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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
第二章 オッサンの異世界
15/25

初陣

遅くなりました。『異世界』を何とか生活してゆくオッサンの物語が始まります。ブクマ登録の皆様、つまんなかったらメッセくださいw面倒くさいかもしれませんがwでは、『初陣』をどうぞよろしくお願い致します。

 『商業都市オプラス』。チャストリトン王国第一位の規模を誇る、ロゴウ大陸西沿岸部でも有数の貿易都市。

 ロゴウ大陸中心部にある、龍鳳山脈からの流れが作り出したイルナ大河の両岸に生まれた町が、河川交易によって発展し商業都市となった。

 ロゴウ大陸中心部の『ギュイドラン魔道皇国』と、イルナ大河によって貿易を行うロゴウ大陸西沿岸部の海洋国家『チャストリトン王国』にとっては、重要な中継地点だった。


 さらに、イルナ大河の両岸を渡す商業都市オプラスの代名詞、ヒトとドワーフ、魔族によって作り上げられた『試練の大橋』は、ロゴウ大陸内陸部を駆け巡る『冒険者の街道』の結節点であり、『試練の大橋』を渡るための商人や冒険者、旅人達がオプラスに集って大変な賑わいを見せていた。


 『試練の大橋』を通る『冒険者の街道』が、都市の中心を貫いており。イルナ大河の両岸に広がる商業都市オプラスは、『西オプラス』『東オプラス』にそれぞれ分かれており。都市の外角は、八角形がちょうどイルナ大河で分かれた形になっている。

 人の組織力、ドワーフの技術力、魔族の魔術と叡智が設計した都市は美しく優美で、堅固なうえに合理的な造りで形作られていた。


 

 「さぁ!もう見えてくるぞ!もうすぐチャストリトン王国第一位の都、『商業都市オプラス』だ!」

 エドにんポンとゆう、じゃんけんと似た慣習で最後の3キノを獲得したキュリアーヌ姫が、ヒデトのバックパックの上で叫んでいた。


 「殿下・・・・?そこまで歓声を上げる事柄ではない様に思われますが・・?」


 「何を言っているヒデト・・?やっとまともな食事にありつけるのだぞ・・?いや、ヒデトの糧食も悪くないぞ?!しかしな・・・ビヘナからライ麦パンとチーズ、干し肉だけではな・・・。流石に飽きてくる。其方も食事の種類は多い方が良いのだろう・・?オプラスは大陸各地はもとより、河川交易でチャリッヘンの海産物も入って来る。旨い物が食べられるぞ・・・!?」


 「では、皆さんと御一緒できるのは此処までですね・・・。何か一筆書いて戴いて・・」

 旅の間中思っていたが、この姫様・・『食』にかなりの関心があるのだろうな。確かに、ビヘナ村で購入した食品はお世辞にも旨いとは言えなかったな・・。


 「うん・・・・?!そうか・・・。ヒデトとも別れなければならんか・・・。しかし、人生は長い!また出会えるであろう・・!世話になったなヒデト・・。東オプラス砦に着いたら、アヌドートス家の身分保障を与えよう・・。いきなり妾の『名』を出してしまうと、色々と勘繰られるからな・・。どうだろうジャヌア・・?」


 「ええ、其れが良いだろうと思われます姫様・・・。(チッ・・エルフを出したのが間違いだった。)」

 最後の勝負に負けたのが余程悔しいのだろう・・。ブツブツと呟きながら気の無い返事を送る。


 「そうか!では、ミヘーナ。お前はどう考える・・?」


 「姫様の仰るとうりになさって宜しいでしょう。確かに『王族』との接点を持っていては、変に勘繰られてしまいます。(うぬぬぅ・・・。姫様との最後の勝負・・ドワーフを出したのが・・くぅ!)」


 何か言いたい事があるらしいのだが、両人ともキュリアーヌの意見に賛同していた。後ろで付き従うレドス、ハイド共にその様子を見て、笑いを噛み殺すのに必死だった。


 「おお!殿下、あの建物が砦なのですか・・?かなりの規模ですね・・!」

 キュリアーヌ姫を後ろに背負っていたため、ヘルメットは背部に格納している。その為、肉眼での視認しかできない。それでも、菱形の大きな砦が見えて来ていた。

 イルナ大河から引き入れた水路が、東オプラスの外壁を囲むように流れ、其処から砦の堀に流れ込んでいる。東オプラスと砦は幅20m長さ30m程の巨大な跳ね橋で区切られていて、非常時と夜間は跳ね橋は上げられ双方の門も閉じられている。

