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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
第二章 オッサンの異世界
9/25

転属

勢い込んで、勢いだけで書きました。オッサンが一人になってゆく第二章が始まりますw待っていろよ「異世界」w好き勝手『妄想』してやる・・・wふはははははははhhhhhhhww

 スイマセン・・・。興奮気味です。長いです覚悟してくださいw

 質素な、どこにでも置いてある机を挟んで二人の男が対峙していた。

 「転属ですか・・・・?」

 対峙している一方の男が直立不動の姿勢のまま、大して造りの良くない・・少々くたびれた椅子に座っている男に尋ねていた。


 「なんだ・・・?不満か・・?」

 椅子に座り、直立不動の男性に顔を向けないで、机に置かれた蕎麦ををすすりながら、疑問について答えるもう一方の男。


 「はい。そうではありません。シュマイツァー少将。」

 蕎麦をすすりながら答えたシュマイツァー少将に視線を落とさず、その背後の強硬クリスタルの窓から覗く虎頭要塞の内部都市を見つめながら表情も変えずに的確に答えていた。

 一瞬だけシュマイツァー少将が食べている物に視線を向ける。


 『虎頭要塞 爺さん蕎麦 盛りそば二人前』


 ほのかに香る新蕎麦の匂いと、薄く立ち上る暖かい麺つゆの上品な出汁の香りが鼻孔をくすぐる。

蕎麦の傍に置かれたネギと、摩り下ろしたばかりの『地球 日本 青梅産本山葵』が、更に食欲を掻きたてる。

 蕎麦八、小麦粉二で練られた二八蕎麦。ツルツルとした質感をもった蕎麦が、麺つゆに軽く浸けただけでシュマイツァー少将の操る箸によって、口内に運ばれてゆく。

 ある程度咀嚼したのち、咽喉の奥に流し込み、食道を流れ落ちながら胃に納まってゆく。その過程で、蕎麦とツユに着いていたネギと本山葵の清涼感が鼻腔から上ってくる。


 その香りを十分に楽しんだ後に、麺つゆに蕎麦湯を流し込み、まるで高級コニャックを楽しむかの様に眺めた後一口二口と啜ってから満足したため息を吐き、直立不動の男に向かって言葉を掛ける。


 「貴様が為した行いへの評価の結果だ・・・。ま、ゴリウス戦役での貴様の活躍は、地球連邦本部のみならず、友邦国であるエルフィリア皇国にも伝わるほどだ・・・。栄転だな・・・おめでとう。」

 自らが吐き出した言葉を全く信頼していない口調で、直立不動の男に自らの言動を放り投げていた。


 「栄転ですか・・・?では、次の任地は何処でしょうか?」

 シュマイツァー少将が吐き出した、どうでもいい感じの言葉の砲弾を全く意に介せず。命令に忠実な軍人の態度そのままに質問を返していた。


 「なんだ?他にこの案件に対する意見は無いのか・・・?ライネシア皇女を俘虜にした時の事での報復人事とか?長年の憲兵達に対する行いの結果・・とか?ゴリウス共和国の捕虜に対する虐待容疑とか?」

 大して面白くもない口調で、目の前の男が行ってきた事を上げてゆくシュマイツァー少将。だが、その目尻には諧謔の色を含んだ皺が浮かんでいた。


 「はい。全くありません。」

 シュマイツァー少将の諧謔の色を含んだ表情を見ても、全く表情、態度を変えず。相も変わらず直立不動の姿勢を崩さず、律儀に答えていた。


 諧謔の色を含んだ表情をそのままに、自らが手に持っていた蕎麦猪口を机に起き。初めて顔を男に向ける。先程より『柔らかい』雰囲気で声を出していた。

 「ふん・・・。相も変わらず変わらんな・・・?ヒデト・・?命令に忠実で、任務に精励し、戦友を援け、作戦全体を見渡しながら軍にとって最も有益な行動を心掛ける・・・。だが、命令が自分達の力量を遥かに超えていた場合と、仲間を無益に見捨てる行為は絶対に受け入れない・・。」


