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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
第二章 オッサンの異世界
14/25

接触

お待たせいたしました。今回は『字数』が少なめです・・。一話当たり一万字で纏めようと思っているのですが、上手く行きませんでした。


 ブクマ登録の四人の皆様。私のモチベ維持に協力ありがとうございます。こんな駄文にお付き合いくださり感謝感激でございます。


 『接触』どうぞよろしくお願い致します。では、また。

 『ハゲ』とは、加齢、疾病および投薬の副作用、火傷、遺伝的な要因などにより髪の毛が薄い、若しくは全くない頭部などを指す。また禿げた場合は頭皮に艶が出やすい。毛髪の生存率により、様々な状態があり。その有様を描写する言葉も多岐にわたる。



 『異世界』で出会った高貴な人々から、いきなり『ハゲ』(実際には『ハ~ゲルン』だが・・)と呼ばれ、少なからず動揺を隠せないヒデト。


 ええ、以前からご指摘のとうり、私の髪の毛は『薄い』んですよ・・。だが・・!まだ・・!まだ・・!終わらんよ!!そりゃ、『フサフサ』の人から見たら私の髪の毛の残存状況は、一個師団の全力射撃後の原野に近いかもしれないが・・・。

 それも、頭髪と額の最前線部分だけだし・・。まぁ・・このごろ最前線をすっ飛ばして、後頭部と天頂部の間に『薄い』空挺降下が行われて、徐々に包囲されつつあるけれど・・・。くそ・・!生体強化のお蔭で発毛薬『フエルンデスX』が飲めなかったのが痛い・・!

 従軍軍医の一言『死ぬよりは、禿げる方が良いんじゃね!?』で、従軍中の空間降下兵は発毛薬を服用できない事が致命的(主に頭髪にたいして・・。)だった・・・。

 嗚呼、この任務が終われば、一年間の待機命令で戦闘任務に就くことが無いから『発毛』する予定だったのに・・・。畜生・・いきなり『ハゲ・・・・!?』は無いんじゃないか・・・?

 もう・・オッサンのライフポイントはゼロよ・・・!休暇中に前向きなハゲ達による、友好親善団体『全宇宙真光会』の講義を受けて悩みが少なくなってきたのに・・・・。

 くぅ・・・・!『異世界』・・手加減が無いな・・・・・・。



 「おい・・。ヒデト・・・ヒデト・・!!」

 自らの発言が、見た事も無い不思議な鎧を纏ったオッサンに、強烈なダメージを与えたとは露程も考えないキュリアーヌ姫がヒデト呼びかける。


 「は・・・・?!申し訳ありません殿下・・・。少し衝撃を受けておりました・・・。」

 キュリアーヌ姫の呼びかけで『こっちの世界』に戻って来るヒデト。だが、まだ衝撃を緩衝しきれていない様子が伺える・・。


 「よい。それよりも、其方の身なりから判ずるに『武』を修めているようだが・・?我らを野盗から助けてくれぬか・・?なに、礼はそれなりに致す。」

 ヒデトのバックパックに装備されている、大振りな近接格闘特化兵装『武士』を見ながら助力を頼む。


 「ああ・・。殿下の後方に居た野盗らしき者達は、殿下の従者の方々が打ち払っているようですが・・?あ・・。私、目だけは良いんです。」

 自分で撃った『ガスグレネードの事なんて何も知りませんよ?!』・・とゆう態度で応じるヒデト。


 「もうすぐ従者の方々も見える筈です・・・。」


 「なに・・?!ジャヌア達は無事か・・?!それは何より・・・。どうだ、野盗共の様子は・・?」


 ジャヌア達の様子を聞いて安堵するキュリアーヌ。直ぐに追跡者達の状態を聞いてくるところが、年齢以上の沈着さを持っている事を教えていた。


 「ここから判断するに、かなり混乱した状況ですね。私が殿下方を確認した時に、黄色いガスが彼らを包んでおりました。察するに、従者の方々が『何か』をなさったのでしょうね。あー、ありゃダメですねー。鼻水や涙を流しながら苦しんでます・・。当分、動けないでしょう・・。」


 そりゃ、動けないよな。ガスグレネードの効果は凄まじい。現状から判断するに後一時間半はあの状態だろう・・。しかし、効き過ぎかな・・?

