めるメイ。


「……何も、取って食われやしないでしょうに」


「うううっ、でもぉ……」


「む、し、ろ……メイのことを取って食べちゃうのは、私の方かもしれませんわよ」


 リネットは、自分の胴にしがみついて引き留めている獣人の少女の、そのお尻から生えているふさふさの尻尾を、手できゅっとつかみ取る。


「きゃいんっ!」


 尻尾をつかまれたメイは、悲鳴をあげてびくんっと跳ね上がる。

 悪い顔になったエルフの少女は、その尻尾をさわさわといじり倒す。


「やっ……あっ……尻尾は、ダメ、ですぅっ……!」


「ふふふっ……ならどこだったらいいんですの? ほらほら、こことかぁ……?」


「はううぅぅぅ……」


 などと二人がじゃれあっていると、部屋の外の廊下をとっとっ、と歩いて行く足音が聞こえてきた。

 リネットがメイを解放し、扉を少し開けて見ると、薄着になった銀髪ポニーテイルの少女が、タオルを持って歩き去って行く姿が見えた。


「トリーシャさんですわ。温泉に入りに行くみたいですわね」


 温泉は、火山近くの村の名物である。

 宿にも露天の公衆浴場が備え付けられていて、湯治とうじのために村を訪れる旅人もいるぐらいである。


「……これは何かを隠しているトリーシャの、秘密を知るチャンスかもしれませんわ。メイ、わたくしたちも行きますわよ」


 そう言ってリネットがメイの方へと振り返ると、


「は、はひぃ……」


 そこには、ベッドの上にくってりと倒れ、温泉に入る前からすでにのぼせ上がってぴくぴくしている獣人の少女の姿があった。


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