 


 まだ、日が高い正午に近い時間に砦に着いたため。大勢の商人や旅人、冒険者等が入場の順番を待っていた。

 この人数を処理するには時間が掛かるだろうと考えていたが、砦を貫く『冒険者の街道』が砦の中ほどで狭まり、高さ10m横15m程の何かの意匠を象った門があり、その門の周辺は警備が厳重だった。

 さらに、砦の外壁の上部では。いくつかの集団が警戒の色も隠さず、固定式の大型投射武器を門の周りに向けていた。

 だが、その門をくぐる人々には緊張感があまりなかった。


 「ミヘーナ侍従長、あの門は何でしょうか?」


 「ああ、検知の門ですね。魔法によって登録されたもの以外の反応が検知されると、詰所まで連行され尋問を受けます。手前にある事務所で手続きをすれば、武具や防具、魔法の品々まで持ち込みが可能です。しかしながら、商業都市内での抜剣や生活魔法以外の行使は、特別な許可が無ければできません。

 登録されてしまえば魔法の腕輪を身に着け、あの門をくぐれば自由に往来が可能です。あ、魔法の腕輪は検知の門でしか反応しませんので、入場した人々のプライバシーは保護されていますよ。まぁ、建前上は・・・ですけれども・・。」


 さらさらと説明をするミヘーナ。他にも、ロウゴ大陸各地で勢力を持つ『冒険者ギルド』を代表とする各ギルド発行の身分証明用魔法石や、チャストリトン王国と交友のある王族や貴族も、魔法石を持っているとの事。(もっとも、王侯貴族は紳士協定を結び『信頼』する事で武具などの『危険物』検査は無い様だ)



 キュリアーヌ姫一行が東オプラス砦の『検知の門』前に到着すると、ビヘナ村から早馬で連絡を受けていた商業都市オプラスの領主『バルデロット・オプラス』が出迎えに来ていた。


 「お久しゅうございますな、姫様!ようご無事で・・・!何よりです。」

 地球13世紀ごろの、いかにも『領主です!』と言わんばかりの衣装を纏った、60代半ばの人の良さそうな初老の男性が、武装した一団を引き連れキュリアーヌ姫に声を掛けていた。


 「うん。バル爺、世話になる。忙しい中すまんな。」


 「何を仰られます・・・!かような言葉・・。爺には勿体ないですぞ・・!」

 キュリアーヌの言葉を聞いて感動に打ち震えながら、大げさな身振りで感情の高ぶりを表現する。あまりにも大仰な動きなため、周りの人々から視線が集まる。


 「バルデロット公爵・・。ここでは人々の注目を受けてしまいます。」


 「おう・・!これは失礼いたした。では、馬車が控えさせてありますので、姫様とミヘーナ侍従長、ジャヌア嬢はこちらに・・・。近衛騎士レドス!ハイド!両名は姫様を載せているその男と共に、後続の荷馬車に乗れ!」

 キュリアーヌ姫を背に載せたまま此処まで来ていたため、当然バルデロットの目に留まるヒデト。その姿に羨望と嫉妬を滲ませながら、バルデロットは口早に命令を発していた。


 おい、爺さんの嫉妬かよ・・・こんな役なら喜んで譲りたいよ・・・。だが、羨望と嫉妬を感じるのは俺の方だぜ・・・。そう思いながらバルデロットの頭部を見つめるヒデト・・・。


 その視線の先のバルデロットの頭部は、年齢を感じさせない程豊かな髪が『フサフサ』と覆っていた・・



 

 キュリアーヌ姫一行と東オプラス行政区で別れたヒデト。その際に身分保障をして貰ったのだが、その身分保障の引受人はバルデロット公爵に代わっていた。

 行政区でバルデロット公爵じきじきの面接が、ヒデトに対して行われたのだが。その際に『ハ~ゲルン』を隠すためにキュリアーヌ姫から貰ったバンダナを脱いだ時のバルデロットの反応が凄まじい物だった。


 「それは・・・?!『ハ~ゲルン』!!」

 その声と表情を見た時は、またかよ・・?!と思ったのだが、その後の行動が違っていた。


 「うん・・!私も患っていたから、その気持ちは痛い程・・いや!!身を引き裂くほどの感覚・・。だが、諦めるな同志よ!!我も遠い旅の末に魔法薬『ドラゴンヘアー』を手に入れ、克服したのだ・・!よし!!私が身元を引き受ける!!そして、旅立つのだ若き同志よ!!」


