勇者
と~っても遅くなりました。申し訳ありませんです。投稿ペースがなかなかがりません。読んで下っている方達には謝罪のこばしかありません。
勇者とは何なのか、考えながら読んでくだサルト有り難いです。では、『勇者』宜しくお願い致します。
『勇者』
勇者とは、勇気のある者のこと。
しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対しても用いる。
ファンタジー世界に於いては、魔王や悪魔などの絶対悪に対する絶対的正義の使者として描かれている場合が多い。主に神や、それに類する絶対的な存在から加護や神器などを貰い受けて戦う事が多い。
ライトノベルファンタジー小説等では、上位存在から圧倒的な力を授けられ、物語を紡いでゆく存在。しばしば派遣された世界に似つかわしくない程のインフレした力を用いて、『悪』と認定した存在を片っ端にシバき倒す行動をとる。
余りある力を与えられている為、『チート』だの、『ぼくがかんがえた、さいきょうの勇者!』とか、『厨二野郎』などの有り難くない名称を受ける事もある。
「なんだよ・・?オッサン・・!俺にナンカ文句ある訳ぇ~?」
煌びやかな西洋甲冑に身を包み、豪奢なレリーフを施されたロングソードを脇に携えた、見た目年齢16,7歳、クセのある薄茶色の髪を後ろで一括りにした厨二的な・・・いや・・、活発そうな少年・・の見た目の少女が。20世紀の頃に存在していたヤンキーの様に、上半身を屈め、下から覗きあげる様にコチラにメンチを・・・。いや、挨拶を寄越してくる。
「よしなさいよ飛鳥!全く・・・。香奈さんが紹介してくれた冒険者の方よ。」
そのヤンキー・・いや・・、ヤンチャな彼女の後ろから淑やかな雰囲気を漂わせた、ハイティーンの美しい女性・・の見た目の青年が、名前を呼びながら彼女の態度を嗜める。
「ちっ・・・!わかったよ・・。でもなぁ、百合香。オイラだって『勇者』なんだぜ!こんなオッサンが居なくても反乱を起こした連中なんて屁でもねぇ。この前のモンスターの討伐と同じように、バッサバッサと斃してやるぜ・・!」
年かさの女性・・・いや・・百合香が苦手なのか、自分の心の中を悟られない様に強がってみせる飛鳥。
まぁ、確かにオッサンではあるけれど。強がった台詞を吐きながら、コチラの前頭部を指さしながら叫ぶのは如何なものかと・・・?
「オッサンなんて、失礼でしょ。確かに私達より長く人生を経験なさっていらっしゃるから、その片鱗が頭部に集中してしまうのはしょうがないことではなくて?」
サラッと世のオッサンに対して致命傷寸前な言葉を紡ぎ出す百合香さん・・・。
「いや・・・オイラ、そこまでの事は言ってないよ・・・?百合香・・?ただ、見た目があまり頼りになりそうにならなかったから、言ったまでで・・・?」
チョット、勢いを無くしながら配慮を滲ませた飛鳥さんの言葉が続く。
「頼りにならないのは見た目では分からないでしょう?立派な甲冑を装備した、如何にも『モブ』です。って登場の仕方ですけど、一緒に旅する仲間になるんですから。少なくとも、大きな体で『タンク』は引き受けてくれそうよ?」
隣にオッサンが居る事も忘れて、自分が考える前衛の構成を語りだす百合香さん・・。ちょっと引っかかる言葉が混じっていたような・・?