 うん。今度、イロイロ試して見よう・・。『コチラ』の薬物がどの程度の効果が出るか知りたいしな。効果の程度が分かれば『適切な対応』もし易くなる。

 何よりも『情報』が欲しい。それが無ければ強力な『武装』を効果的に運用できん。それに、独りで生き抜いていくには『情報』が重要だ・・。


 そこまで考えた所で、こちらを視認したのか集団ブラボーが駆け寄ってくる。先程受けたダメージが回復しきっていないのか、ブラボー1とブラボー3は受傷部位を庇いながらの動きだ。


 「姫様・・!キュリアーヌ姫様・・!!ご無事ですか!!」


 肩に矢傷を受けたブラボー3が、キュリアーヌ姫に駆け寄る。驚いたことに、ヒデトが観測した時から急速に傷が回復していた。

 若干、傷を庇いながらキュリアーヌ姫達を背後に匿い、此方に警戒の目線を送って来る。ブラボー1と2も警戒しながら、いつでも切りかかれる態勢だった。

流石に抜剣はしていない。不思議な鎧、見た事も無い武装を、リュックの様なものに括り付けているのを見て判断した様だ。

 それに、キュリアーヌ達が警戒していない事も、その判断を後押ししていた。

 

 「うん。大事無い・・。それよりもジャヌア達はどうだ・・?見た所ジャヌアは矢傷、レドスも脇の傷がいえていない様だな・・。ハイドだけが無事か・・。」

 

 「姫様、この者は・・?」

 警戒を解かずにヒデトの方を見るジャヌア。そして、その目線が頭部にいった所で一瞬止まる・・。

 「あれは・・・?!『ハ~ゲルン』・・」

 そして、小声で呻くように囁く。


 「そうだ、見てのとうりだ。『魔力』を失ってゆく奇病に罹患しておるらしい。だが、遠方から妾達の様子を見て助力を願い出てくれた・・。だが、ジャヌア達の奮闘により出番は無かったがな。」

 ジャヌアの呟きに反応して、今の状況を説明する。


 その説明を聞いて、集団ブラボーの面々(レドス・ハイド・ジャヌア)が悲哀のこもった憐みの眼差しを見せる。


 しかし、ベルミナからは『ウッースーイ』と呼ばれ。『異世界』に来てみれば『ハ~ゲルン』って・・この世界に『慈悲』は無いのか・・・?これから出会う人全てに『ハゲ』と呼ばれ続けるのか・・それ、なんて『無理ゲー』ですか・・?

 まぁ、この世界では『魔力』が重要なのは分かっていたが・・ここまでとは・・。沈黙していても『情報』は得られないので、警戒されない様に両手を上げて、これまでの経緯を説明する。


 


 「そうか・・・。魔物に襲われて頭を強打し、記憶がアヤフヤなのか・・・。」

 先程の出会った場所から10km程離れた場所で、日が暮れそうなため、ヒデトがバックパックから取り出した、簡易テントで休息を取っている合間にお互いの事を話し合っていた。


 「ええ、そうです、ジャヌア殿。何ともお恥ずかしい限りで・・。なにぶん『魔力』が反応しない物で、魔物の方も驚いていたようです。知らず知らずの内に魔物の領域に入っていたようです。あ、お茶のお替りありますよ。」


 「うん。すまない、頂こう・・。しかし、この『お茶』渋みがあまり強くないな・・。咽喉越しもよく、仄かな甘みすら感じるぞ・・。」

 ジャヌア・ヒデト・ミヘーナ・キュリアーヌ姫の順で車座になって、ヒデトの出した戦闘糧食と、現地の水で煮出した、バックパックに入っていた『お茶』を楽しんでいた。

 傷の癒えたレドスは、ハイドと共に歩哨に立っていた。


 「そうですわね・・。ワタクシも色々な『お茶』を嗜んでおりますが、ここまでのモノは味わった事がありません・・。どちらで生産されているのでしょうか・・?」

 テントの中心の天頂部分で、小さな明かりの魔法を灯したミヘーナ侍従長が、疲れて眠っているキュリアーヌ姫にその膝を貸しながら、ヒデトに尋ねる。


 「申し訳ありません、ミヘーナ侍従長・・。先程、ジャヌア殿に説明した様に、その辺りの記憶が曖昧で・・。使い方は覚えているのですが・・その先が思い出せんのです・・。胡散臭いのは、自分でも承知しているのですが・・・・。あ、お気に召したようなんで『チョコクッキー』。もう一つどうです・・?」

 自分の隠蔽身分があまり疑問に思われない事を良いことに、思い付いた事柄を説明する。説明しながら胡散臭いよねぇ、と、自身でも思ってしまう。

 まぁ、敵意も無いし、魔法も使えない、武器と思われるモノはジャヌアの背後・・。それに戦闘糧食も気に入ってくれた様だ。初めは見た目の異様さに引き気味だったが・・まさか、戦闘糧食のパックに『お茶』と『お菓子』が付属しているとは・・・。ミヨナ達生体ユニットの働きかけかな?