 何処の秘密結社の結団式?と思われるような展開に、呆気にとられるヒデト。しかし、バルデロット公爵の頭部には光り輝く『フサフサ』が存在している。

 その光景が脳裏に焼き付いてしまって離れない・・。そして、グラウンド・ゼロだったバルデロットの頭部を復活させた『ドラゴンヘアー』・・その言葉が、希望となって魂に刻まれていた。



 「まぁ、『ドラゴンヘアー』云々は置いておいて。生活を成り立たせるために『仕事』を探さなければ・・取りあえず『冒険者ギルド』に向かうのが基本だよね・・・?」

 バルデロットの面接を受けてから一日が経った。東オプラスを貫く大道り『冒険者の街道』の端で、冒険者ギルドに向かいながら呟くヒデト。



 いくら魂に刻まれたといっても、地球連邦に帰還が出来れば『フエルンデスX』で、いくらでも発毛できるのだから。まずは生活を安定させ、帰還の糸口を掴まなければならない。

 幸いにも、商業都市オプラスでの居住場所はバルデロット公爵が提供してくれた。東オプラスの中心街から少し離れた貴族・富裕街にある、バルデロットの公爵の私邸・・その外れにある大きめの物置小屋がそれだった。

 面接の後、オプラス家の執事が現れ物置小屋に案内してくれた。私邸から十分に距離が離れた場所で、使用人も滅多に近づかない所だった為、

 装甲服のバッテリーを補充するためにソーラー充電器を展開しても、問題が発生しないのもありがたかった。


 『冒険者ギルド』に登録するのが目的な為、大型バックパックは外し『100式大型狙撃銃』と『武士』は小屋に置いてきた。その代わりサバイバル装備のコンパウンドボウを、肩から廻した専用の弓掛に装備し、大型サバイバルナイフを左の腰に所持している。(勿論、バルデロット公爵のお墨付き)。

 さらに、「そのままの見た目では物騒だ。」のバルデロット公爵の一言で、公爵が若いころ愛用していた、アラクネによって創られたフード付きのローブを纏っていた。


 チョット、伝説のロビン・フッドになった感覚で。厨二精神が炸裂しそうになるひでと。いやいや、ナニをニヤケテイルンダ・・。これから独りで生きていかなくちゃならないんだぞ!!

 そう戒めるのだが、今まで感じた事のない程心が躍っていた。


 『冒険者の街道』沿いに立ち並ぶ数々の商店や飲食店、宿屋などを見ながら、田舎者の様に感じたことをブツブツと呟きながら、執事に教えられた場所を目指す。

 何も探すことは無かったようだ。東オプラスに入場した冒険者らしい何組もの集団が、一斉に歩を向ける先が『東オプラス冒険者ギルド』だった。


 中央市街地と呼ばれる区画の中で、最も巨大な建造物として存在している『冒険者ギルド』。

 五階建ての巨大な建造物は、頑丈そうな石材と何かの合金、木材を使った荘厳な建物で。窓の配置をみると、一階から二階までは10m程度の高さがあるフロアーがあり。その上の三階から五階部分は4m程のフロアーに分かれている様だ。


 眺めてばかりではしょうがないので、就職支援センターに向かう様な気分で入り口から中に入って行く。

先程までの興奮は鳴りを潜めていた。


 一階フロアー中央部分は5m程の幅の通路になっていて、その左右に3m程の間隔で10列の様々な文字で埋め尽くされた大きな掲示板があり、何組もの雑多な種族が混じり合った冒険者のパーティーが、これまた聞き取れない言語を交えながら言葉を交わしている。


 その通路はフロアーの奥、二階に上がる階段まで続いている。そして、掲示板の先のフロアー中央は通路を挟んで左右に分かれたカウンタ―があり、『冒険者ギルド』の職員達が受付に来た冒険者たちの対応をしている。

 ちょうど受付に入る、厳つい牙を持ったオーグリの様な見た目の戦士(いや、普通に黒髪の美人です。肌は薄い緑だけれども。)が小ぶりな明滅する魔法石を職員に渡している所が目に入った。どうやら番号順で呼び出しをしている様だ。