「百合香・・・?俺・・そんな事いってないよ・・・。」
先ほどより更に声のトーンを落とし、気の毒そうな視線をコチラに送って来る飛鳥さん・・・。言葉と態度は後付けの物で、基本的に心根の優しい娘の様だ。
「いいえ・・!その態度と視線が物語っていました!いくら『モブ』でも、もっとしっかりとした配慮が無ければ『勇者』は務まりませんよ!あまつさえ、薄く伸びきった寂しい前頭部を指さしながら掛ける言葉ではありません!少し、反省しなさい!」
「わかったよ・・。反省するけど・・・俺、百合香が今言ったような事思ってないし、オッサンの前頭部の事に関しては一言も言及してない・・・けど・・・」
気の毒そうな視線から、謝罪を感じさせる雰囲気にレベルアップした飛鳥が。手で合掌を造りながら片目を瞑る。明らかに私に対しての行動だ・・・。
「い~え!飛鳥は何時も調子に乗り過ぎなのです。タダの禿げた、魔力を持たない、加護もない、後ろ盾も無い、無駄に年齢を重ねた『モブ』!!とゆう態度を取り過ぎです!!そんな事では、あちこちに敵を作るだけですよ!?『勇者』なんですからね?」
「そんなこと・・・?!」
「駄目です。幼馴染の私の目は誤魔化せませんよ。少なくとも思っても態度に出してはイケません。言葉は凶器にもなるものですから。
『額に張りがあって、高い知性を感じさせますね』とか、『戦いの経験が顔に刻まれていますね』とか、『加護を持たなくても生きてこれたなんて、呆れるほどの生命力ですね』なども良いですね。」
「百合香・・・?チョット・・・?ヒデトさん横にいらっしゃいますよ~~・・・もしもし?」
先ほどの男言葉も鳴りを潜め、彼女本来の性格が出ている言葉づかいで百合香さんの暴走を制御しようとする飛鳥さん。
「それに、薄毛の人達に対する言葉も配慮が必要です。『生まれながら毛根の数が少ない方・・でも、貴方のせいではありませんよ?先祖の業なのですから』とゆう、仏教用語を絡めて諭してあげるとか。『毛髪の量に不自由な感じですね』などの間接表現なども、アリです。『アチラの方はお強いんでしょう・・?』と言いながら褒めるとかも効果的です。更に・・・・」
自分の世界に入りながら延々と思いつく限りの『配慮』を並べまくる百合香さん・・・。有り余る弾幕射撃で、オッサンの大して堅固でもない心の砦を破壊しつくす・・・。
「気にしないでね?百合香は熱を帯び始めると止まらないんだ・・。一か月前に無理やり召喚されて『勇者』なんて言われて・・。私も、百合香もチョット疲れているのかも?それに、百合香は自分がハマっていたオンラインゲームを出来ないのがストレスなんだよね・・・?」
すっかり年頃の『お嬢さん』に戻った飛鳥さんが、冷や汗を流しながらコチラにやって来る。
「いいえ・・・。問題は無いですよ・・。私もこちらの世界に跳ばされた時には『ハ~ゲルン』とか、『ウッースーイ』だの言われましたから・・・。あ、『魔力』もありませんよ。」
「そうなんだ・・・。私達より前に跳ばされたんだ・・?」
「そうですね。もう、三年になりますか・・・。長いようで、短かったですね・・。」
「三年も・・・私達、帰れるかな・・・?」
年頃の憂いを含んだ顔つきで、不安を伝えてくる。
「多分、大丈夫でしょう。この世界に最初に『召喚』された『異世界人』の人々が、イロイロと研究なさっていますから。彼等の五年間は無駄になっていない様です。」
安心させるように、いままで仕入れた情報を提供する。
「それに、『帰還』出来るとゆう事は。『向こう』と『こっち』が繋がることを意味しますから。イロイロと揉めそうですよ・・・?」
「そうだね!猫耳の美女や悪魔の淑女、龍娘。一つ目の美人。エルフの王子さま!!そんなので溢れかえったら大変だね!」