 賞賛か、罵倒か分からない言葉を浴びせながら直立不動の男・・・タカハシ・ヒデト伍長の表情を伺うシュマイツァー少将。

 だが、シュマイツァー少将の視覚は何の変化もヒデトから読み取れないことを、大して働いていない自分の脳に伝えるだけだった。


 「先程シュマイツァー少将がおっしゃられた、作戦中の事柄につきましては次善の策を採用したまでです。その際にライネシア皇女。および、御付の者たちに対する行為が人倫を踏みにじるものとは考えませんでした。憲兵達に対する態度・行為については弁明する事はありません。さらに、ゴリウス共和国の将官に対する行為については、現場を視察した査察官殿も問題はないとのことでした。」

 向けられた砲撃を巧みに躱しながら、的確に自らの行為の正当性を主張するヒデト。


 「もういい・・・。くだらん話し合いも疲れる。だいたい俺の食事の時間を潰してまで話す事柄じゃない・・。まったく『閣下』と呼ばれる身分になっても二等軍曹に自分の時間を使わなければならんとは・・・。『軍』とは厄介なものだな・・?分かっていたつもりだったが・・。なぁ?ヒデト?」

 何もかもが面倒になってきたらしい。だいたい自分の貴重な食事の時間。しかも、『爺さん蕎麦』の新蕎麦を味わえる期間は限られている・・・。その『楽しみ』の時間を歳の離れた『幼馴染』の事柄に奪われるのも何とも癪だった・・・。


 「ええ、そうですね。ダイ兄ちゃん。いつも迷惑をおかけしますwで、本当の理由は何でしょうかね?」

 さっきまでの態度は何処に行ったのか・・。直立不動の姿勢も崩して、年の離れた『幼馴染み』・・・・・ダイスケ・フォン・シュマイツァーに話しかけていた。


 「ああ。俺もあまり詳しくはない。だが、各地に散っている同期の連中に聞いてみたんだが。さっき俺がいった後ろ二つは除外していい・・。憲兵の事は、最早日常茶飯事だ。お前に対する新任憲兵に配布する対策資料すら作られたらしい。笑えるな。ゴリウスの筋肉達磨達に対しては・・・、戦闘行動中であり。あの時点では捕虜では無かった・・。現地住民に対するゴリウスの残虐行為を止めたと解釈している。まぁ、あの案件のお蔭で、ゴリウス共和国の支配に対抗する住民感情が造成されたと、民生局の連中はよろこんでいたがな?」

 

 ダイ兄ちゃんの言葉を聞きながら今回の事を頭の中で整理してゆく。


 憲兵達の事はいい・・・。いつもの事だし、昇進が遅くなるだけだ。だいたい昇進してダイ兄ちゃんの様に作戦計画を成功させるために、戦友に犠牲を強いる命令を俺が出せるとは思えない・・。それに、ダイ兄ちゃんをサポートするために軍に入ったのだから・・・。まぁ、軍に居られない事にならない様にしているしな。

 ゴリウス共和国の筋肉達磨どもの行為は目に余った。散々好き勝手しておいて、戦況が悪くなった途端に現地人に偽装して希少品をもって逃げ出そうとしていた。

 しかも、偽装する際に虐殺行為をおこなっていやがった・・・。幸い戦闘行動中止命令が発令していなかったから、少し『掃除』をしていただけだしな。全ては『戦闘中の追撃戦』だ。

 まさか、民政局が喜ぶとは思わなかったが・・・・・。


 じゃあ、ライネシア皇女の件か?まさかな・・・。あの案件は軍一般命令に従ったまでだ。ま、確かに『スライム』に放り込んだのは不味かったか・・・?だが、あの状態でライネシア皇女の御付の者達に騒がれていたら、皇女の身にも危険が迫っていたはずだ。『どのような犠牲を払ってでも、皇女の身柄を確保。全力でその身命を守れ』・・。うん。間違った行為ではない・・。

