開戦
粛々と進む第八艦隊によるエルフィリア皇国旗艦艦隊への強襲。それらすべては「平和」への代償・・・。投入される戦力。艦艇250隻・兵力32万・・・。それらすべて「平和」への供物・・・。
作戦の成功によって手に入るものに比べれば膨大な将兵の命も蚊の涙・・。
##更新遅くなり申し訳ありません。設定が脳内で勝手にダンスを始めました。支離滅裂者なので勘弁してください。お叱りのメッセがモチベになります。##
ほのかな緑の光点によって照らし出された航海艦橋。
その薄暗い艦橋は、戦闘前の緊張に包まれていた。艦橋の艦長席後方に設置されている司令官座席で、アーレイ・グリュー中将は、自分の右前方に立っている艦隊司令部から派遣された派遣参謀を視線の中に収めていた。
航宙艦隊の制服を纏ったその肢体は美しい曲線で形作られており。肩のあたりで切りそろえられた薄い赤毛の髪はつややかに流れ。その髪の下を見やれば、適度な柔らかさを感じさせるウエスト。そして張りのある腰、ひざ上までのタイトスカートから何とも言えない艶やかな足が伸びていた・・・。
「一晩共にしてみたいものだ・・・・。」などと、戦闘前の司令官としては、いささか問題のある思考が浮かび上がってきた。
うん・・?これから戦闘だとゆうのに随分と余裕があるものだな・・・。歴史小説に出てくる勇猛な武将の様だ・・。自分自身の中にこんな思考が芽生える事に、軽い驚きを覚えながら。アーレイ中将は派遣参謀の柔らかそうな臀部から、視線を外さずに今回の作戦の事を考えていた・・・。
「強奪・・・・・。ですか・・・?」
第八艦隊旗艦「陸奥」。その司令部施設会議室。
航宙艦隊司令部から作戦の詳細な内容と、命令を伝えに派遣された美しい女性を前にして。第八艦隊司令長官アーレイ・グリュー中将は。学者を思わせる端正な顔立ちに、軽い驚きを浮かべながら。丁寧な口調で伝えられた内容を口にした。
「ええ、そうです。強奪です。アーレイ司令官。」
航宙艦隊司令部派遣参謀ミランダ・ジュライナー少佐は首肯した。制服に包まれた程よく熟成した女性を感じさせる肉体。年の頃は三十代前半に見える。肩のあたりで切りそろえられた赤い髪。前髪は眉の下あたりで整えられていた。憂いを含んだような碧い瞳が、彼女の幼く見える顔立ちを打消し。その肉体も相まって非常に魅力的に見せていた。
「強奪とは物騒な言葉が出てきましたな?我が艦隊は航宙軍であって、海賊ではないのですがなぁ。」
ミランダ少佐を見やりながら(勿論。その肢体にさりげなく視線を纏わりつかせながら・・)艦隊の中でアーレイ少将の次に高位な「陸奥」艦長リュグスト・ケドウィッチ大佐が。短く刈り上げられた頭部を掻き、熊のような体躯を伸ばしながら言った。
張りのある声。短く刈り上げられた頭部。獲物を追いかける鷲のような眼。更には、熊のような体躯が、彼を海賊の船長のように見せていた。
その海賊の見本のようなリュグスト大佐の言葉に、会議室に居合わせたもの全員が失笑を禁じ得なかった。
その失笑と、何とも言えない雰囲気を感じて。リュグスト大佐は、似合わぬ可愛らしい笑みを浮かべた。
それがまた、皆の失笑をさそうのであった。
「そのとうりですわ、リュグスト大佐。今回、第八艦隊の皆様には『海賊』になっていただきます。」
憂いを含んだ瞳に、妖しい色気を漂わせながらミランダ少佐はそう言った。
先ほど発言したリュグスト大佐の隣に。眉目秀麗な凛とした美女が、妖しい色香を放ちながら佇む姿は。まるで海賊の娼姫の様であった。
「『海賊』になるならば是非、奪うべきものを教えて頂きたいですな?我が第八艦隊が総出でかからなきゃならない『敵』・・いや、ここは海賊らしく『獲物』ですかな・・・?」
第八艦隊第一水雷戦隊を預かる、ライゾウ・スズキ少佐が諧謔味たっぷりに尋ねた。