明るさを取り戻す様に、笑顔を浮かべながら『繋がった世界』を想像する。
「ええ!引きこもりのオタクのオークとか、銃刀法違反の勇者。スィーツ食べ過ぎの太ったエルフなんかもいるかもしれません?」
「それは・・・夢が崩れるねぇ・・。でも、見てみたいかも?あれ?言葉遣いが戻った・・。ヒデトさん!こんな話し方するなんて内緒だよ・・?!」
不安を払しょくした笑顔を振りまきながら、注文を出してくる飛鳥さん。
「ええ、『勇者』飛鳥!オッサンは何も聞いておりません。それに、禿げているんじゃなくて、少し量が足りていないだけですので・・・。」
「気にしてんじゃんオッサン!!でも、よろしくな!!」
口調を最初の時に戻しながら、自分の世界に入ってしまっている百合香を、こちらの世界に呼び戻すために駆け出してゆく飛鳥さん。
「でもね、お二人が考えている程『気楽』な任務じゃありませんよ・・・」
その飛鳥の背を見送りながら、昏い口調で独り言ちるヒデトだった・・・。
「で、どうだったかな?『勇者』の印象は?」
林 香奈の館。其の主の書斎にて、ヒデトの前でホットパンツにチューブトップとゆう、いささか部屋に似つかわしくない格好で、難解そうな見た目の魔法書に視線を落としながら、此方に質問を投げかけてくる。
「なかなかに好印象でしたね。ま、見た目と態度は些か問題がある様に思われましたが・・・。」
見ようによっては、かなり刺激的な状態の部屋の主に顔を向けながら。先程起こった出来事を思い起こし、主の質問に答える。
「大規模術式で召喚された30人の内の二人だ。他に今年度召喚された30人の中では最も『コチラ』に馴染むのが早かった。彼等二人以外は、まだ『訓練所』の中だ。まったく・・・『コチラ』の連中ときたら『召喚術』を便利な『奴隷』呼び寄せる術としか思っていないらしい・・・。」
魔法書から視線を外さずに『召喚術』についての彼女なりの見解を述べている。書斎に置かれている純和風な茶飲みに手を伸ばし、咽喉を潤してみたりしている・・・。
「『召喚術』はそこまで一般的になっているのですか?私が所属している『オプラス』では、研究は盛んですが未だ安定的な応用は望めない。と、聞いていたのですが・・・?」
三年前に『コチラ』に『転移』してきた自分の事を思い返し、なんとか『ムコウ』に帰還できないか考え、情報を探る毎日を送っていた行動が馬鹿らしく思えてくる。
其の三年間で得るモノも大きかったが・・・。
「いや、5年前に初めて『召喚』された『勇者』の事例を研究していたようでな。基礎研究をすっ飛ばして『実』だけを得る方法を考え付いたらしい・・・。」
「らしい・・・・?とは・・?」
『召喚術』の話になってから、香奈さんの表情に哀しみや、ヒトの行いに対する苦々しい影が浮かんでいた。
「私達が『召喚』されたのは、コミックリスマス会の打ち上げを作業場で行っていた時だ。丁度、会場で必死の思いで手に入れた『碧富士子』先生の最新刊を、皆で分かち合っていた所だったな・・・。」
『召喚』の出来事自体には、かなり思う所があるようだが。『碧富士子』先生の所だけ、喜色が顕われていた・・・。それ、ユーリーの事だですけども・・・・。
「いきなり大きな礼拝殿の様な場所に、仲間5人と呼び出されたんだ・・。混乱ぶりと言ったらなかった。しかも、自分たちの周りにはラノベでしか見た事が無いような連中が、武器を構えながら何事か語り掛けてくる。さらに、その奥には何かの術式の上で、おびただしい血を流しながらこと切れている半裸の女性が三人ほど見えてね・・・。直ぐにその場所から移されて、歓待を受ける事になったのだがね・・・。」
「今まで自分が手に入れた情報や知識によれば、その遺体は・・・」
