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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
オッサンの宇宙戦争
3/25

強襲

変調現象の確認の為。装備を整えるヒデト。その脳裏に何故か浮かぶ、過去の戦いの記憶・・。戦争・・。そうだ。戦争だ!輝かしく・・そして、愚かにも哀しいメモリー・・。

漆黒の宇宙空間を、いくつかの黒点が鋭い紡錘形を形作りながら進んでいる。その数は二十数個・・。


近世の軍事知識が豊富なものが見れば、それらの黒点たちは「軍艦」に分類される。人類が作り出した巨大な兵器群だとわかるだろう。


 紡錘形で進むその軍艦たちは、ある種の強烈な意志によって形作られた雰囲気を纏っていた。


 艦隊は完全な電波管制下にあった。自艦の位置を示す航行灯すら点いていない。自艦と僚艦の位置を光学観測のみによって維持し、艦隊を形作っていた。大変に難しい航行と言ってよい。

 さらには、三時間前より巨大な時空嵐が艦隊を翻弄している。しかし、その中であっても単縦陣から突撃隊形である紡錘隊形に移行していた。

 その動きから、艦隊の技量を推し量ることができた。


 「艦隊、紡錘隊形への移行完了。突撃隊形に移行しました。」

 薄暗い、ほのかな緑色の光点によって。かすかに人の形が判別できる航海艦橋に音声が響く。

 「宜しい。艦長、どう思う?」艦隊司令が、薄暗い闇に中でも判別できるほどの笑みを浮かべて艦長に声をかける。

 

 「情報どうりですね。敵旗艦艦隊に随伴する主力艦の大半は、我が方の第一艦隊の迎撃に向かったようです。受動観測で、護衛艦も数隻のみですね・・。」

 艦隊司令の声を受けて、艦隊旗艦「陸奥」の艦長が答えた。


 「罠かな・・?」作戦行動中の司令官が、常に考えるであろう物事を声にする。

 「それは、無いと思います。連中の皇族が、士気高揚のためにあの船に乗ってきているのですから。連中としたら皇族の御前で、派手に第一艦隊を蹴散らす姿をみせたいでしょうからねぇ・・。警戒が薄いと言うより、持てる戦力の大半を持っていきたかったんでしょう。」

 

 「ま、あんだけ派手な艦隊が自分に向かってくれば一戦交えてみたくもなる。しかも、皇族の御前じゃあなぁ。わからんでもない。」

 艦長の意見に同意を示しながら、考えを纏めていく。

 「その『派手な艦隊』も、こちらの手の内なんですがね。まんまとはまってくれましたね。それに、この時空嵐で艦隊の行動も秘匿できますし」

 襲撃が成功した海賊船の船長が浮かべるような笑みを見せながら艦長が呟く。

 「ありがたい限りだ。そのおかげで、奇襲もできる・・・。艦長。目標までの到達時間は?」


 「はい。航海長。どうか?」


 「はい。残り20分です。地球標準時0150時に光学観測圏内に入ります。現在0130時。」


 「地球標準時0130時か・・・。第一艦隊も接敵する時間だな。作戦どうりに行けば、一戦交えて『派手に』撤退して・・・。なるべく連中を引っ張り上げてほしいもんだ・・。」

 期待を抱かない口調でありながら。艦隊司令の口元に浮かんだのは絶対の信頼を寄せている者に対するような、凄みのある笑みだった・・・。

 

 紡錘隊形の艦隊の中核に、守られるように戦艦並みの巨体を持つ船がいた。

強襲揚陸艦イオージマ。六角柱を三本にまとめた、全長10kmに及ぶ長大な船体。上陸作戦時に於いて、受けるであろう被害を防ぐ為に戦艦以上の装甲にシールド。軌道上に腰を据えて、上陸部隊を長期間にわたって支援できるように。ありとあらゆる支援・給糧・整備が行える施設が備わっていた。


 その頑強に守られた区画の一つ。揚陸隊待機施設。揚陸艇発進口。其処に収められた揚陸艇内部。降下兵待機室から呑気な。これまた全く緊迫感のない声が響き渡る・・・・。


 「暇だな・・・。」

 機動強化装甲外骨格・・スーツ・・の中から三十路のオッサンの声が聞こえる・・。


 「暇ですねぇ~。ヒデト伍長ぅ。」

 もう一体のスーツが、オッサンに対して相槌を打つ。


 「その気に障る口調どうにかならないのか?グウェン?」


 「三代前から、グウェン家はこの口調ですよぉ~。伍長殿。」

 相も変わらず、たしなめられた口調を直そうともせずに答えるグウェン・ヴァン・スズキ上等兵。東南アジアをその遺伝ルーツに持つ、見た目優男のこの砕けた上等兵は。口調とは裏腹に、ヒデトと15回の惑星強襲降下・7回の軌道要塞戦・八回の敵艦突入を潜り抜けて、そのすべてに成功し生き抜いてきた。さらに、生来持った顔つきと女性の望みを的確に察知できるスキルも持っていて。声をかける女性すべての撃破記録も持つ。歴戦の猛者だった。