 『スライム』に入っていただく際に皇女殿下には説明したしな・・・。ライネシア皇女は微笑を浮かべていたなぁ。ああ、御付の者達には説明してなかったな・・・。


 そこまで考えを一瞬で纏めたところにダイ兄ちゃんの言葉が降って来ていた。


 「お前が考えているとうりに、ライネシア皇女の件らしい・・・。同期の連中、皇女の件については途端に口が重くなる・・・。どうやらこちらが思っている以上に深刻な案件らしい・・・。細かいところまでは情報を掴んでないが、師団情報参謀と師団生体量子思考回路群が『非公式』に調査をしたところ、お前の身体の拘束も考えているらしい・・・。大人気だな?」

 ヒデトの考えを読んだかの様に指摘するシュマイツァー。更に『非公式』に師団情報部を動員したらしい・・。


 まさかと思いつつ対策を練っていた所に、ダイ兄ちゃんの情報が脳内を跳ね回る・・・。くそ・・!そこまでの重要案件とは思わなかったな・・・。

 軍内部では命令に忠実に従い、且つ目的を達成した俺たちに対しては賞賛と褒章はあっても、貶めるような事は絶対にしない。

 その様な事をしてしまえば軍内の士気が保てなくなる。確かに無茶とも思える命令はこれまでも何回もあった。だが、それらの命令にしても困難であったが達成できない程ではなかった。

 それに、『軍命令』に従い、それに伴って起きた出来事に対しては法務官の調査が入る。しかも結果はどの様な事であれ公表される。

 そして、調査結果が公表されるから軍内部の士気や、戦地での規律が保たれる。だからこそ今回の出来事を処罰した場合、『軍に』所属する大多数の者が『軍』に疑いを抱くようになる。疑心暗鬼に陥った『軍隊』など何の役にも立たない。

 ははw女性からの恨みほど怖いモノは無い・・。畜生、ここまでとは・・・・。流石に予想できなかった。ただの伍長にここまでこだわるとは・・・。本当に嗤うしかないw。だが・・誰から恨まれるんだ?皇女の話を伺った女性士官経由で得た話では、そこまでの事では無かった・・。いや、逆に笑いながら俺の事を頻りに聞いてい・・・。

 ならば・・・・・分からん・・。


 「そう思いつめるなヒデト『二等軍曹』wどうやら軍上層部からの要請ではないようだ。外交商務省からの要請らしい・・。しかも、エルフィリア皇国皇室担当部かららしい・・・。やっぱり当たりだな・・」

 年の離れた『幼馴染み』が額に汗を浮かべながら責任回避の為の方策を練っているところを、意地悪く眺めながら『本命』について発言する。


 「外交商務省・・・・エルフィリア皇国皇室担当ですか・・・?またですか・・!あそこのお蔭で私の隊は解散したのですよ!まぁ、戦争が国境紛争レベルになったおかげで軍全体で軍縮に取り組んでいたから、師団縮小による予備役編入なら諦めもつきますが・・・。エルフィリア皇国皇室の特別の『要請』で私以外の班員はエルフィリア皇国に出向ですからね・・。何時からウチの師団は人材派遣会社になったんですか?」


 事実だった。エルフィリア皇国との紛争が終了し、お互いの文化交流や貿易。科学技術交流、人材交感プログラムなどの計画が展開していた。

 それに、紛争が終了したため。あれだけ潤沢だった軍事関係予算も大幅にカットされていた。『猫はネズミが居るからこそ特別な扱いをされるが、居なくなれば捨てられる』とゆう訳だった。

 実際問題として国力にかなりの差があるエルフィリア皇国との紛争に『勝利』したため、『戦勝国』としてエルフィリア皇国に数々の『お願い』をされる羽目になっていた・・・。