 きょろきょろと周りを見回しているのを、カウンターの前に居た何人かの職員が気づいたようだ。40代半ばに見える笹穂耳をもった、上品な女性が話しかけてくる。


 「こちらは、初めてですか?よろしければご案内いたしますが。」

 品の良い微笑みを浮かべながら、年を感じさせない若々しい声がヒデトに向けられる。


 「はい、有難うございます。あ、これ身元保証用魔石と紹介文の入った魔石です。申し遅れました。ヒデトです。」

 そう言って、ローブのポケットから二つの小ぶりな美しい方形にカットされた魔石を取り出す。


 「では、此方でお預かり致します。初めての方は二階で受付です。個人面談もありますので、此方においで下さい。案内役のビューロゥ・ナイシアです。どうぞよろしくお願い致します。」

 ヒデトが取り出した魔石を受け取り、冒険者を導く女神の様な微笑みを浮かべつつ奥の階段に向かう。


 その笑顔に魅入られたように付いてゆくヒデト。内心で『美熟女もありなんじゃね?』と思っていたかは定かではない・・・・・・。



 「バルデロット公爵の身分保障ですか・・?ふむ。それと、紹介分も拝見させていただきました。『奇病ハ~ゲルンを患いながらも、完治薬『ドラゴンヘアー』を求めて旅をしている最中に魔物に襲われ。その時負った怪我のせいで過去の記憶が曖昧・・。偶然にも我が家の者が援け、今はバルデロット公爵の預かりになっていると・・・・?」


 二階の個室面談室に案内され、ビューロゥの個人面談を受けているヒデト。先程渡した魔法石を、何かの文様が施された机の上に配置している。

 どのような原理が働いたか分からないが、ビューロゥの眼前の中空に描き出される二つの文章。それを見ながら確認を求めてくる。


 「ええ、胡散臭いと自分でも思いますが・・・。事実なんです・・・。」


 「確かに、ハ~ゲルンの初期症状に見えます。それにしても魔力が少ないですね・・。いえ、感知できないとは・・・。まぁ、魔力が無くとも冒険者には成れますし、問題は無いでしょう。得意なモノ・・何かありますでしょうか?」


 身分を確認するときにフードは脱いでいる。ついでにバンダナも取っている為、チョットテカっている。そのテカりを見ても憐みや同情を見せないビューロゥ。その姿に若干面喰いながらも、変な目線を受けないで済んでいる自分の幸運に感謝していた。


 「弓を少々・・・。あ、人種ですが荷運び等もオークの皆さんに負けない自信があります。」


 「いいでしょう。『冒険者の書』をお渡しします。本来なら魔法石に詰め込まれた情報を、自身の魔力で引き出すんですが・・・。あ、気落ちしないでくださいね。ハ~ゲルンは治療薬さえあれば完治しますので・・・。そうすれば、ヒデトさんにも魔力が戻りますよ。『冒険者の書』よく読んでおいてくださいね。様々な規則がありますので。」


 またもや、母性イッパイの素敵な微笑みを浮かべるビューロゥ。その笑顔を見ながら『冒険者の書』を受け取り、個室面談室を出てゆくのであった。

 


 「やっぱり、最初の依頼って『お使い』だよねぇ・・・。」

『冒険者の街道』をビヘナ開拓村に向かって歩くヒデト。表情は深く被ったフードで見えない。その背には大型バックパックは無く、冒険者ギルドを通じて依頼された、ビヘナ村への医薬品や魔法石などが荷運び用の背嚢にうず高く積まれていた。


 「しかし・・・護衛の冒険者のパーティー・・あんなに隊を離れて大丈夫なのか?俺と隣はともかく、後方の三人は普通の人夫だぞ。いざ、賊に襲われたらどうするんだ?」


 「ふ~む、結構用心深いのだな。だが『冒険者の街道』は結構安全だぞ。定期的にチャストリトン王国の治安部隊が巡検するし、街道の往来を護るために『冒険者ギルド』に雇われた冒険者の巡検隊もいる。その心配は杞憂に終わると思うがな・・?」


 ヒデトの隣を歩いていた大柄な男が、独り言にしては大きかった呟きを聞いていた様だ。ヒデトの心配事を打ち消すように、考えを披露してくれた。


 「確かにカドイ殿の仰る通りかもしれませんが・・・・。」

 そう返事をしながら、大柄な男『カドイ』に顔を向ける。身長は3m程はあろうか、赤銅色の肉体が丁寧に作り込まれた上等な皮鎧に覆われている。両腕には、逞しい筋肉を抑え込む様に手甲が填められ。巨体を支える脚部も、鍛え上げられた筋肉を頑丈そうなブーツの中に押し込み、ブーツの上に脚甲が備わっている。

