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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
第二章 オッサンの異世界
16/25

追跡

またまた長くなりまして・・・申し訳ありません。なんとぉーーーーーー!!!ブクマが増えているだと・・・?!

 ありがとうございます!ありがとうございました。では、追跡。お願い致します。

 月明かりに照らされた草原の中を、灌木を避けつつ進む3台の荷馬車が、明かりも灯さずに進んでゆく。

中央の荷馬車は、武装した集団が乗った前後の馬車に護衛されている様だ。適度な間隔で、速度を合わせている。


 不思議な事に、荷馬車が通った後に残る轍が残らない。後方の荷馬車に乗った深いフードを被った人物の手から、淡い緑の光が荷馬車の重みによって踏みつぶされた草花に降りかかると、生き生きと立ち上がり。荷馬車が通った事など無かった様に、瑞々しい草原に戻っていた。


 「慌てずに急げ・・、痕跡は消えている。いくら手練れと言っても、所詮二人だ。それにビヘナに着いても時間を稼ぐように潜入員に伝えてある・・。どんなに急いでも明日の昼以降になるだろう・・。」


 前方の荷馬車に乗った、同じような深いフードを被った小柄な人物が、張りのある良く通る声で周りの集団に指示を出していた。


 「それに、使い魔のストーカーオウルを上空に放っている。追跡者が居れば、すぐさま念話で警報を発してくれる・・・。」

 そう言ってフードを外し上空を見上げる。月が輝く空に黒い点がひとつ、地上30m程のところを梟に似た鳥が荷馬車の隊列の周囲を警戒するように飛んでいた。


 フードを外した人物の顔を月の光が浮かび上がらせる・・。灰色に近い薄い青の肌に、長い薄紫の髪が纏わりつく。全体の輪郭が現れそうな所で、風に流された雲が月を覆い隠す。

 暗闇に消えて行く集団。どのような追跡技能の持ち主であれ、彼らを追跡するのは難しいだろう。この『世界』のモノであれば・・・・・。



 「しかし・・・月が二つある世界か・・・。あんまり慣れないなぁ・・。だいたい月齢なんて詳しく調べていないしな・・。それに見上げる夜空は敵味方の航宙艦艇の瞬きの方が多かったし・・ひと際大きく輝く光はどっちかの艦艇の爆発だからな・・。」


 荷馬車の集団から300m程離れた灌木から、鈍く光る緑の単眼が浮かび上がる。周囲の光景に変化はないのだが、その灌木の近くまで何者かが歩いた後が微かに残っていた。その痕跡も、草原に吹く緩やかな夜風が消してゆく。

 高度な電磁的探知手段を持つモノが居れば、その灌木の脇に奇妙な鎧を纏った者が存在しているのを知覚できた。


 「さて・・・。どうするかな・・?襲撃現場から凡そ7kmか・・。いくら月明かりがあるとはいえ結構な速度だな・・?カドイと同じような種族特性を持ったものが居ると考えた方が良いな・・。それに奴等の上空を飛んでいる梟みたいな鳥も警戒しなくちゃな・・。」

 考えを纏めるために独り言を呟く。その音声はヘルメット内部にしか伝わらず、外部には漏れない。


 カドイが言っていた様に手際が良い。冒険者ギルドで受けた依頼説明では、このような事案は無かった。確かに、前回の輸送隊が襲われて被害を被った話は聞いたが。その後で国軍とギルドの治安担当が派遣され、大規模な山狩りで危険は取り除かれたと言っていたが・・怪しい話だな?


 宿屋や酒場、商店で聞いた話や噂から判断するに、今回の輸送に関しては『囮』の可能性が高い。護衛に就いていた冒険者パーティーも良い評判は聞かなかったし、依頼の等級が低い割には報酬が高かった。

 それにカドイにしても、発散している雰囲気の感じは荷役人夫のソレじゃない・・。だいたい荷役人夫の持つ武器にしちゃ物騒すぎる・・。

 

 そう言えば『冒険者の書』にも書いてあったな・・?『冒険者ギルドは依頼を仲介し、適正な冒険者を募り社会に貢献する組織である。』

 何処にも冒険者の生命を守り!なんて言葉は記されていない・・・。適正な冒険者・・か?高い報酬に惹かれ、依頼の内容について情報を集めない『冒険者』など大成するはずはない。