「そう・・・・『生贄』だ・・・。まったく・・・。人の命を欲求を満たすためだけの『道具』としか考えていない!非情に唾棄すべき輩どもさ・・・!あまつさえ、勝手に呼び出しておいて『利用』する事しか考えていない!こちらの都合などお構いなしさ・・・。」
怒りを通り越した、ある種の諦観が浮かんだ表情で語る香奈。
「そうでしょうな。自らに利があるから『召喚』に頼ったのでしょう。そこに情を差し挟む余地は少ないでしょうね。」
「ああ、『召喚』されて三か月もしないうちに思い知ったさ!私は他の子達の様に『魔法』や『基礎体力』に才能がなくってね・・・。お荷物扱いさ。それでも仲間が支えてくれた・・・。幸い、コスプレが好きで『裁縫』の能力は高かったから、コッチノ世界の色々なもので様々な衣装を作り出すことが出来たけどね・・・。」
一緒に呼び出された仲間の事を思い出しながらの会話。思いに囚われ始めたのか、此方に向かっての言葉とは感じられなかった・・・。
「しかしながら、その裁縫の技能でここまでのモノを成し遂げたのですから・・・。そこは素直に賞賛に値しますがね。」
香奈の昏い思いをはぐらかす様に、無理矢理違い話題に持っていこうとするオッサン・・・。
飲み屋によくいるような不器用な慰め方に、少し気分の転換を図れたのだが。不器用で、オッサン臭い気遣いに可笑しみを覚えるのを抑えきれずに、苦笑してしまう。その笑いのお蔭か、今回ヒデトに頼んだことに集中することが出来た。
「その事はいいんですよ。好きな事を仕事にして生活を出来るなんて『ムコウ』じゃ考えられなかったですからね。それよりも・・・」
「ええ、勇者の御付はカバーですから。本来の任務を忘れてはいません。」
香奈の発言を受ける前に、遮る様に今回の『本業』を口にする。
「それは、何より・・・。連邦軍の本来業務では無いのだろうが・・・。『コチラ』に召喚されてから『真』に心休まる時が無くてね。」
先ほどまでの自信に満ちた『女主人』の威厳は影を潜め、年頃らしい表情を見せる。
「いえ、私も跳ばされてから同じようなものでしたから。それに、『連邦軍』の存在意義は『護民』です。云わば、貴方たちこそが『私』の『民意』なのです。」
自ら定めた『掟』に誓う様な口調で、平静ながら強い意志を現わす。
「辛く、心苦しい任務になると思うけれど・・・、何とか成功させてほしい。この国に『召喚』された皆の為に・・・。」
心の奥底の、自分でも気づかない昏く重たい考えを口に出さなければならないかのような口ぶりで、願望を現わす。
「なに、貴方が気に病むことは無いのです。それが仕事ですから。それに、誰かに赦しを乞う様な心根はもう残っていませんし・・・。人としては、流石にどうかと思うときはありますが。」
諦めたような、どうでもいいような物言いで応ずるヒデト。
「では、手筈どうりに。それよりも・・・次の事に対する覚悟を固めておいて下さいね。そちらの方が重要です。」
要件を話し終えたとばかりに、香奈に背を向け退出してゆくヒデト。
その逞しくも大きな背を見つめながら、言葉を投げかける事が出来なかった事を、一生抱えて生きてゆくことを誓う林香奈だった。
黄金色の豊かな実りの色を付けた小麦畑が、少し肌寒い風を受けて穂を揺らしている。深く澄んだ秋を感じさせる碧い空に、魚の鱗の様な巻積雲が見て取れる。
スフラ連合王国の穀倉地帯。ヤカズから40キノ程北に上った、国境線の丘陵地帯に広がる美しい景色を眺めながら。その裾野で規則正しく設営された、野営の天幕に視線を移す。
勇者の御付で参加した今回の遠征・・・反乱鎮圧だが・・・。その作戦会議が開かれている大天幕にカメラの焦点を合わせる。