 その『お願い』にエルフィリア皇国に対する人材の派遣が含まれていたのである。


(この『人材派遣』。エルフィリア皇国の内部事情も関係していたらしい。長い歴史の中で三種族に厳密に生存圏を定めていたため、近親婚による遺伝子の劣化が問題視されていたらしい。それが、地球人類との『交感』とそれに伴う『交合』によって、エルフィリア皇国を構成する三種族の遺伝劣化が防げるのである。

 この事によって、エルフィリア皇国に蔓延していた漠然とした『種』としての不安が取り除かれ、『異文化』の刺激も相まってエルフィリア皇国有史以来の繁栄を見ていた。

 それらの事象を勘案し、エルフィリア皇国首脳部は地球連邦に対して大規模な『人材派遣』を要求してきたのである。

 もっとも、誰でもいいとゆう訳ではなく。エルフィリア皇国人に偏見を持たず、ある程度の『節度』を持った『軍』関係者を求めてきたのだが。

 結果だけ見るならば、どちらが『戦勝国』か分からない。と、噂される事態になっていたが・・・。)


 「うん?何が不満だ・・?救助中にエルフィリア皇国の美人と知り合えなかったのはお前だけだったか・・?」

 今にも吹き出しそうな笑いを抑えつつ、真面目な顔を装いながら尋ねる。


 「ええ、そのとうりですよ!グウェンはズラヴィー文化親善大使と恋仲・・もう・・ほぼ夫婦ですね。ユーリーはゴブリートのオペレーターと趣味があったみったいです・・何の趣味かはダイ兄ちゃんも知っているんでしょう・・?ジョーは救助した後の『交感会』で、ほぼ全てのエルフィリア皇国人に求愛されていました・・。彼らの理想像の『ど真ん中』だったみたいです・・。こちらの文化親善大使に選ばれて『アッチ』の本国に行ってます・・。

 私の代わりで班に編入したザルハスは・・なんと皇位継承権第五位のお姫様と絶賛恋愛中です。」

 シュマイツァー少将の顔に浮かんだ笑いを見ながら答えるヒデト。だが、事実を淡々と話すのみで別に不満があるわけではないらしい。


 「あのグウェン・・『撃墜王』も遂に落とされたか・・。それに、ヴァイツル家の長男坊が・・まさか皇室と繋がるとはなぁ・・。ユーリーの趣味に合うやつが皇国に居たとは・・感慨深い・・。それに、ジョーがあそこまで人気になるとは・・・もう、ほぼアイドル扱いだよなぁ~w

 だが、お前さん。ジョーが向こうに行く前に相談を受けたんじゃなかったか・・?」

 いつの間にか席から立ち、部屋の片隅に置いてあるキャビネットの上に置いてある、二十世紀の戦艦の模型を眺めながらヒデトの班の人員について語るシュマイツァー。


 「ジョーから『大事な相談があります』とのメールを受け取りましたが、会う前に転属になりましたからね・・。何を相談したかったかは不明です・・・。」

 肩をすくめながら応じるヒデト


 「転属先でもメールでやり取り出来ただろ・・・?いや、そうか・・・遠征派遣軍は極秘扱いだったな・・。」

 ヒデトの方も見ずに、飽きもせずに戦艦を見つめながら声を掛ける。


 「そうです。紛争が終了したとはいえ、二日前まで『敵』だった国の『競合相手』を潰しに行くんですから・・・流石に一般に流れたら不味い事柄です・・・。

 ま、今となっては『良くやった』と両陣営から賞賛される事柄に成っていますが・・・。

 情報統制が切れ、帰ってきたころには四人とも転属していましたしね・・・・。」

 どこか疲れた表情に、諦観の念を浮かべながら返すヒデト。


 「まぁ、そんな顔をするな・・・。お前の身柄を欲しがっている外交商務省に対して、先手を取ることにしたwその為の『転属』だ・・・・。」

 自分で作った戦艦の模型の一部分を見つめながらヒデトに対策を話すシュマイツァー。


 「ええ、先ほども聞いた転属の命令ですよね・・・。それに、『二等軍曹』ですか・・・?」

 不満の色を隠そうとして失敗しているヒデト。


 「流石に今回は憲兵達は使えんぞ・・・。あれだけの軍功を掲げたんだ仕方がない。お前が階級の上の人間では『救えない』者たちを気に掛けるのは分かるが・・・・。諦めろ・・・。だいたい貴様の軍歴と軍功なら『特務准尉』になってもおかしくない。二等軍曹に留めるのも今回だけだ・・。直ぐに昇進できる。おめでとう!」