 囮として考えてみれば、これ以上無い『適正な冒険者』だな・・?依頼人は哀れな羊が手に入るし、ギルドも大成しそうに無い評判の良くない冒険者を『処理』出来る・・。

 まったく・・・『異世界』に来てみても『ヒト』の本質など変わりがないもんだ・・。だが、解り易くて良い・・。

 

 ま、山狩りの話は本当だろう・・・。しかし、連中は尻尾を出さなかった。前回の輸送隊が襲われた時も、護衛に就いていた冒険者パーティーの女性二人も拉致され暴行を受けた痕跡があったし。現場検証の結果、遺体の荒らされようや、殺害方法が乱暴で短絡的な事もあって山賊と推測された訳だが・・。


 山賊など直ぐに征伐出来ると思っていたかどうかは分からないが、尻尾を出さ無いのに業を煮やした依頼人が、今回の事を考え付き、それに冒険者ギルドが乗ったのか・・・。


 前回の襲撃現場を見たわけじゃないから、推測の範囲を出ないが・・斃した連中の錬度が、持っていた装備と釣り合わない・・。明らかに山賊を偽装するように装備品がバラバラだった。


 魔法も使えない30代のオッサンの使い道としては上等な部類か?高い報酬に釣れられて、最後まで依頼を達成しようと奮闘されました・・・か?

 ふん・・・。面白い話だ・・・・?その期待を見事に裏切って差し上げようじゃないか・・?豊満な肉体に妖しい色香を纏った仲介人・・ビューロゥの顔と肢体を思い出しながら、追跡行動に移ってゆく。


 先ほどまで草原を照らし出していた月は、どんよりと漂う雲に覆われ光の加護を手放していた・・・。




 追跡を始めて一時間が経っていた。既に優しい光を与えてくれていた月は天空に無く、どんよりとした雲が大きく発達した厚い乱層雲になっていて、強い雨が降って来ていた。


 雨か・・・・。ますます追跡するのが困難な状況になってゆくな・・・。逃げている連中もそう思っていてくれると有り難いが・・?

 魔法を使わなければ追跡は難しいし、追跡者が魔法を使えば検知魔法で察知されてしまう。先程の轍を残さない魔法も、かなり出力?を絞って行使していた様だ。E波検知装置でも低い数値しか出ていない。

 あの程度の数値では拡散してしまって、自然に存在する魔力と判別するのは厳しいだろう・・・。しかし、これで奴等が山賊の類で無い事は分かったが・・・正体が判断できん・・。


 ま、そろそろ根拠地に着くだろう。荷馬車と襲撃に参加した人員に疲労が出てきている。距離的にも順当だ。厄介な上空の監視者も、天候の変化には弱い様だ。


 お・・?森の中に入って行く・・律儀に轍を隠す魔法を使っているな・・?人員は交代している。三人三交代制か・・。フードを被っている者は魔法を使えると見て行動しよう。

 森か・・・トラップも沢山仕掛けてありそうだ・・。受動感知機器の感度を上げていこう、此処まで来て獲物に逃げられちゃ笑いもんだ・・。


 荷馬車が入っていった森の切れ目を迂回しながら、獲物を追跡する猟犬の様な動きで、森の中に入って行く。その姿は光学迷彩によって夜間・雨天の状況に合わせた色彩パターンを装甲表面に表し、近距離でも見えずらくなっていた・・。



 雨はまだ降り続いている。想定どうり、森の中には通過すると作動する単純なロープを使った警報装置が設置してあった。小型の動物に反応しない様に、地上から1m程の高さに張ってあるこのロープ、警報装置本体に魔法石があって、その魔法石を動力源とした簡単な隠蔽の魔法が掛かっていた。


 雨が降っていた為、空中で雨が滴るといった風景が見られたが・・・。隠蔽する気が在るのか無いのか・・少し首を捻ってしまう・・。それ以外は特に罠の類は無かったが、慎重に行動する事に変わりは無かった。



 荷馬車の隊列は森の中を進んでいた。その進路の先を木の上から望遠カメラで覗いてみるが、相変わらず森が続いていて、あと20mも進めば森が深くなっていて、とてもじゃないが荷馬車では進入出来ない。

 だが、唐突に荷馬車の隊列は停止する・・。先頭の荷馬車に居た人物が、おもむろに立ち上がり両手に持った杖を掲げながら、何事か呟いている。集音マイクの感度を上げてみるが、雨音が激しくて聞き取れなかった。