 背に負った荷物の量は、ヒデトの軽く二倍はあった。さらに、その荷物の下、腰の左右に巨大な斧が二本対を成す様に吊ってあった。

 そして、その巨体もさることながら、顔の中心で優し気に光る単眼がサイクロプスである事を教えていた。


 「殿はやめてくれ・・、そんなガラじゃない・・。お互いに冒険者だろう?堅い呼び方は無しにしよう。それにしても俺の半分とは云え、そこまで荷物を運べる人種は初めてだぞ?どんな鍛え方をすれば、その体でその量を運べるのだ?」

 大きな単眼を細めながら尋ねる。


 「まぁ、普通ではないのは間違いが無いですね。今、思い出すだけでも汗が出てきそうですよ・・。」


 「ふむ?ビヘナ村に着いたら詳しく聞きたいものだ・・。だが・・まぁ、護衛の連中が離れすぎているのも気になるな・・。連中、気を抜き過ぎな気がしないでもない・・・。」


 「カドイはビヘナ村には何度か訪れたことがあるのですか・・・?」

 先ほどのカドイの物言いに、何度か任務を受けた経験者の匂いを感じ取って、質問をする。


 「ああ、今回で4度目だ。ビヘナ村は二年前に出来た新しい村でな。チャストリトン王国とギュイドラン魔道皇国を繋ぐ陸上の交易路を整備するために、両国が人員と資金、資材を投入して作った村だ。名前は開拓村だが、その実態は砦に近い。少数だが、常駐する両国の兵もいる。いずれは中間交易都市に発展してゆくのだろう、河川交易は天候に左右されるからな。安全な陸路が欲しいんだ。」

 

 「随分と詳しいんだな・・?」

 自分が持っている知識と照らし合わせながらカドイの話を聞く。キュリアーヌ姫一行と一度立ち寄っているから、ビヘナ村の情報に関してはカドイと、そう変わらなかった。


 「そうだ、その言い方だ。ヒデト!それでいい・・。ああ、話がそれたな。何度も依頼を受けているからな・・。お前も聞いただろう?それに常連になると親しい間柄の奴も出来る。正直に言えば、そいつからの受け売りさ?俺は稼げればいい。」

 笑いながら、背負った荷物に立てた親指を向ける。


 確かに、今回の依頼は荷物の総重量に比例して高くなっていた。10グキロは重さの単位で、10キロ程度。そして、10グキロで10シンギが支払われる。(1シンギは直径5cmの銀貨で100シンギで1ゴルキ。1ゴルキは直径3cmの金貨。さらに、100ゴルキで1ミスリ。1ミスリは一片が2cmの正方形のミスリル貨。1シンギの下、ドウラは100枚で1シンギ。直径2cmの銅貨。)

 1シンギで、人種の成人男性の一日の食費を賄える。カドイの荷物の総量は250グキロ・・2ゴルキ50シンギ。旅の後半は『冒険者の街道』を外れてビヘナ村までが山道だったが、それを考えても悪くない稼ぎだった。

 


 荷運びの旅も順調に進み、残すは『冒険者の街道』を逸れてビヘナ開拓村まで20キノの山道だけになった。陽が落ちてきたため、野営に入る輸送隊。ヒデトとカドイの体力は余力を残していたが(ヒデトの場合は倍力機構を30%稼働させていた)他の三人の体力が持たない。

 いくら護衛隊の連中が魔法で夜道を照らし出しながら進めるといっても、闇夜に明かりなど、いいマトでしかない。


 本来なら駐屯地をこの場所に作り、荷馬車で大規模な輸送を行い。荷役人夫のピストン輸送でビヘナ村に道路資材や機械を送り、双方から街道を整備する計画だったのだが。

 龍鳳山脈を挟んでロウゴ大陸の東方地域が、チャインズ人民共和国の起こした戦乱の影響で不安定なために、東方地域と国境を接しているギュイドラン魔道皇国と同盟関係にあるチャストリトン王国も、街道にかける予算を軍備に取られていた。


 戦争や紛争が起これば職や家を失うものが出てくる。仕事を失えば生きていけない。よって、自分より弱い者達を食い物にする奴が出てくる。そして、一度味をしめた奴らは抜け出しにくくなる。更に被害が拡大する・・・まったく始末に負えない。