勇者殿一行が作戦会議に呼ばれてから、かれこれ2アーワ程になるか・・?敵陣を偵察する名目を頂いて、参加しなくて正解だった。それに、弓の扱いに長けた中級冒険者なんぞが会議に参加すること自体無理がある。
今回の遠征の主力である、スフラ連合王国イリアス選王候軍団の多数を占める貴族様達に、何を言われるか知れたものでは無い。
スフラ連合王国・・・ロゴウ大陸北西部に広がる穀倉地帯を治める農業国家。その豊かな実りで、ロゴウ大陸の食料生産の五分の一を占める。近年、その食料の供給を背景にしてロゴウ大陸内での発言力と影響力を増してきていた。
チャインズ人民共和国との戦乱に喘ぐ、大陸中央部の国家群に対して食料の供給を行い、中央部の民達の間で急速に知名度が上がり、その日の食事にもありつけない者達の心を掴んで止まない。
勿論、無償での協力では無い。戦乱で土地や生活の手段を奪われ、盗賊や難民になるしかなかった者達を・・或る者は少額の金銭で、また或る者は犯罪奴隷として、又は、戦争捕虜となってスフラ連合王国に支払う金銭の代わりとして、差し出されていた。その他にも、荒れ果てた故郷に見切りをつけ。移住を決断させるには十分に魅力的だった。
(戦乱に希望を断ち切られた人々にとっては、スフラ連合王国の豊かさは一種の伝説になりつつあった。もう一つ人々の話に上るのは、チャストリトン王国のビヘナ交易学園都市だった。)
ほんの5年前までは、穀倉地帯を巡って土豪が争う纏まりのない『北部辺境』の一つだったのだが。スフラ連合王国の元となるスフラ王国の第二王女が、自らの命を差し出して『召喚』に成功した『勇者』が全てを塗り替えていった。
『勇者』と呼ばれてはいるが、有り余る強大な『力』を振って鎮圧や平定を行っていた訳では無い。強大な『力』では無く、深淵を測ることが出来るような『知識』と、エルフやドワーフでも持っていない『技術』。そして、『勇者』と一緒に『召喚』された『機械』・・・更に付け加えるならば『勇者』の人柄が、砂に沁みこむ水の様に人々の意識を根底から変えていった。
(とんでもない知識と、技術をもって。機械を使用して人種・貴賤・貧富・老若男女分け隔てなく接し。困難には先頭に立ち、哀しみには涙を流し、宴ともなれば一番に莫迦をヤル!でも、色恋沙汰には無頓着・・・。絵に描いた様な馬鹿だったらしい・・・。だが、その人格と行動が『ほっとけないお人だな~』と思わせ、気がついたら人々の協力を受けていた様だ。)
民と、旧王家の支持を背景に。次々と土豪達を纏めてゆき。最終的に六つの豪族と旧王家を中心とした立憲君主国家を誕生させたのである。
4年に一度の『選王の円卓』・・(民の代表・七人の選王候、そして『勇者』によって多数決により選ばれた者が『王』として選出される)・・によって、国の方針を決めていた。
ちょうど、今年の収穫が終われば『選王の円卓』が開かれる年なのだが・・初代『勇者』サモンが、初回の円卓が終了し、王が選出された三日後に消息不明になり『勇者』の枠が空位になっていた。
その『勇者』枠を確保するため、各選王候、旧王家、民達がこぞって二代目『勇者』を召喚しようと『儀式』を繰り返し、それぞれの派閥に『勇者』や『異世界人』を取り込もうと、互いに牽制しあっていた。
大天幕の入り口に動きがあった。『勇者』飛鳥と百合香が揃って不機嫌な様子で、大天幕を出てくる。
その背後からウィリアード・イリアス選王候第一候女が、何とも表現しにくい表情で声を掛けている様だ。美しい艶のある金髪を方で切りそろえ、躰のラインが浮き出るような軽装鎧に身を包み。国の人々から『戦女神』と褒め讃えられている美貌を、僅かに曇らせている。
どうやら、作戦会議における『勇者』の立場があまり尊重されなかった様だ。至極まっとうな結果だよな。いくら『勇者』でも軍事作戦における立ち位置は低く見積もられる。