 その代わりに、E波検知装置が反応。先程の魔力の十倍の量を数値に出していた・・。


 その呟きが終わると、木々に覆われていた中央の部分がザワザワと左右に分かれ、荷馬車が通過できる整備された通路が現れる。

 その通路を通って3台の荷馬車は通路の奥に入って行く。最後の荷馬車が通過した後、最後尾に居たフードを被った人物が同じ動作を行い、また深い森に還っていた。


 「おいおい・・・魔法ってのは随分と便利なもんだな・・?と・・、感心している場合じゃないな。確か・・『冒険者の書』に魔法の項目があったな・・・?どれどれ・・・。」


 ギルドで貰った『冒険者の書』は、初級冒険者からドラゴンを討伐できる上級冒険者まで頼りにする一種のガイドブックになっている。

 その項目は多岐にわたり生活雑貨・各国の通貨・風習・慣習・政治形態・魔法・モンスター・武器・防具・などなど・・一冊では収まり切らない程の情報量を誇っている。

 本来なら、全ての情報が入った魔法石一個で事足りるのだが。この情報を引き出すには『魔力』が必要で、『魔力』を持たないモノには『魔力付与』された、内容を空中に展開できる『冒険者の書』が渡される。


 魔力を微量でも展開する事を嫌ったヒデトは、バルデロット邸の物置小屋で展開した『冒険者の書』を、一日掛けて項目ごとに分類し、装甲服の内臓記録メディアに修め、任意の時にヘルメットディスプレイに呼び出す仕様にしていた。


 視線追従装置によって、ディスプレイに呼び出された『冒険者の書』。魔法の項目を選び、『植物操作の魔法』の項目を開いて該当する魔術を選ぶ。

 

 「ふ~ん・・・、植物操作か・・?精霊魔法と付与魔法の二種類があります・・?そんなもん知るか・・!精霊魔法は主にエルフなどの精霊種に近い種が、精霊に語り掛けて・・特別な操作を必要とせず・・・。こいつじゃないな・・。付与魔法は純粋な魔力のみで、武器・防具などの無機物に魔力を与えたり、動植物を操作する魔術体系です・・・?行使するに当たっては、魔術書に記された手順に従った動作と魔力が必要です・・・と・・。こっちだな。必要な魔力と手順が満たされれば、初級魔術師でも使用可能です。・・・・か・・。」


 対象が展開した魔術に予想を付ける。動かされた植物に警戒や防護が出来るかどうかが気になるので、ディスプレイに映し出された木々の映像に、E波検知装置の情報を重ねる。木々が動いた部分だけ、E波が検知された薄い黄色に染まっていた。


 さて、黄色の部分は避けて内部に侵入するか・・。アクティブスキャンを行って内部の情報が欲しいところだが、何らかの手段で検知されてもつまらないからな・・・。


 弓は弓掛に戻し、腰から抜いた大型サバイバルナイフを構えながら、木々の間隔が狭まった深い森の中に入って行く。




 潜り抜けた森は幅にして15m程度の厚みしか無く、その先には遺跡を改修した様な小規模の砦が存在していた。森の切れ目から砦まで30m程草地が続いていて、外壁の高さは5m程度、回廊の上を弓を装備した哨兵が正門の上に2名配置についている。雨の為、篝火は焚かれていないが、内部に魔法の光を灯したランタンが正門の上に二つ輝ていた。およそ、10m程正門の周りに明かりを提供している。

 哨兵が弓を装備している事から夜間でも見通せる魔法か、カドイの様な種族特性を持っているに違いない。

 

 取りあえず、連中の根拠地を発見することが出来たが・・・・どうするかな・・?カドイに合流して増援と一緒に叩く・・・。ダメだな、時間が掛かり過ぎる。数の力で押し切ることは可能だが、奇襲効果は望めない。その間に逃げ出す事もできるし、捕虜を殺害される。時間が掛かれば全員を捕縛、又は殺害が出来ない。根を残すことになる・・。それに、この規模の根拠地を造る能力を持つ者達だ・・他にも協力者が居る可能性が高い・・。それこそ、ビヘナに協力者が居てもおかしくない・・。


 ふん・・・・・・。殲滅か・・・?襲撃と、それに続く夜間・雨天の行軍で、襲撃に参加した部隊は休息に入るだろう・・。食事の後は睡眠といったところか・・?留守部隊による戦利品の確認と搬入・・今回得た捕虜は、明日にでも公平に分配されるだろうから救援を急ぐ必要はない・・・。


 所詮、赤の他人だ・・・。まずは・・・内部の敵兵の配置か・・?さて・・・・こんな時はと・・・。

 