「勿論、第八艦隊の皆様に満足を覚えて頂ける『獲物』です。しかし、これから説明する内容と目的をお聞きになれば。この作戦が如何に重要かお分かりいただけると思います・・。」
先ほどまでの妖しい色香を放つ娼姫はそこにはいなった・・。ただ、任務に忠実な派遣参謀がそこにいた・・・・。
西暦2125年。人類は『漂流者』からもたらされた知識と技術を持って、太陽系を飛び出し。銀河系中心に向って大いに飛躍していた。
地球とゆう、母の胎内で燻ぶっていた生命は。外界に飛び出す力を持て余していたかのように、急速に広がっていった・・。
生存権を広げる中で、何度か人類同士の内乱を起こしたが。最終的には地球を本部とする「地球連邦」を構成するに至った。
この「地球連邦」によって、各星系に散らばった人類は緩やかに統合され。各自治星系ごとに、通商や技術の交感を行い。お互いの長所をさらに伸ばし、それがまた人類文明の発展を促していた・・・。
地球連邦はその生存範囲を銀河系外縁部に拡大し、そのほとんどを自らの支配領域としていた。そして、銀河中心方面にその開拓の精神を向け。連邦が中心となって「銀河中心部深部探査計画」が立ち上がった。
第一から第六までの大型探査船(まぁ、軍払い下げの旧式戦艦がもとになっているのだが)を中心とした探査艦隊を結成。それぞれ、地球の月軌道から探査任務に旅立っていった。
異変が起きたのは探査艦隊が旅立って半年後だった。それまで各艦隊共に探査の成果を通信してくるだけで、至極順調な旅路であったのだが。銀河中心方面で最も深部に進んでいた第二探査艦隊から、その異変はもたらされた。
「我、異文明とおぼしき艦隊の接触を受ける。これより接触を保持し、友好関係を結ぶように努力する。」
この連絡を受けて、探査艦隊司令部に衝撃が走った。漂流者以外の「異文明」。司令部から第二探査艦隊に向けられた命令は簡潔明瞭。
「友好を第一とせよ。叶わず、敵対した場合は帰還せよ。」
人類同士の数限りない内乱を経験した人類は、その至上原則として「友好」を連邦規約最上部に持って来ていた。
それに、たかだか払い下げの旧式戦艦(それに、旧式の巡洋艦と駆逐艦数十隻)に探査機器を増設しただけの艦隊が。「異文明」の艦隊に対抗することが何を意味するか、よく理解していた・・・・。
「異文明」との第一次接触は戦闘行為が発生せずに友好的におわった。彼ら「異文明」は自らの事を「エルフィリア皇国」と名乗った。信じられないことに言葉の壁は「エルフィリア皇国語」がラテン語と、ほぼ共通言語だったために問題とならなかった。
彼らは接触した第二探査艦隊に対して宇宙空間上に豪奢な金髪と特徴的な笹穂耳を持った女性型の立体映像を描き出し、通信回線を通して歌う様な語りかけで呼びかけてきたのである。
曰く。「我らは選ばれたエルフィリア。神祖エルーディア、メーダルの寵愛を受けし者。そのかたわらに神樹メダライト。我ら生命の母。遍くすべての生命はエルーディアの元、メダライトの奇跡を見ることでしょう。ああ、湛えよエルーディア!!ああ、誉あれメダライト!!いざ栄えよエルフィリア!!・・」
宇宙空間に投影された美しく荘厳な女性型の姿も相まって、「どこぞの新興宗教かよ!!」と突っ込みたくなる内容の宗教歌?が流れてきていた・・・。
第二探査艦隊。及び地球連邦総司令部に流れる「痛いヤツ」に会った時のような微妙な空気。ま、実際のところ地球連邦でも「宗教」は幅広く認められているから、「異文明」が宗教を根幹にした国家であっても友好を求めるのは変わらなかった。
しかしながら、その空間投影。及び音声通信から流れてきた内容は驚愕に値する代物であった。