 ヒデトの不満の色を隠せない声音に反応して、シュマイツァーの声が弾む。


 それに対して『沈黙』を持って答えとするヒデト。


 「宜しい!ヒデト二等軍曹!命令を伝える。本日をもって『第七空間降下兵師団』から地球連邦本部・深部探査隊に出向とする!任地は・・・・?何処だったか・・・?」

 命令書を持って来てなかったらしい。


 その時部屋のドアがノックされる。

 「シュマイツァー少将。ヒデト二等軍曹の転属命令書と転属先の詳細なデータホログラフです・・・。先程お持ちになって下さいと言ったはずですが・・・?」

 うなじのあたりで切り揃えられた、深く濃い茶色のショートボブに包まれた顔の中心から。威圧するかの様な視線を送ってくる、二十台中盤の魅力的な肢体をもった女性の声が響いた。


 「いやぁ・・・・。誠にありがとう。サラ大尉。」

 戦場では全く動揺する事のない、鋼鉄の男が。虎を目の前にした小動物の様に怯えながら返事をしていた。


 その怯えた返事を待つ事なく、素早くドアーを閉め。興味などないとばかりに疾風の様に去っていく美しい肉食獣・・サラ・ヴァルカン大尉。


 何時の間に移動したのか、自らの存在感を打ち消した状態で部屋の隅に退避していたヒデトが囁くようにシュマイツァーに声を掛ける。

 「ダイ兄ちゃん・・・・・。まだ、サラさんに告白してないんですか・・・・?もう、五年になりますよね・・・・・?」


 かいた汗の為なのか・・・・、それとも肉食獣の雰囲気のせいか・・・。部屋の空調温度を気にしながら、これまた囁くように返事をする・・・・。

 「うん・・・・。なかなかタイミングが・・・・。」

 とても戦場で苛烈な判断を下す人物と同一には見えない・・・・・・。


 「いや、まぁ・・・・・。とりあえずお前の転属先だ・・・・え~と、カリオン方面・・?ああ、エルフィリア皇国から譲り受けた星域だな・・・。第三星系4番惑星・・・・オメガ04?星系名も惑星名称もなしか・・・えらい辺鄙な所だな・・・・。お!でも、お前そこの補給廠の責任者だぞ!」


 自分で転属させたくせに、詳細も分からないとは・・・・。ほんとにこの人『戦』と『食』以外才能ないな・・・。いや、それ以外だと脳が思考をやめてしまうんじゃないか?

 「で、私だけでしょうか?」


 「いや・・・・・。うん・・・?人間はお前さんだけだな・・・。だが、サクヤと同形態の生体量子自立思考回路が組み込まれているな・・・。お、生体ユニットもついてくる・・・。せいぜい思考回路の気分を害さないようになw

 では、改めて・・・。ヒデト二等軍曹!第347自立稼働補給廠への転属を命じる!」

 先ほどまでの弛んだ雰囲気を吹き飛ばす様な『凜』とした声が響き渡る・・・。


 「はっ!謹んで上番致します!」

 軍人としての節度をしっかりと守った声が命令を復唱する。補給廠と来たか・・・。まぁいい、まだまだ戦火は続く・・・。俺みたいな『莫迦』にも声がかかるだろう・・・。それまでの休暇と思えば何事の事もない・・・。