 この優男の上等兵と同じ部隊に配属されてから。何回になるか分からないくらいの、いつものやり取りをしながら班の状態を確認していく。


 サツマイモの先端を鋭くしたような外観を持つ揚陸艇。その先端部分から中段部分まで、揚陸艇の内壁部分に円形に配置されている小隊の兵士たち。それぞれに配置についたその場所で、突入時間までそれぞれに時間を潰していた。


 或る者はモニター部分にネットゲームを呼び出し、RPGの勇者になっていたり。スーツの記録メディアから、お気に入りのピンク動画を見て血圧を上昇させていたり。実戦が初めてのガチガチに緊張している者もいたり。慣れたものなのか、たいして旨くもない鼻歌を歌っていたりしていた。



 

 その揚陸艇の最先端部分(敵艦に最初に突入する場所に)にヒデトたちの班は配置されていた。本来の編成では、この場所に配置されるのは一個分隊9名なのだが。先月行われた軌道要塞に対する強襲突入作戦によって、分隊の指揮官の軍曹と一個班が、要塞突入時に守備隊の反撃を受け全員負傷し。後方の兵站補給基地に送られていた。

 本当ならば、後方より適宜必要と判断された降下兵が、新任の軍曹と共に補充されることになるのだが。

 戦局の急転換により配属されることなく作戦に投入される事になってしまっていた。


 勿論。そのような半減した人員編成では分隊としての戦力を発揮できない。さらに言ってしまうならば、半減した戦力での作戦投入など、論外であった。

 しかしながら、この作戦に投入される第7空間降下兵師団にも余剰人員などあるはずもなく。そのままの配置になってしまっていた。

 だが、ヒデトたちが配属されている小隊の突入は師団全体でも最後列に近い事。小隊の中で最も実戦経験が豊富な事。ヒデト達の班と組み合わせるには、他の隊の人員では不慣れな事。さらには、班の中に敵艦の内部を短時間で索敵できる小型ドローンの熟達者がいること。などにより、最先頭を受け持つことになっていた。


 この事が決定され、班に通達が来た時には全員激高寸前だったが。通達に来たのが師団幕僚を伴った師団長だったため、訝しみながらも冷静さを取り戻していた・・。


 直立不動の姿勢のまま、師団長からの『頼み事』を聞くことになったヒデト達。


 「なに・・、いつものとうりに。行って。暴れて。帰ってくるだけだ。何も難しいことは無いよ・・。人員?うん。手配はしたのだが・・。君達の班に付き合える莫迦・・。もとい、適応能力をもった人員がみつからなくてねぇ。それに、突入の順番は最後尾に近い方だよ。君たちが突入するころには、ある程度片が付いているだろう・・。それに、今回の作戦が成功すれば。この戦争も一息つける・・。ああ、長期休暇の申請があったね・・?お、コミックリスマスに合わせているのか。これも許可しよう。どうか一つ、頼まれてはくれんかね?」

 40代前半にもかかわらず、妙に年寄り臭い話し方。人を小莫迦にしたような、薄い笑みを浮かべている顔。その顔の頬には縦に傷が入っていてる。しかしながら、纏っている雰囲気は禍々しい魔王の様だった。


 第七空間降下兵師団。師団長ダイスケ・フォン・シュマイツァー少将。ヒデトの歳の離れた幼馴染であった・・・・。



 「どうだ?ユーリー。今回の作品は・・?」

 自らの配置された場所から艇内モニターにリンクして、小隊と自分の班の様子を伺っていたヒデトが、向かいに配置されているユーリー・ラドウィッチ上等兵に質問を投げかける・・。


 スーツのサイドモニターに呼び出したマンガツクールから目を離さずに答えるユーリー。

 「ま、そこそこですよ。ヒデト伍長。コミックリスマスに出品できそうです。あ、出品前に感想を聞かせてくださいね。」

 他の降下兵のスーツよりも一回り大きいユーリーのスーツ。ちょっとゴリラに近い顔つき。肩まで垂らした癖のある金髪。2m近い体躯も相まって、初対面でも忘れない人物が中に納まっている。

 見た目はゴリラのようだが、普段は新兵の面倒見もよく。ユーモアのセンスもあり、隊内の人気者だった・・・・が。


 ヒデト班しか知らない側面を持っている。同人コミックの作家さんなんである。しかも、ネットを介して莫大なファンを持っており。その作品は結構な値段で取引されているらしい・・。

 「今回は。日本の戦国時代にタイムスリップした男の娘の話なんですけど・・・。時代考証にてまどっているんですよね・・。あの時代の主君と臣下の関係を耽美的に表しているんですが・・。もうちょっと過激な方がいいですかね・・?」