曰く。「我らエルフィリア皇国は神に約束された全宇宙の庇護者。汝ら蛮族は、神が我らに与えて下された『供物』その身、その心全て我らの者。いざ早く隷属せよ!!」
第二探査艦隊。地球司令部に等しく流れる「痛いヤツ」を超えた「逝っちゃったヤツ」に会ってしまった残念な雰囲気・・・。
その衝撃を皆が中和しきれないでいた。まぁ、確かに地球文明の過去にも同じようなヤツラが存在してはいたが。漂流者が自分たちの「神」であると結論されたあたりから、ここまで「逝っちゃったヤツ」は少なくなっていた。艦隊。および司令部の凍り付いた雰囲気は分からなくもない・・・。
でも、人類にとっての「ファースト・コンタクト」ってもっとドラマチックでもいいんじゃないのであろうか・・・?そんな感情も理解できなくはない。
後日この場に居合わせた深部探査艦隊のある教授はこう語った。「あそこまでぶっ飛んだ思考の持ち主は、私が担当する大学にもいないねぇ~。凍り付く!とか、固まる!の意味が実体験できたよ。」
そんな衝撃から立ち直りかけていた時。エルフィリア皇国に動きがあった。投影スクリーンはそのままに艦隊の動きが変化していた。
明らかに第二探査艦隊に対する攻撃態勢に移行しつつあった。事ここに居たり艦隊司令部の命令どうりに第二探査艦隊は帰還を決意する。
地球連邦の対応は早かった。その状況に合わせて命令系統を地球連邦本部直轄にし、航宙軍に第二待機命令を発令。各自治星系に詳細を通知。第二探査艦隊に最も近い宙域にいた地球連邦航宙第二艦隊に救援を命じる。さらに、地球連邦本部(札幌に置かれている)に各自治星系代表の緊急招集をかける。
エルフィリア皇国の持つ艦隊の能力が分からないため、即座に「逃げ」を決断する。第二探査艦隊旗艦「御笠」を中心とした艦隊は超時空間ジャンプに入ろうとする。
探査艦隊の探査艇を搭載していた旧式航宙母艦「サラトガ」が、搭載していた無人探査ドローンを放出。それぞれのドローンに電波妨害とエルフィリア艦隊の通信・電波傍受プログラムを掛けてエルフィリア艦隊に向かわせる。
また、艦隊の外周に展開していた旧式巡洋艦に率いられた旧式駆逐艦群が、エルフィリア皇国艦隊の前方宙域に対エネルギー中和粒子を内蔵した大型ミサイルを発射していく。
それらの第二探査艦隊の行動を見てもエルフィリア皇国艦隊の動きは鈍かった。いくら厨二を中心とした宗教連中でも、あそこまで鈍いと追撃戦に移行できない。
連中、いったい何を考えているんだ?第二探査艦隊と戦況を見守っていた地球司令部の思考が止まりかけた頃。更なる衝撃がもたらされた・・・。
空間投影された女性型の存在が踊りながら歌い始め、通信機器からは全周波数帯に向けてその歌が流れ始めたのである。
まぁ、そんなことでは驚かない地球人類ではあったが。その歌が流れ始めてからのエルフィリア艦隊の動きが、よく訓練されたオーケストラの様に連動し。第二探査艦隊に向けて見事な追撃態勢を組み始めた事が衝撃となって襲い掛かってきていた・・。
無数に放たれドローンによって空間上に構成される強大な電波妨害。その電波妨害下でここまでの艦隊運動を行えるエルフィリア艦隊の実力を目にして、舌を巻いていた。
「あの連中ならウチの正規軍とも互角に戦えるぜ。」
探査艦隊の総意を纏めるならば、こんな言葉がお互いに囁かれるであろう技量だった。しかし、艦隊の構成員その大半は航宙軍の退役もしくは予備役で、エルフィリア艦隊のその技量の高さに感心している程暇ではなかった。ドローンから次々に送られてくる情報を纏め、蓄積し分析する。さらに、その情報を元に予想を立て判断を下し次々に命令を下していった。
そうこうしているうちに、艦隊の殿を務めていた旧式巡洋艦に率いられていた旧式駆逐艦群に向けてエルフィリア艦隊から強力なエネルギーが発砲される。