 「そう思っていた時期が俺にもありましたなぁ~~・・・・。どうしてこうなった・・・?」


 見渡す限りの朱い荒野を、巨大な全環境対応タイヤを10輪備えた大型機動装甲輸送車『タウルス』の司令塔の中からオッサンの物哀しい声が響いていた・・・。


 だいたい、紛争が長期化すると思っていた『ゴリウス共和国戦線』が。早々に決着が着くとは思わなかった・・・。

 二基の機動要塞の陥落と、四か所の生産星系への軌道降下戦。そして、その星系に対する占領戦で結構な数のゴリウスの筋肉達磨共を破っていたが・・・・。

 まさかそれによってゴリウスの前線将兵が総撤退するとは考えもしなかった・・・。勝ち戦に乗っている時は勢いがあるが、負けに転ずると現地の価値のある物を持てるだけ持ってトンズラしてゆく・・。

 その際に現地住民を虐殺し、成りすましてまで逃げてゆく。


 まぁ、そのおかげで占領政策が上手く行き。ゴリウス共和国の武力によって併合されていた衛星国家群が、すんなりと離反して<地球連邦・エルフィリア皇国同盟>に加入してしまった。

 これによって、広がるはずだった戦域も縮小され。軌道降下戦など起こらなくなっていた。そうなれば各地に転属させた熟練古参兵も召集する必要がなくなる。

 

 「よって、俺の様な『戦莫迦』は管理業務とゆう名の暇つぶしを行っているんだよなぁ~~はぁ~・・。」

 話す相手もいない、大きな司令塔の指揮座席で盛大にため息を吐きながら独り言ちるヒデト・・・。


 「しかし、変調現象の確認された場所から3キロしか離れていないが・・・・。」

 呟きながら、指揮座席に備えられた大きな情報表示板に目を落とす。そこに次々と入ってくる情報・観測データ・イオージマからの衛星画像・飛行、地走ドローンの調査データ・・・・・。

 まったく変動が無い・・・・・。何もない・・・・・・。磁気嵐とか・・・オメガ04独特の朱い砂嵐とか・・・・・

 司令塔からカメラを介して全周を見渡す・・・・・見事に朱い荒野が地平線まで続いている・・・・。カメラを上空に向ければ・・・・・。

 普段なら朱茶けた暗い雲が立ち込めているのだが・・・・・ここ二日ばかり鮮やかな朱い空になっている・・・・。


 「変調現象なんてあったんか・・・・?なんにもないじゃねぇ~か!・・・・。暇すぎる・・・。」

 補給廠から『タウルス』で変調現象の場所に到達するのに時間がかかってしまった事が原因なのだろうか?

 当初、『タウルス』に索敵用のドローンと長期作戦用の設営設備を増設するだけだったのだが。イオージマから送られてきていた、新型の兵器類・索敵兵装・設営設備などを『いい機会だから試してこい』とのお言葉が、オメガ04開発最高責任者チャン・グリュッケン大佐から在り、なんだかんだと増設され。

 さらに、ミヨナから『お願い致しますねw』と。配備された地盤改良や小型基地開発設備・・・、挙句の果てには中央本部からのサクヤも『新型のバイオプラントも・・・・』便乗してくる始末・・・・。


 全ての兵装・設備・機器・メンテナンス用自立機器群・農業・工業・バイオプラントなどなど・・・。


 とてもではないが『タウルス』で牽引出来るものでは無かった。その為に『イオージマ』から大型機材揚陸輸送艇『コウノトリ』が派遣され、その艇内に収められていた特殊輸送車『ギガント』で持ってゆく運びとなった・・・。


 あまりにも暇なため、眠くなりそうな自分の思考を纏めるため。両手で自分の頬を叩いて気合を入れるヒデト。

 「さて、機材のチェックでも致しますかなぁ~・・・・。いかん・・グウェンの口調になってきてしまっている・・・。それにしても、持ち込み過ぎじゃね?」


 確かに少ない人材を、監視・管理業務にだけつけるには『勿体ない』のは分かるが、何も補給廠の前進基地を作る必要はないんじゃないかな?