 装甲服背部ユニット・・左腰の格納部分から拳大の長方形の物体を取り出し、それを左手で砦の外壁に向けて投擲する。

 生体強化を受けた肉体から投げられた物体は、軽々と飛んでゆき。外壁に衝突する寸前に八本の脚が飛び出し、音も無く接地する。そこに長方形の物体は無く、蜘蛛の形をしたドローンが顕われていた。蜘蛛の形態をしたドローンの胴体後部から、通常の視覚では捉えられない程微細な糸がヒデトの背部ユニットに繋がっていた。


 外壁を音も無く素早く登ってゆき、外壁の頂点で内部に収められたカメラとセンサーを作動させる。その姿に満足げに頷きながら、ミクロファイバーケーブルを経由して得られる情報に目を走らせる。


 門を入って左側に荷馬車3台・・4人で荷物のチェックか・・。その奥5mに遺跡を改修したと思われる倉庫・・入り口に人員無し・・内部E波スキャンにも反応なし。

 右側・・兵舎らしき建物二つ。手前の方に10名の反応・・奥に9名の反応・・。砦中央、遺跡に元からあったと思われる補修を受けた大きな建物・・礼拝堂の様に見える・・人員の反応が多い・・16名、うち4人は通常のE波反応より大きい数値だ・・さらに、建物中央に立つ人物は輝くような黄色を放っている・・。

 

総勢43人・・想定していた人数より多い。一人で捌くには無理がある数字だ。ヤレない事は無いが、どうしても穴が出来る。それに、全員を殺害、若しくは無力化したとしたらギルドでの評価が上がってしまい、悪目立ちしてしまう・・。

 日々の生活と帰還手段を探すだけなら、なるべく有名にならない方が良い。ギルドからの強制依頼や王侯貴族からの無理な依頼などを受けていては、目的を達成できない。


 1、元の世界への帰還、及び帰還手段の探索。

 2、帰還までの生活を確立するための行動(仕事、金銭、生活場所の確保)

 3、上記の目的を達成するに当たって、自衛行動以外での殺傷を抑制。


 そうだ・・目的を見誤っては危険だ・・。なんせ『異世界』。石橋を叩いて渡るぐらいが丁度いい。死んだら其処でゲームオーバーで、命にセーブポイントなど無い・・。


 よし・・!カドイと合流し、救援隊と一緒にここを襲撃しよう。初心者冒険者には荷が重すぎる・・。その前にスパイダードローンを帰還させて・・もう一台と交代させなければ。

 何か動きがあった場合は、緊急暗号通信を出来る様にセットして・・・と。


 砦から帰還してきたドローンを回収、エネルギー充填の為背部ユニットに格納する。交代させる新しいドローンを背部ユニット右格納部から取り出し、右手で外壁に向かって投擲する。今回はファイバーケーブルを繋がない。スタンドアローンモードにセットする。


 展開が成功し独立監視活動に入ったのを確認したところで、カドイと合流するために合流地点に戻るのだった・・・・・。




 先程まで空を覆っていた乱層雲の雨雲は厚みを無くし、層積雲に形を変えていて、地面を叩いていた雨は止んでいた。


 「これだけか・・・・?」

 カドイと取り決めておいた合流地点に辿りついたが、救援隊としては少ないと感じさせる人数しかいなかった。


 「これでも多い方だぞ・・・?両国の守備隊から人数を割いて貰った。あと、ビヘナに滞在していた冒険者の連中にも声を掛けた。守備隊が20人に冒険者が2パーティー10人。合わせて30人だ!大した数だぞ・・・?」

 不満げに呟くヒデトを見ながら、大仰に肩を竦めつつ答えるカドイ。


 「不満を言っても始まらんな・・。場所は突き止めた。此処から東に10キノ程度向かった、深い森の中の遺跡を改修した砦だ・・。付与魔法で巧妙に隠蔽しているし、迂回路には警戒装置が配置されてる。人員は43人・・内、4名が魔法使いだ。さらに、一名の魔力はかなり高い、警戒する必要がある。」


 「43人・・・?想定していたより多いな・・・。魔法を使うものが居るのは考えていたが・・、4人とはな・・・?」

 カドイが連れてきた救援隊の国軍混成隊。その中でも経験を積んだ兵士としての雰囲気を発散させている、特徴的な笹穂耳と赤銅色の鍛え抜かれた肉体を持った20代半ばの女性が話に割り込んでくる。