しかし、その大半が宙域にばら撒かれたエネルギー中和粒子によって拡散されていく。それでもなお中和しきれなったエネルギーが駆逐艦に命中する。シールドで中和しきれなかったエネルギーが装甲版を貫通、爆発を伴い旧式駆逐艦の速度が鈍る。
探査艦隊にまたもや驚きが走る。まだ発砲するには遠距離と言っていい距離で中和粒子を貫いて駆逐艦に命中させたのである。幸い、防御行動に入る前に離脱させていなかった無人探査艇が吹き飛んだだけだが。
電波による測的が半ば不可能なほどの電波妨害環境下の大遠距離で、動きの速い(いくら旧式といえ)駆逐艦に命中させたのである。
地球連邦正規艦隊でも、ここまでの悪条件が重なった大遠距離での命中は難しかった。初弾で命中・・・。いくら「異文明」でもここまでとは・・・。
どんなに技量を高めようとも「目標」がしっかりと「観えて」いないと命中など期待できない。この距離での命中は明らかに異常であった。
この異常な事態であっても探査艦隊および地球司令部は冷静だった。明らかにこちらが認識していない索敵・測距方法を確立していると判断。もともと「逃げ」を決め込んでいる行動をさらに迅速に行い、探査用に大量に余っている無人探査ドローンを、エルフィリア艦隊の進路上に纏わりつかせるようにばら撒いて放出した。
無人ドローンが収集した情報を集積・中継の為。大型探査艇を無人で宙域に展開していく。
旧式巡洋艦に率いられた艦隊は被弾した駆逐艦をかばうように展開し、余っていたエネルギー中和粒子を搭載した大型ミサイルを全て発射し、既に宙域から離脱した探査艦隊主力を追いかけるように超時空間ジャンプに移行する。
見事な艦隊運動によって艦隊全艦が宙域からの離脱に成功した探査艦隊。しかしながらエルフィリア艦隊の動きが奇妙だった。
賞賛に値する艦隊運動を行い、強力な電波妨害下の大遠距離での発砲・命中。この二つの行動を持ってエルフィリア艦隊の動きが止まっていた。超空間通信によって、無人ドローンが収集した数々の情報が大型探査艇によって中継され続々と集まって来ていた。
その情報の大部分がエルフィリア艦隊の行動の停止を示唆していた・・・・。
「あそこまでの事をしておきながら、何故ヤツラは追撃戦に出てこないのだ・・?」探査艦隊・地球司令部共に疑問の氷塊に潜り込んでいた。
そこにエルフィリア艦隊の全周波数帯に向けての通信が入る。
「私はエルフィリア皇国第一皇女ライネシア・リュー・エルフィリア。未開の民よ力の差は分かったはずです。エルフィリアの教義に従い、速やかに隷属しなさい。栄えあるエルフィリア皇国は決して非道には扱いません。降りなさい。」
疑問は日の光を浴びるように融けた。エルフィリア艦隊は実力差を見せつけたうえで降伏勧告をするために追撃に移らなかったのだ。過剰なまでの自身が溢れかえっているのか、こちらを過小評価しすぎているのか。どちらにしてもこの勧告を受け入れることは出来なかった。
地球連邦は多種多様な宗教を認め受け入れている。そこに忌避感は存在しない。しかしながら、特定の宗教を特別視することは無かった。あまつさえ一つの宗教を至上とするなど持っての他であった。確かに第一に「共生」を謳っている。しかしそれは共に発展し生きることであり単一の価値観によって支配され隷属することではない。
エルフィリア皇国が特定の宗教を国是とするのは構わない。だが、地球連邦がそれによって支配されるのは絶対に認められないのである。
エルフィリア皇国第一皇女のこの宣言を持って、地球連邦の方針は決定した。
暴力をもって自らの主張を押し付ける者に、地球連邦は絶対に従わない。友愛と共生ではなく。支配と隷属を要求する行動には断固従うことは無い。
札幌に集まった各自治星系及び地球に存在する国家すべてが全会一致でエルフィリア皇国との開戦を決断した。