 そう、この言葉のやり取りで想像がつくが。ユーリーの作品は、ある趣向の方達には・・とても・とても!美味しい物に仕上がっているのだ。

 作品の感想を求められたヒデトは何もコメントできず。横にいた、グウェンに一読させ。感想の肩代わりをお願いした・・・。


 お願いされたグウェンの方も固まってしまっていたが。自分の従姉妹が、この手の作品の愛好者だったのを思い出し。恒星間通信を使用して論評を求めたのである。


 悪い事は重なる。この従姉妹。ユーリー(作家名・碧富士子)の作品が大好物ぅう・・!!もとい、愛好していたため。作品の論評をしない二人に、強烈な罵詈雑言を吐き。ユーリーの有難味を全宇宙に感謝しろと告げてきた。

 

 そんな言葉を吐かれても返答に困ってしまう二人。仕方がないのでユーリーと直接会話させることにした。(画像通信はシャットアウトの状態で)

 なにやら、室内の温度が2・3度上がってしまったんじゃなかろうか?と、二人が感じてしまう位の熱のこもった会話が一時間ほど行われた後。

 妙にテンションの上がったユーリーと、ホロジェクターの中で蕩けそうな・・・所謂・・『逝っちゃった』顔つきのグウェンの従姉妹殿が二人の目線の先に存在していた・・。


 

 自分で会話の糸口を掴むための話題だったが。進んで地雷原の中に突入してしまったことに、禿しく後悔するヒデトであった。

 「アインちゃんに送って感想をきいてみようか・・・?」

 誰あろうグウェンの従姉妹殿。その人ならば地雷を回避できるはず・・・・。


 「いいえ、今回はダメなんです。ファンのみんなを驚かせたいので。ですからお願いしますね伍長殿。」

 そんなヒデトの生命線をぶっつりぶった切るかのような、絶望的な返答であった。共通回線のグウェンは声にならない笑いをモニター上に表していた。


 「そうか・・・?でも、日本の戦国時代・・。あんまり詳しくないぞ・・?ジョーが詳しいんじゃないかな・・・・?」

 そういって、地雷原の中から生還しようと。班の中で一番の知識を持つジョー・マクガイヤに話の矛先を持ってゆこうとする。


 「ユーリー。私が詳しいのは戦国時代の武士の戦い方だ。主従の恋愛感情はよくわからない。」

 中性的な声音。くすんだ赤毛に、何事も見通すような冷めた光を瞳に宿す。軍人としては、やや小柄な160cm弱の体・・どこか女性を思わせる顔つき。しかし、その肉体はカーボンナノチューブをより合わせたように強靭で、他の三人と同程度の戦歴を持っていた。

 「それに、戦国時代ならば。やはり合戦の描写が一番盛り上がるところだぞ。君の作品を見たが、主従関係が耽美にすぎる気がするぞ・・・?」


 ユーリーの作品をいつ見たのだ?まぁ、矛先がジョーに向かって二人で話し合ってくれそうだから一安心だな。などと考えているヒデト。


 「ジョー。逆に君の場合は合戦における自己犠牲の描写に、強くこだわり過ぎている気がするけど・・?確かに合戦は盛り上がるけど・・。僕の作品の方向性は・・」


 二人の遣り取りを聞きながら、分隊に配属された新兵であるザルハスに声を掛ける。聞けば、さるやんごとなき立場の人物の息子で。何故、軌道降下兵なんてヤクザな商売に脚を突っ込んだのか分からない。

 「ザルハス・・・。どうだ初戦だが、緊張はあるか・・?」


 「ええ、大丈夫ですヒデト伍長・・。」

 やや上ずった声が聴こえてきた。


  「心配すんな・・・。俺たちの揚陸艇は師団でも最後の突入組だ・・・。明日の昼には作戦所報の前で居眠りしているさ・・・。仲間を信じろ。自分の役目だけを果たせ。それだけでいい・・・。」


 「はい。わかりました伍長!死なない程度に働きます!」

 ザルハスの気張った返事を聞きながら、ふと考える。そうだった、死なない事が何より肝要だったな・・。


 『艦隊。突入まで後10分。各降下兵部隊は最終チェックを行え。繰り返す・・・』


 スーツの共用回線に割り込み通信が入ってくる。どうやら、艦隊が気づかれずに目標に肉薄できたらしい。

 「よし。作品の論評は還って来てからだ。この作戦が成功すれば、皆で休暇を楽しめる!気を引き締めていこう!」

 

 突入を知らせる通信と、ヒデトの発言が引き金になり。各人の纏う雰囲気が変わってゆく・・・。艇内に充満する戦意。己が肉体とスーツ、その装備によってもたらされるであろう破壊の嵐。

 敵にしてみたならば終末の破壊者。その権化のような姿。自らの装備を誇らしげに待機位置に持ってゆく。

 『艦隊各艦。最大戦速!全艦突撃!驍敵を撃滅せよ!』

 スーツに流れる溢れんばかりの戦意を感じさせる艦隊司令の声。


 戦国時代の武将がこの場の雰囲気を感じ取れたならば、感嘆と共に満足げに頷いたであろう。


 「最終チェック終了。各々、持てる本分を尽くせ。さぁ、戦争・・戦争だ!」

 


 


 


 

 


 

 

 


 

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