北部辺境におけるモンスター退治を何度かこなした後とはいえ、軍事作戦に理解が深いとは言えない『アチラノ世界』の一般人二人・・・。しかも、長年続いた内乱の影響で戦いの経験を十分に深めた将軍連中が相手では・・・無理もない。
カメラの映像を通常モードに戻し、『勇者』達と別行動をとって、『反乱軍』の偵察を行っていた二日間の情報をディスプレイ上に載せてゆく。
『反乱軍』ねぇ・・・・。勇者や異世界人の召喚をこれからも行い、国力を高めていきたいイリアス選王候を中心とした『改革派』。
召喚者をこれ以上増やさず、今あるものを護りつつ地道に国を発展させる事を選んだ『保守派』。
それに、『勇者・異世界人』を支持する『召喚派』の三つの勢力に分かれている。
七人いる選王候の勢力規模は、ほぼ拮抗している。スフラ旧王家、イリアス、マーセル、グムンド、スデンリア、オーゴル、ファイゼン。それに劇的な生産能力向上により力を付け始めた、小麦生産者を中心とした『生産連合』。
この中で『改革派』は、イリアス、グムンド、ファイゼン。『保守派』は、マーセル、スデンリア、オーゴル。残り二つのスフラ旧王家と生産連合は、自らの立場を強化してくれた『勇者・異世界人』を支持しているのだが、軍事力を持っていない。
どの勢力も、それぞれに『正しい』根拠に基づいて行動している。が、結局のところ自分達の利益を最大化するための方便にしか過ぎない。
今回、『反乱軍』に認定されたのは『保守派』。討伐の名目は『召喚者』の殺害未遂・・・。飛鳥、百合香と同時に召喚され。訓練所内で適応訓練を行っていた3人の『異世界人』が何者かに襲われ、重傷を負う事件が発生。
幸い、大事に至らなかった。その後、襲撃者グループの遺体を検分した所、『保守派』の関与を示す痕跡があり。その追及を巡って『改革派』『保守派』で争いが起こり、その際にイリアス家次席家臣とマーセル家三男との間で刃傷沙汰になってしまい、今回の事態まで発展するのだが・・・。
胡散臭い話だよな。どう考えてみても『選王の円卓』を前にした主導権争いにしか見えない。『異世界人』襲撃に関しても証拠とされた、『保守派』の各家の紋章が入った刀剣なんぞ、フツー遣わんよな・・それに、その証拠の刀剣にしたところで、司法長官のスタレン・グムンドが『証拠保全』を理由に開示していないし。ほぼ言いがかりだよねぇ・・。
そこまで考えた所で、飛鳥と百合香が帰って来る。走ってきたようだ、飛鳥は不機嫌さを隠そうともせずに肩をいからせながら。百合香は走りのペースを飛鳥に合わせたため息を切らせ気味だ。
「上手く行かなかったようですなぁ。お二方。」
深いフードに隠された処から声をかける。
「ふん!何が『勇者様達は旗印。むやみに突出されては全軍の士気に関わります。今回はご自重ください。全軍の中央に居て、皆を励まして下されば…』だ!事実上の人形じゃないか!」
かなり熱のこもった言葉が飛び出してくる。
「でも、飛鳥。私達は軍事は素人。実戦経験のない人間が行動を乱すのは良くないわ。悔しいけど、将軍連中の言い分の方が正しいと思えるわ。」
冷静な口調で、飛鳥の熱を冷まそうとする百合香。
「そうですな。実際問題として経験は重要な事柄ですからね。」
百合香に頷きながら同意を示す。
「でも・・・・!!同じ、仲間だったじゃないか!お互いモンスターって訳じゃない!」
それでも、納得がいかないのか不満を吐き出す。
「立場の違いの溝は、そう簡単に埋められるものじゃないのよ・・・。納得は出来ないけど、理解するしかないわ・・。」
諦めた口調で、自らにも言い聞かせるように呟く百合香。
「それならば!せめて先頭に立ちたい!!」