決定に従い地球連邦に所属する各星系に展開している第一から第十三艦隊までに即時待機命令が発令される。第二探査艦隊の交戦情報が共有され、各艦隊の首脳部と生体思考量子回路群が活発に意見を交換し予測されるであろう事態に対する対応を協議し積み重ねてゆく。
連邦に所属する国家群・自治星系の軍務経験者に召集令が発令され、各所の駐屯地・艦隊基地に出頭する。
また、連邦に存在する全ての研究機関・開発施設・生産設備がそれぞれにリンクを始め第二探査艦隊が持ち帰った情報を元に、エルフィリア皇国に対する対抗戦術や航宙艦艇・兵器群の開発・生産に入っていく。
地球連邦が培ってきた技術・生産・資源がエルフィリア皇国に対抗するためだけに集約されていく。
これらの事柄は開戦決定24時間で次々と進められ。32時間後には強大な開発・生産力をほぼ軍事力に注ぎ込む「怪物」が誕生していた。
開戦の通知を受けて探査艦隊救援に向かっている第二艦隊に命令が発せられる。
『探査艦隊と合流したのち後方のアパラチア星系虎頭要塞に帰還し、地球連邦から派遣される特別大使をエルフィリア艦隊まで護送せよ。なお、大使が殺害もしくは俘虜になろうとも是の救出は認めず。可能な限り防戦に努め、情報を収集。虎頭要塞に帰還せよ。地球連邦軍航宙艦隊司令部。』
追伸。カール、今は我慢しろ。ヤツラの索敵方法が分からなければ勝負にならん。『忍』の一字だ。ロルフとガルナも駆けつける、時間を稼いでくれ。
航宙艦隊司令長官 エドモンド・フォン・トウゴウ大将」
この通信を受け取った第二艦隊司令カール・ゼーラント中将は、その司令官座席から宇宙空間を睨みながら『今は耐えてやる。耐えてやるとも・・・。その後は・・・。』と述べたとゆう。猛将の評価が定着しているカール中将。その評価が変わる切っ掛けとなった言葉だった。
こうして地球連邦とエルフィリア皇国は戦火を交えることになってゆく。
「今回、第八艦隊の皆様に強奪していただきたい対象は・・・・。ライネシア・リュー・エルフィリア・・・。そう、エルフィリア皇国第一皇女そのひとです・・・。」
先程までの娼姫の様な雰囲気は霧散し、「ただ有能」それを体現した存在になり替わったミランダ少佐が衝撃的な内容を口にしていた。
自分が行った発言。その内容と意味が会議室じゅうに響き渡り、十分に参加者が理解したと感じた時点で次の言葉を紡ぎだす。
「先だって行われたロングブリッジ作戦によってER122宙域のエルフィリア皇国の軌道要塞を占領したことにより我が地球連邦は、エルフィリア皇国で呼ぶところの絶対皇国防衛圏に侵入する事が可能になりました。
しかしながら、開戦から一年を経過し我が地球連邦の資源・資金も軍を支える限界点が見えてきました。特に開戦初頭の第一次虎頭要塞防衛戦から第五次虎頭要塞防衛戦までの艦艇戦力の消耗と、ロングブリッジ作戦における軌道要塞占領戦における熟練した空間降下兵の人的消耗が無視できない状況です。」
静まり返った作戦会議室に艦隊各艦艦長と参謀達の同意のうめきが響いた。
開戦劈頭の虎頭要塞防衛線における地球連邦航宙艦隊の消耗・・・・。エルフィリア皇国の索敵測距方法が不明な不利な状況の中で行われた、要塞近傍宙域における戦闘による損害は撃沈艦艇こそ少なかったが(虎頭要塞の防衛圏内に逃げ込むことで追撃を振り切れたため)
虎頭要塞に集結した第二・第四・第八艦隊の三個艦隊の稼働艦数が全体の七割程度に落ち込んでいた。虎頭要塞には四個艦隊までの修理・整備・補給が出来る施設が存在していたが、開戦時には人員が集結しておらず一個艦隊の修理・整備・補給で手一杯になっていた。
(開戦から一年がたった今では基地機能は拡充され六個艦隊まで面倒を見ることが出来る様に整備されていた。)