 まぁ、そうであるから危険を進んで引き受ける『冒険者』が重宝されるのだが・・・。

 

 野営の中心の焚火に背を向けながら、明かりに照らし出されない程度の距離をおいて、戦争が与える影響について考えていた。隣ではデカいガタイに似合わない、可愛い寝息を立ててカドイが熟睡している。荷役人夫の三人は護衛の存在に安心しきっているのか、焚火の周りで健常な成人男性が好む、少し猥雑なネタで談笑していた。


 護衛の連中は四人。軽装・片手剣・盾持ち、男・人種。軽装・ポールアクス、男・オーク種。神官服・小型盾・フレイル、女・エルフ。軽装・短刀二本・弓、女・ダークエルフ。

 出発の前に自己紹介をしようとしたのだが、『情が湧くと支障をきたすから、なれ合いはしない』と言われ、名前すら知らない。

 それぞれ、持っている装備で仮の名前を振っておいた。


 今は、片手剣とポールアクスが焚火の前で夕食を取っていて。フレイルと弓が歩哨に立っていた。随分と緊張感の無い布陣だった。依頼を受けた時の説明では、山道に入って中ほどで山賊らしき連中に前回の輸送隊が襲われていた。

 3人を残して護衛を含めて9人が殺害され、生存者の報告で事件の状況が判明していた。もう少し気合を入れて警戒しなければならない道程に入っているのだが・・・。


 ヒデトの視線の先では、片手剣とポールアクスが酒を飲み始めていた。依頼内容は護衛だが、ギルドランクからすれば9級でそう難しい物では無かった。それにしても緊張感の無さは異常だった。


 それに・・前回の襲撃で生き残った三人とゆうのが、焚火の周りで談笑している連中・・・どうにも気に食わない。


 隣のデカイ奴が寝返りを打ち、筋肉に包まれた脚が、深くフードをかぶったヒデトの顔に炸裂する・・。しかし、ヘルメットを装着していため痛くも痒くもない。

 逆にカドイが痛みに呻いて目を覚ます。自分の脚の痛みについて何か言いたげであったが、眠気が勝ったのか目を閉じようとする。


 カドイのフザケタ態度に文句を言おうとした時、背筋に嫌な感じを受ける。それと同時に受動対物センサーとE波検知装置に反応が出る。今までの小動物ではない、数は15名、探知距離は1514m。こちらの焚火を中心とした半包囲・・、動きに迷いが無い。夜間・軽装・弓装備・と考えて平均的交戦距離まで残り1300m、時速8kmで10分といった所か・・?更に200m後方に大型の四足獣の反応・・。略奪した物資の運搬に使うのかもしれん。


 「すまんな。ちょっとコイツと用をたしてくる・・・・。時間が掛かるかもしれん・・」

 おもむろに立ち上がり焚火の連中に声を掛ける。その際にデカいヤツを足で小突き、小便に誘う。小突かれたカドイは不機嫌そうな顔でこちらを見上げるが、フードの奥の鈍く光る緑の単眼を見て頷く。


 「ああ、デカイ方だから臭いが漂ってこない様に離れる!荷物を頼む。」

 こちらの考えを読んだかの様に声を上げ、巨体を揺すりながらヒデトと一緒に歩き出す。その背後に『臭そうだ!』『違いない!』『ちゃんと離れろよ!』といった焚火の連中の声がかぶさっていた。




 「いつ気づいた・・・・?」

 焚火から200m程離れた所でカドイが聞いてきた。


 「お前が俺の顔をけった時だ。」


 「あの時か・・。しかし、俺の方が痛かったぞ・・?罠かな・・?」

 痛みが蘇ってきたらしい、しかめ面で応じる。


 「多分な・・・。前回襲撃を受けて生き残った奴が、今回もいる事自体おかしい・・筋肉の付き方、歩き方が素人じゃない・・それに・・襲撃に怯えていなかった・・。見えるか・・?隊を二つに分けたな・・・。」


 「ああ、一応魔族の端くれさ・・。お・・?エルフが眠らされた・・。こっちは・・?舐められたものだな・・。5名しか来ないぞ・・?弓持ちが二人・・人種だ。前衛三人は・・オーク?珍しいな混成の山賊なんて・・何人減らせる?」