今までの事柄に見切りをつけたかのように、決意を持った言葉が吹き出す。
「先頭にですか・・・?止めた方が良いですね。」
「なぜ!!俺が戦闘に立てば・・・!!」
「あれですか・・?『僕が先頭に立ち、保守派の人達を戦闘不能に追い込んでから話し合う!!』とか、考えていませんか・・?」
飛鳥の心の底を覗き込むように、昏いフードの奥で緑の単眼が鈍い光を放つ。
「・・・・っつ!!」
絶句する飛鳥。そのヒデトの言葉を聞いた百合香も、紡ぐ言葉を見いだせずにいる。
「もう拗れるところまできてしまっているから『軍』を立ち上げたのです。一戦行わなければお互い収まらないでしょう。それが、この世界のシキタリみたいなものです。それに、貴方の持つ能力『おもちゃの勇者』は害意を持つモンスターにしか効果を発揮しない筈です。生身の、しかも訓練所時代の同僚を切り殺すことが出来ますか・・・?」
「それはっ・・・!?」
痛いところを突かれ、言葉に詰まる。
「あなた方『異世界人』が皆持つ『おもちゃの勇者』の能力・・・。害意あるモンスターに対して発動し、ゲームの様に倒すことが出来る・・血や内臓が弾け飛んだりしない。遺体など残らず『素材』と『アイテム』を遺して・・それこそ『おもちゃ』を倒す様に、キレイに無くなる能力・・・。
でも、今回の相手は『ヒト』です。その能力は発動しません。感情を持ち、明確な殺意を持って襲い掛かってきます。それに、戦闘になれば手加減など出来はしません。『ハジメテ』ヒトを殺す事になります・・・。恨み言を吐き、憎しみを飛ばし、怪我を負わせれば泣き叫ぶ・・・・。」
冷たく、昏く深い穴の中を覗き込んだ人間だけが発することが出来る声音で語り掛ける。
「でも・・・・。」
諦めきれずに、すがる様に絞り出す飛鳥。
「でも・・・。は無いんですよ、飛鳥さん。昨日まで冗談を言い合い、笑いあった仲でも殺し合いをしなければならない世界なんです・・・。」
「覚悟は、してきた・・・!!『勇者』だから・・・・!」
震える躰を押さえながら、それでも前に進もうとする。飛鳥に同意するように、先ほどまで下を向いていた百合香も、フードで覆われた暗黒に躰を向ける。
まだまだ幼い見た目に反して、その目に宿る決意の輝きは素晴らしい光を放っていた。
「やはりあなた方は『勇者』なんですね・・・。素晴らしい決意だと思います・・・。でもね、これはヒト同士のどうしようもない争いなんです。『勇者』は物語を紡ぎ、民達に愛され、伝説を作ってゆく存在です・・・。人々に恐怖を植え付け、忌避される存在になってはいけません。」
昔々の自分が・・・お伽噺に出てくる『勇者』に憧れていた時の事を思い出させる輝き・・・。だが、その輝きを懐かしむことはあっても、戻る事など出来そうにない。昏く重たい諦観の念が覆い尽くしてゆく。
「では・・・!!どうすればいいんですか・・・!?」
自らの意志と、人殺しに対する忌避感がせめぎあった、苦しさを滲ませた叫びがあがる・・・。
「『勇者』は『勇者』でいなければなりません。その為に私が派遣されたのです・・・。」
「何を・・・・なさるつもりなんですか・・・・?」
余りにも昏く無機質な応答。掛ける言葉を無くした飛鳥の代わりに、これから起こるであろう事を予感した百合香が、声を震わせながら尋ねる。
「なに・・・・。ちょっとした『戦争』です・・・。得意なんですよ・・、何度か経験していますからね・・・・。」
先ほどまで座っていた場所から立ち上がりながら、深く被ったフードを外し。畑仕事にでもゆくような気軽さで答えるヒデト
しかし、麗らかな陽光を受けて鈍く光る鎧兜・・・。その奥で昏く鈍い緑の単眼が、まるで地獄の底の悪魔の様に感じられてしまう二人であった・・・・。