艦艇は修理出来る。だが、熟練した艦隊乗組員は中々補充が効かない。いくら生体転写技術によって経験を共有することが出来ても、実戦における動きはまた別問題だった。
話を聞かされていた第八艦隊の古参艦長達に至っては、三か月続いた虎頭要塞防衛戦の自らの惨状を思い出し天を仰ぐ者もいた。
第一次から第五次までの防衛線で第八艦隊も無視できない損害と敗北を喫し。第八艦隊前任司令官ガルナ・イワノフ中将も重傷を負い後方で療養中であったからだ。
「だが、連中の索敵・測距方法が解析できた時点から我が艦隊・空間降下兵団共に敗北を喫してないが?人員と艦艇。空間降下兵団の方も全体としては許容範囲内ではないのですかな?」
先ほどの諧謔の主。ライゾウ・スズキ少佐がミランダ少佐に目線を向け、その後視線を第七空間降下兵師団長ダイスケ・フォン・シュマイツァー少将に振り返りつつ述べた。
美しい顔に優しげな笑みを浮かべつつミランダ少佐が答える。
「確かにライゾウ少佐がおっしゃる様に我が航宙艦隊は敗北を喫していません・・。こう・・言葉にするにはいささか憚れますが・・・。連戦連勝と・・言っても差し障りはありません・・。」
少し頬に自嘲的な笑みが浮かぶ・・。少々、自分の言葉に恥じているらしい・・。だが、その笑みを消した貌で言葉を重ねる。
「しかしながら、その・・。連戦連勝によって戦線が拡大し、我が地球連邦ではこれほどまでに広大な宙域を維持出来ません。更に、占領している星系の維持・管理も負担になってきています。占領地住民との交感・文化交流は上手くいっていますが、長い間の宗教政策に心身共に浸っていたため摩擦も無視できません。勝ちすぎたため、我が連邦の力が限界に達しつつあるのです。」
有能で美しい歴史教師が、出来の悪い生徒をあやす様な口調で話し終える。
事実だった。開戦初頭の交戦から第四次虎頭要塞防衛線までエルフィリア皇国艦隊の索敵・測距方法は不明だった。そのせいで十分な艦艇戦力を持ちながら先手を取られ続け敗北を重ねていたが、意外なところからこの問題は解決する。
リョウ・タナカ技術員。第二探査艦隊に所属する主に音楽を使用した異文明との接触方法を研究している女性。
エルフィリア皇国艦隊との交戦により虎頭要塞に篭りきりになる彼女は。その職務を忠実にこなすため接触時における音声の解析を行っていた。勿論、第二探査艦隊が持ち帰ったデータは地球連邦全てで共有されていて、自分の様な技術員ではしっかりとした解析など不可能と思われたが。なんにせよヤルことが無い。
航宙艦隊や要塞防衛隊。整備・補給要員は忙しく働いており自分の居場所がない。他の探査艦隊の同僚に会いに行くと、これまた分析・報告・会議で忙しい。
そんなこんなもあって、彼女は暇だった。だからこそ暇を間際らすために忙しい「ふり」をしていた。
そんな彼女はエルフィリア皇国艦隊が戦闘中に発する「音声」を気に入っていた。「音楽」として聞いた場合非常にリラックス出来、更に集中力が増していくのだ。同僚に聞かせてみたが彼女の様に反応するものは皆無だった。
しかし、彼女が部屋で世話をしている枯れかけたサボテンに「音楽」を聞かせると緑を取り戻していくのだ。これを面白く思った彼女は同僚たちに声をかけエルフィリア皇国の「音楽」を色々な角度から研究・分析していく。
結果は驚くべきものだった。エルフィリア皇国艦隊が発していた「音楽」に人類の把握している脳波以外の微弱な波動が含まれていたのである。この波動の律動と、エルフィリア皇国艦隊の艦隊運動が連動し発砲段階に至る直前には「波動」と「音楽」が相乗し見事な波形を描いていた。
また、この波動はリョウ・タナカ技術員と要塞に勤務する数名にしか感じられなかった。