 それに、農業・バイオプラント施設なんてどうすればいいんだ?だいたい『変調現象の調査』なんて・・・都合よく仕事を押し付ける為のデマなんじゃないかと思えてくる・・。


 指揮官座席の中央コンソールに、ひたすら流れてゆくチェックリストを眺めながら、自分の思考が気合を入れたにも関わらず空回りしているのに気付く。


 「どうですかヒデトさん?変調現象の調査は・・・?」

 そこにミヨナからの定時通信が響いてくる・・。あまりにも暇だったため、そんな時間になっていたとは気づかなかった・・・。

 普段の自分ならば、意識せずとも定時連絡は時間30秒前には行えていたのだが・・・明らかに倦怠感が増している。

 『戦場』から離れすぎたのが理由だろうか・・?いや、デスクワークばかりなのが理由かもしれない。


 「おはようミヨナ。調査は順調に進んでいるけど・・・。何にも異常が発見できないね。本当にここ最近のデータ、当てになるのか?」

 眠気を隠そうとせずにミヨナに答える。


 「おかしいですねぇ・・・。変調現象の規模は、最初に観測された時より徐々に範囲を拡大しているのですけど・・・?」

 相変わらずのうねりを持った美しい銀髪を、艶やかに垂らしている顔の顎先に。右手の人差し指を当てながら、首を傾げるミヨナ。


 その美しくも可愛らしい仕草を見ながら、ミヨナに『本題』を尋ねる。

 「で、調査業務の片手間に何をやらせようとしているんだ・・・・?ミヨナ・・?ま、片手間とゆうには大規模な施設だが・・・・?」

 ボーっとしながらさっきから眺めていた生産・農業・バイオプラントの設備データが、凄いスピードでスクロールしていた。


 「アハ・・?!やっぱり気づきます?そのあたりの地域に農業・バイオプラント試験設備を造成しようと思いまして・・・。私、面倒なの苦手なんですよね?立ち上げとか・・・。」

 悪気もなく、異性を一発で虜にする微笑みを浮かべながら素直な感想を述べるミヨナ。


 いみじくも生体量子思考回路群の生体ユニットが『面倒な事、苦手!』って・・どゆこと・・?そんな疲れが押し寄せるようなミヨナの感想に辟易しつつ、詳しい作業内容を確認する為に、ミヨナに尋ねようとしたところ・・・・。


 司令塔の中に響き渡る警告音。指揮官用コンソールに流れてくる、各調査機器のデータ。時を於かずして『イオージマ』からの衛星画像もアップされてくる。そして、鳴り響く直通コール。


 「チャンだ・・。ヒデト、変調現象が確認された・・。ミヨナと通信中だったのか?ちょうどいい三者通信に切り替える・・・・。よし、皆の意見を聞きたい・・・。」

 若干、緊張感を含んだ声音だったのだが、ホロジェクターに映るリアルタイムのチャン大佐は・・・。口元に海苔のカケラを付けていて、その右手には齧りかけの御握りを持っていた・・・・・。


 それを見ていたミヨナとヒデトは同時に声を発する・・・。

『大佐・・・・・・。せめて御握りは食べてからに・・・・。』


 「ああ、すまんなぁ?こう暇だと・・なんか小腹が空いてしまってね。忘れてくれ・・・。だが、今回の変調現象・・・、前回までのデータと明らかに違う。軌道上から観測しても、規模が大きい。ウチの観測班やら、索敵班。おまけに砲術まで面白がってデータ取ってる。よっぽど暇だったんだな?」

 御握りを通信用ホロジェクターの外に出し、笑いながら結果を報告してくるチャン大佐。


 辺境業務で暇を囲っていたのは俺だけじゃないらしい・・。当たり前だよな。


ライネシア皇女強奪作戦時に大きな損傷を負ってしまった『イオージマ』

 作戦行動に使えなくもないが、艦齢はすでに15年・・・。何度も改修しながら使われてきたが、ここまでの巨艦を完全に修理し、戦線に復帰させるには予算も人員も足りていなかった。