 ヒデトが奇妙な形の弓を構える姿を見ながら、腰にあった二対のバトルアクスを軽々と抜き放ち、淡い朱色を単眼に浮かべながら呟くカドイ。

 

 「よく見えるな・・?魔法か・・?悪いが今回は出番が無いぞ。最後尾の弓持ちから殺る・・。」

 望遠カメラ、熱線映像装置で標的を確認。素早いドローイングから、微かな音しか出さずに放たれる矢。今回は超電導モーターのアシストを受けていない。超弾性ストリングと超弾性可変素材によって、驚異的な速度で最後尾の山賊の頭部を貫通し、後方30m程にある林の木に突き刺さる。


 呼吸を4回する合間に微かな音が4回聞こえ、溜め息を吐きながら構えを解き、装備をしまうカドイ。

 「ふん・・。見事な腕前だな・・?何が起こったか気づかずに逝ったな・・。おっと、片手剣とポールアクスは荷役人夫に偽装した三人組に殺られたぞ?手際が良い・・。」


 「風上で歩哨に立っているダークエルフも・・眠らされた様だ、ありゃ吹き矢だな・・。夜はダークエルフの天下なのに・・あそこまで接近出来るなんて・・。奴等、山賊なんかじゃないぞ?」

 先ほどの場所から注意深く移動しながら、敵の陣容に対しての考えを述べるカドイ。


 「ああ、確認した。倒した奴等の装備も確認したいな・・。山賊にしちゃ統率がいい。女を殺さないのは・・まぁ、規律を保つ上で必要。そんなところか・・?」

 今度カドイに種族ごとの特性を聞かなければと思いつつ、次の行動を考える。此方に送り込んだ5人が、10秒も掛からずに倒された事にまだ気づいていない。指揮官らしき男が荷物の目録を偽装人夫から受け取り、それを見ながら検分していた。


 「お・・?荷馬車も来たぞ・・。焚火を消した・・?分派した班が全滅した事に気づいたな・・?カドイ、その目は魔法を掛けているのか?」

 焚火の周りで、襲撃の成功に気を良くしていた連中の顔から笑みが消えた。合流した荷馬車部隊のローブを着た男と何やら話しているのが見える。


 「いや、コイツは種族の特性だ・・。だから『魔力』を放出しない。問題ないよ?どうする?」

 ヒデトが注目した荷馬車隊の中に、ローブを纏った明らかに魔法使いの様な外見の人物を見て、そう答えるカドイ。


 「意見は?なんかあるか・・・?」


 「頭の良い奴なら、防護の魔法を掛けたうえでさっさとトンズラするだろうな?たった10セコの合間に5人倒されたんだ。だが、こっちの正体はばれている、所詮二人しかいない。そうだな・・?順当に逃げの一手かな?ビヘナに行き状況を話し、救援隊を送ってもらう。そんなところか・・?お・・?荷物積んで逃げ出したな・・?」

 荷馬車隊と合流し、慌てることなく整然と荷物を積み、襲撃してきた方向と反対の方面に動き出す。車輪で踏まれた草花を、魔法で回復させ轍を消している。


 「だが、ここまでの手際の良さを見ると、ビヘナにも間諜が入っている可能性が高い・・。逃げられるぞ?」

 カドイの意見を聞いてから、自分の考えを話す。

 

 「二人で追いかけて行って全員やっつけよう!!・・・って、ガキの考えかよ・・?潜伏先に何人いるか分からないんだぞ?」


 「あの規模の荷馬車と人員を行動させているところを考えると・・拠点には10名程度の留守しかいないだろう。それに拠点を掴んでおけば救援隊を案内するにしても便利だろ?逃げの一手の前に布石を打っておくもんだ。」

 襲撃してきた人数と荷馬車隊の規模から、予想されるであろう留守の人員を述べる。

 

 「逃げを一番にしている割には・・殺る気が満々の喋りなんだが・・・?魔力検知を使われると・・・あっ・・・!?お前、『ウッースーイ』だったな?!」


 「そうゆう事だ、追跡は俺がやる。カドイはビヘナに向かって救援隊を呼んできてくれ、場所を掴んだら戻る。無理はしない・・。死にたくないからな・・?」


 そう告げて、襲撃者達の追跡に向かうヒデト。その背を見送りながら、死にたくないと考えている癖に生き生きとした雰囲気が漂ってくるのは何故なんだろう?と、思うカドイであった・・。


 


 






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