この結果を地球連邦に送ったところ更に驚くべき結果がもたらされた。
エルフィリア皇国艦隊は何らかの手段でもってこの波動(後にエルフィリア波=E波と呼ばれることになる)を「音楽」によって増幅し展開宙域において精神感応による量子結合を何らかの手段をもって索敵測距及び艦隊通信に活用しているようなのである。
これが事実ならば恐るべき内容だった。こちらは十分な索敵測距が出来ず、連中は妨害電波など気にすることなく我が艦艇を容易にとらえることが出来る。要塞近傍で撃破した敵艦艇を分析した結果も、事実を補強するものだった。
地球連邦はこの事実に頭を抱えた。前線で損害を被りながらも我々の増援を待っている虎頭要塞、および駐留艦隊の連中にこの事実をどう告げればよいのだ。いや、それどころかこの事案が続く限り地球連邦は敗北する。
だが、脳波であるならば妨害が可能なのではないか?精神感応によるE波の増大が認められるならばE波を使えなくすればいい。
地球連邦すべての研究機関で対抗手段の開発が行われ、妨害手段が発見される。要するに伝達を妨害できればいい。細かい量子結合と精神感応の研究は後回しにされる。当然だった。全ては戦争が終わってからでいい。とりあえず負けなければいいのだ。
『対E波妨害装置』が完成し試作品が虎頭要塞に送られ、比較的戦力を保持していた第二艦隊の無人ドローンに搭載されてゆく。
なんにせよ、初めての事柄で研究結果にさっぱり自信が持てなかった航宙艦隊司令部は全てのドローンにこの装置を搭載してしまったのである。
この装置を搭載したドローン仕様の結果は予想を遥かに覆すものだった。エルフィリア皇国艦隊との第五次虎頭要塞防衛戦は第二艦隊の圧勝で終わる。
宙域にあらかじめばら撒かれるように展開されていた無人ドローンによって展開された妨害波は、エルフィリア皇国艦隊を混沌の底に叩き落とした。
混乱の極みのエルフィリア皇国艦隊。そこに第二艦隊と増援で送り込まれた第四・第八艦隊によってそのほぼすべての艦艇が撃破・もしくは拿捕されたのである。
地球連邦本部はこの戦闘によって得た結果をもとに、改善された妨害装置の全力生産に入り。また、虎頭要塞に向けて第十三艦隊を除いた全艦隊の投入。さらにエルフィリア星系への即時侵攻を決定した。
この戦闘を契機として地球連邦の本格的な反攻作戦が展開されるのである。
「要するに、降ってわいた山賊どもをやっつけたら身分不相応の財産を手に入れてしまった・・。とゆうわけですね・・・。」
男らしい笑みを見せながら諧謔身たっぷりにライゾウ少佐が世俗表現を用いて纏める。それを耳にした何人かの艦長が「山賊にしては物騒で、美しいヤツラだが・・」などと発言し場の雰囲気を軽くする。
「山賊はともかくとして、おおよそライゾウ少佐が述べた事柄が本質ですわね・・・。もっとも財産ではなく、活用出来ない不良債権を抱え込んだようなものですけど・・。この後さらに戦域が拡大するならば、地球連邦は勝ちすぎた為に滅ぶ初めての国家になるでしょう・・。」
満点とはいかないが、まずまずの答えを出した生徒を褒めるような声音で応じるミランダ少佐。
「何よりも地球連邦は共生を目指しています。講和を結ぶことが出来るならばどの様な手段も容認されます。先ほども申し上げたとうりに・・・」
そこに、まったく口を開くことのなかったダイスケ少将が呟く。
「なるほど・・。貯金残高の前には全ての思想は必敗しますな・・・。だからこその皇族の強奪ですか・・・?」
開戦から俘虜にしたエルフィリア皇国艦隊の人員に対する尋問や文化交流いよって。エルフィリア皇国の皇族に対する尊崇の念は異常なほどに高い。もはや神に対する隷従に近い。
そうであるならば皇族・・・しかも第一皇女を手に入れた場合はどうなるか?血気にはやって奪還に出るか?