 「あんたは・・・?」


 「申し遅れた。ビヘナ開拓村警護団長サラ・ワーデリュス・・宜しく頼む。」

 暗がりの中でも目立つ、金色の瞳を輝かせながら所属と身分を答える。


 「で・・・、どうするんだ?悪いが初級冒険者に何か期待しないでくれよ・・?俺達を囮にするにして連中を誘き出すところまでは成功だな?だが、壊滅させるには人数が足りないぞ。」

 戦闘は御免だぞ・・?と、匂わせる物言いのヒデト。


 「連中のアジトを見つけてくれただけでも報奨は出るよ。囮の件に関しては謝るつもりはない。冒険者だろう?人数に関しては『冒険者の街道』から有力な編成の部隊が増援として派遣され、此方に向かっている。逃すつもりはない。それと、カドイから聞いたのだが、弓の腕前は相当な物なんだろう?一つ、頼みを聞いてくれないか・・?勿論、別口で報酬は出そう。個人的にも・・・・ね。どうかな・・?」

 自身の魅力を理解しているらしい。躰のラインが分かる皮鎧をくねらせながら、無機質なカメラアイを下から見上げる『お願いポーズ!!』が炸裂する!!


 「正面戦闘は無理だぞ・・・・?」

 サラの『お願いポーズ!!』から頭部を背けつつ答える。それと、『要らん情報を与えやがって!!』と怒気を含ませた視線をカドイに送るが、カメラアイ越しに伝わるものでは無く、なんら効力を及ぼさなかった。

 

 そんなヒデトの態度に関心を全く抱いていないカドイは、『また稼ぎが増えるなぁ。でも、輸送の代金は成功報酬だったっけ・・?』などと、報酬の事しか頭に無いらしい。

 そんな姿に怒気が抜けていき、救援隊の最後尾にカドイと一緒について征くのだった・・。




 積層雲は先ほどと変わらずに月を隠し、夜襲を行うには都合のいい天候だった。救援隊はヒデトと違って大きな魔力を持つ者が居るから、魔力検知に引っかかる可能性を考えていたのだが。皆、何かで編み込まれたローブを羽織っていた。


 「サラ。何だい其れは・・?」

 体全体をすっぽり覆うローブを指しながら尋ねる。ディスプレイには検知されるE波が、小動物並みに抑えられたサラの全体像が映っていた。


 「ステルススライムを加工したローブだ、魔力を隠蔽する効果がある。高価だがな・・・!」

 自分で言ったダジャレに満足した様な笑みが浮かぶ・・。とてもじゃないが、笑いを誘う効果は無い。逆に、『美人だけど、チョット残念な人』と脳裏に刻み込むヒデト。


 「・・・・なるほど。だからこそ此処まで気づかれずに接近出来たのか・・。」


 「納得してもらった所で、始めようか・・?分派した別動隊も配置に着いたようだ。分派っなしてくれ!」

 更に追い打ちを重ねるサラ。『かなり痛い人に』にレベルアップだ!


 返事をする気力も失せてゆく・・。答える代わりに正門上の哨兵に狙いを付け放つ。キッチリ二連射で哨兵二人の頭を射抜く


 「手筈どうりに冒険者パーティーの斥候が潜入、内側から門を開ける。ヒデトも続いて外壁を登り、回廊で援護してくれ。左肩に蛍光スライム片を着けていないモノは、構わずに撃て。」


 サラの言葉が終わらないうちに駆け出す。哨兵が射抜かれる光景を見ていた斥候班4名が先行している。二名一組で、正門を中央にして左右に分かれ、外壁に取り付きフック付きのロープを投げ入れる。

 一人が警戒している間に素早く登り、回廊の安全を確保。相方が登りきるまでの警戒に当たる。まだ気づかれていない様だ、門を開ける為に回廊から降りてゆく。

 左の班が残したロープに掴まり、素早く登る。回廊に着き、肩に回した弓掛からコンパウンドボウを取り出し砦内に視線を走らせる。


 ヒデトにしてみれば警戒されていないのは分かりきった事だった。配置について索敵警戒にあたっていたスパイダードローンからの情報で、砦内で作業していたものは兵舎に戻っていて、食事か睡眠をとっている事を掴んでいた。


 作戦を成功させる確立を上げるためには、この情報を事前に話しておけば良いのだが。そこまでやってしまうと根掘り葉掘り探られることになるし、今後の為にも能力やネタは隠しておいた方が良い。『戦闘や索敵がそれなりに出来る、弓の旨いヤツ』ぐらいの認識が丁度いい。