 おりからの軍事予算削減のあおりを受けて、一応の修理を施された後に虎頭要塞の軍港ポートの端っこに置かれたままになっていた。

 このまま艦も人員も遊ばせておく余裕のない航宙軍司令部は、平時になって大幅に予算を増額された深部探査隊に艦・人員・装備も含めて『出向』させてしまう。

 本来なら艦長も含めて腐ってしまう所だが、『出向』した先の深部探査隊の方が、俸給が4割増しなうえ。戦闘行動に入ることが無い事も手伝って士気は最高潮になっていた。(だが、極端に暇になってしまったが)

 

 だからこそ、このような『面白そうな』、しかも自分たちに悪影響が無い『イベント』は大歓迎だった。なんだかんだで『事故』が起こっても、所詮二等軍曹が泥をかぶるだけだし。何は無くとも、新装備や兵器群。開発・生産ユニットの実験データは手に入る。

 しかも、そのデータを本部に送れば、更に俸給が上がることになっていた。人間、理想や空想だけでは食っていけない。やはり金は重要なのだった。


 「でだ、こちらとしては大気圏内外活動用の偵察機を三機出した。指揮・管制はそちらに回す。な~に最新型の自立生体量子思考回路群が組み込まれた機体だから、お前は指示を出すだけでいい。しかも、機体が大型だから自前で整備する便利機能付きだ。予算が潤沢だと、ヤルことが軍みたいに貧乏臭くなくていいよな?」

 先程隠した御握りを、その大きな口で一気に食べ終えると。緊張感を滲ませた表情で注意点を話してくるチャン大佐・・・・けれども、ご飯粒が口の端についていて・・なんか、いろいろ台無しになっていた・・。


 「だが、二人とも。データを確認しているからあまり意見しないが、今までとは変調現象そのものが違うみたいだ。まぁ、そうゆうことだ。」

 緊張感を滲ませているのが声音だけで、表情の方はにやけていた。


 「了解です。データ確認の後、自分も『外』で観測業務に着きます。」

 いい加減自分の『眼』で確認しないと落ち着かない。貧乏性なのだろうか?だが、まぁ。暇つぶしにはなるだろう。流石に暇を持て余すには体と精神に余裕がなくなってきた。事故・イベント・危険・未知・・いろいろとワクワクするじゃないか。はは・・。やっぱり俺はビョーキだ、うん。しょうがない。自らの価値観を他人と共有するには年を取り過ぎてる。病んでいれば理由にもなるか?


 少なくとも、このビョーキの症状は。楽しませてくれる。ああ・・やはり狂信だな・・・・。


 自らの口の端に、満足げな笑みを浮かべながら準備に入るヒデト。


 そこに、チャン大佐からもう一度通信が入る。

 「そうだ、ヒデト?ミヨナと離れてもう一週間か・・?新婚には辛いな!え・・?まだ・・・?ミヨナはこう言っているけど・・・?」

 『イオージマ』の指揮官専用コンソールに、いつの間にかブリッジクルーのほとんどが顔を出していた。

 「据え膳だの」、「意気地なしだの」、「ミヨナちゃん可愛そう」・・「遊び?ねぇ遊びなの」など耳を覆いたくなるような言葉が飛び交っていた・・・・。


 それらを無視して『イオージマ』との接続を切るヒデト。さぁ、久しぶりの『外』と気負いこんだのだが・・・・。

 通信が一回線切れていない・・・・。


 「遊びだったんですか・・・・・?!遊びだったんですね・・・・!うわ~~~~」

 美しい顔に涙をいっぱいに浮かべながら通信ホロジェクターから走り去るミヨナ・・・・・・・。


 それら一連の出来事を、ため息一つで切り替えて一言述べるヒデト・・・・。


 「どうして、こうなった・・・・・・・?」

 誰もいない司令塔に響き渡るオッサンの独り言であった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 








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