いや、エルフィリア皇国艦隊勢力の減少と索敵・測距・通信がほぼ無力化した段階では敗北してしまうし。諜報が手に入れた情報ではエルフィリア皇国艦隊にももう後がない、一戦して奪還とはいかない。
それに奪還に失敗してしまえば回復不可能なまでに艦隊戦力をすり潰してしまう。絶対皇国防衛圏からエルフィリア皇国星系まで我々を阻む者がいなくなってしまう。
では、皇女が強奪されたことを秘匿し時間を稼ぎ艦隊勢力の拡充に努めるか?これもだめだ。時間を稼いだところで我々の進軍が止まるわけではない。確かに地球連邦の軍事予算はひっ迫しているがエルフィリア皇国星系を占領できない程ではないし、わが軍の諜報部隊が皇女を俘虜にしたことを声高に宣伝することになる。エルフィリア皇国は未曽有の混乱に陥るだろう。
そして、どちらの手段を取ったとしても。地球連邦の目的とする講和への糸口が掴める。第一皇女を手に入れた場合の戦略的価値は計り知れない。
「ええ。その為ならばどの様な犠牲も容認されます。今回の『獲物』第一皇女が前線の将兵の士気を高めるために督戦に参られるのも、諜報部が掴みました。かのお姫様は第五次虎頭要塞防衛戦で手ひどく敗北を喫しています。復仇の念も相当なものでしょう。」
「だが、あのお姫様の作戦能力もたいしたもんだぞ?ここにいる古参艦長や参謀は知っているだろう?勿論、私もそうだが・・・。」
リュグスト大佐が大きな体躯を伸ばしながら質問をする。
「ええ、だからこそこちらも『獲物』を出します。あのお姫様が気に入るであろう『獲物』を・・・。それにエルフィリア皇国はじり貧です。ここで大きな勝利を掴まなければ和平派が出てくるでしょう。そうならないためにも誘いに乗る確率はかなりのものでしょう・・。さらに、こちらの妨害手段を半分程度打破できる方法もあるようですから・・。誘いには各艦隊から抽出された最新鋭の主力艦を中心とした第一艦隊を当てます・・・さらに、第八艦隊が強襲を掛けるに至っては拿捕したエルフィリア皇国の輸送艦隊を使用します・・・・・」
リュグスト大佐に言葉を返し、作戦の詳細を話すミランダ少佐。その脳裏では艦隊司令部での情景が思い出される・・・・。その妨害手段の方法を意図的に流した艦隊司令部。エルフィリア皇国にはヤル気になってもらわなければ・・。そして、そのことを知らされない可愛そうなもの達・・。
和平を実現するために捧げられる哀れな羊たち・・・。そう血が流された時から、「平和」を作り出すためにはより大きな血を流さなければならない。
可愛そうな「男」達。私の掌の上で踊り、死んでゆくもの達・・・・。でも、私が勝たせてあげる。その為にもっと血を流して死んでいって・・・。
地球連邦の為に・・・・いいえ、いいえ!私の為に!弑逆的な思考にそまった頭脳に反応した彼女の肉体のある部分が湿り気を帯びた熱いもので満たされていった・・・・。