 そう考えながら展開していたスパイダードローンを収納し、充電の完了したもう一つのスパイダードローンを、砦中央の礼拝堂に見える建物に向かって投擲する。

 今回も上手く着地し展開する。カメラやセンサーを使い、礼拝堂内部をセンシングする。人数が減っていた。魔法使いと思われる4人の反応と、先ほどは無かった、割と大きなE波反応が礼拝堂の中央に存在している。

 

 正体を探ろうとスパイダードローンに指示を出そうとした所で、腰に吊った、サラから渡されたミスリル貨程度の大きさの魔法具が反応し、サラの声が魔法具から響き渡る。

 

 「魔法統制解除!正門開放成功、突入班は突撃!外部班は監視活動を継続、逃走に入る敵を排除。斥候班は突入班と戦闘に加入、狙撃班は、適宜援護を!敵を殲滅せよ!突入!!」

 魔法具を介してサラの指示が次々と行われ、各々が決められた行動に移ってゆく。


 左手の遺跡を改修した倉庫から、慌てた様子の武装した三人が飛び出してくる。訓練で行ってきたとうりの動きを最速で行い、矢を放つ。

 この世界の素材では絶対に出せない恐るべき威力を与えられた矢が、三人の先頭を行く大振りな剣を持ったオークの首に命中。頭部を胴体から切り離す。


 その光景を見届けることなく、オークに起きた惨事を目撃して立ち止まる、下半身丸出しの人種の戦士に二射目を叩き込む。

 素早く正確な照準から放たれた矢に、上半身を覆っていたスケールメイルを紙の様に貫通され、シンボルを天に向けたまま絶命する。


 三人目のエルフは、右側の外壁の回廊で警戒をしていたダークエルフの放った矢に心臓を捉えられ、仲間二人が辿った末路を見る事無く、命の灯を失っていた。


 こちらを見ながら、勝ち誇る様な自信に満ちた表情を見せた後、自身の任務に戻るダークエルフ。奴の任務は兵舎を制圧に向かう突入班を援護する事なんだが・・、短時間で制圧できた様だ。手持無沙汰になったとはいえ、何もこっちの獲物までチョッカイ出す必要は無いんじゃないだろうか? 確かに、腕は確かなものだが・・・。


 「突入班、斥候班と合流し、兵舎の制圧成功。殺害17名、捕縛3名。損害無し。」


 「外部監視班。逃走者なし・・・監視を継続します。増援の冒険者グループからの使い魔が来ました、到着まで10ミト。」


 「狙撃班。倉庫から出てきた三名を射殺。うち一名は下半身を露出、倉庫に捕虜が居る可能性が高い・・。」


 「了解した。外部に待機している治療班に、斥候班3名を付けて捜索に向かわせる。突入班はその場に二名を残し、中央の礼拝堂に向かえ。魔術抵抗を使用し、十分に警戒するように。狙撃班、突入班の援護。配置に着き次第突入しろ。」

 各班から魔法具を介して送られてくる報告が届く。魔力を持つ者同士が行うと、言葉に出さなくても意志を通じ会えるのだが。今回はヒデトが居るために音声通話になっていた。長距離通信にも使えそうなものだが、魔力は距離と共に減衰する為、短距離でしか効果を発揮できない代物だった。



 サラからの指示を受け取り、援護に最適な位置に向けて移動する為、倉庫の屋根に向かうヒデト。そこに、緊迫した念話が響く。


 「捕虜監視班・・。こいつら『希望教徒』だ・・・!!気を付けろ!!司祭クラスがいたら、『終末の獣』を召喚されるぞ!!」


 「外部監視班・・!砦中央で魔力が増大中・・?!何が起こってる?!注意しろ!!中ランク魔獣クラスだ!!」


 或る意味、外部班からの警告は無駄な物かもしれない。その場に居合わせた全ての者が、礼拝堂から溢れ出る圧倒的に発散される魔力と、巨大な重圧に動きが止まっていた。



 援護地点に向かう途上、圧倒的な重圧が礼拝堂から発散される。その重圧から危機感を持った肉体が即座に反応、倉庫の外壁に身を隠し、弓の照準を礼拝堂に向ける。そして、その存在を目にして声が漏れる。

 「なんだ・・・?あれは・・・・・?!」

 

 礼拝堂の外壁を内部から突き破りながら、アフリカゾウを三倍にした大きさを持つ、一つ目のバッファローの怪物が圧倒的な重圧を周囲に放っていた。

 

 

 



 

 




 

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