 「え・・・でも・・・。」


 「姫様やレドス殿、ハイド殿の分は取っておいてありますよ・・。ジャヌア殿・・そう睨まないで・・私の分をお分け致しますから・・。お二人とも遠慮なさらずに・・。」

 魔法の明かりで微かに照らし出されている顔を、仄かに朱に染めながら遠慮をするミヘーナ侍従長に『チョコクッキー』を勧める。三十代の色香が漂う姿に心躍らせるヒデト。その姿と、お替りを恨めしそうに睨むジャヌアにも、(殺意の波動を感じた為)自分の分を渡す。


 「それよりも、これから如何なさるんですか?領内視察中に賊に襲われるとは・・。」


 「ああ・・・、明日、夜が明け次第ここを降り、王国領内のビヘナ開拓村を経由して商業都市オプラスに向かう。其処から連絡を取り、王国首都『チャリッヘン』に帰還しようと思う。」

 ヒデトから気迫によって奪った『チョコクッキー』を鮮明に記憶しようと、カリカリと小動物の様な可愛らしさで食べながら、明日の予定について話すジャヌア。


 「では、私も商業都市オプラスまで、御一緒しても構わないでしょうか?先程伺った話では『冒険者ギルド』なるものがあり、誰でも登録すれば生活に困らないとのお話だったので・・・。お恥ずかしい話ですが、魔物との戦いで路銀を落としてしまいまして・・・。それに、姫様達と一緒なら身元を保証して戴けるようですし・・。」


 「なに・・、構わん。ヒデトには野営の恩もあるしな・・その程度の事など大した事でもない・・。それに路銀ならば、妾から恩返しとして与えるが・・?『チャストリトン王国は恩義を知らぬ』と言われてはたまらんからな・・!」

 いつの間に起きたのか、眠い目を擦りながら、ミヘーナ侍従長の膝枕に頭を預けたままキュリアーヌ姫が話に割り込んでくる。


 「殿下・・・。起きていらっしゃたのですか・・?」


 「いや・・浅い眠りだったからな・・。それに、ジャヌアの魔力がこもった気迫の凄まじさに反応してしまうさ・・あと、『チョコクッキー』が無くなってしまうと思うと寝てもいられん。」


 「まだ、皆さんの分は残っていますよ・・。恩義に関しては、お気持ちだけで十分です・・。あまり甘えてしまうと楽を覚えてしまいますから・・・。」


 ミヘーナの呼びかけに、軽く頷きつつ状態を起こし。ヒデトがバックパックから十分な数の『チョコクッキー』を出すのを嬉しそうに眺めるキュリアーヌ姫。

 

 「では私はハイド殿とレドス殿、お二人と歩哨を代わってきます・・。ミヘーナ殿、先程お教えした様に『お茶』を入れてください・・。おっと、侍従長殿に言うセリフでは無いですね。では、宜しくお願い致します。」

 そう言葉を掛けて返事も待たずに、大きな反りのある『剣』を持ちテントから出てゆくヒデト。


 ヒデトの気配が十分に離れた後、機会を伺っていたかの様に声量を絞りながら話し始める三人の女性。


 「ヒデトについての二人の意見を聞きたい。」

 魔法の明かりが揺らめき、キュリアーヌの顔を照らし出す。先程まで浅い眠りに就いていたとは思えない、はっきりとした質問を投げかける。


 「敵として考えるには、無理があります。ヒャリフの手先であるならば、姫様達に遭遇した時点で行動を起こすはずです。それに、単身であの場に居たのが・・・魔法も反応なし・・。『ハ~ゲルン』の病状も進行しているようですし・・。」

 キュリアーヌからの質問に、自身の考えを述べるジャヌア。


 「確かに、あの距離まで全くワタクシの探知魔法に反応しませんでした。今でも魔力は感じられません。『魔法』が使えぬのであれば、脅威としては低くなります。」

 『チョコクッキー』の味を、記憶の奥底に封印するかのように味わいながら、ジャヌアの意見を補足するミヘーナ。

 

 「そうだな・・・。魔法が使えぬと観て間違いなかろう・・。妾を害するつもりなら、最初の接触時点で行動するだろうしな・・。しかし・・あの不可思議な鎧・・。それに、『チョコクッキー』は興味が尽きぬな・・。」


 「「ええ、全くです・・!!『チョコクッキー』!!」」

 キュリアーヌ姫の感想に、全力で同意する二人・・・。ヒデトの事を全く脅威に感じていないのが分かる。


 「まぁ・・いい・・。それよりも、明日はビヘナを経由してオプラスに向かうのだ。体力を温存する為にも眠りに就くとしよう・・・。」


 「では、私は監視も含めて歩哨に就きます。」


 「うん・・・。何もないと思うが注意を怠るなよ・・・。あと、『チョコクッキー』は残しておくから・・そんな目で睨むな・・。大丈夫だ・・食べたりせんよ!!早く行け・・!全く・・・」

 歩哨に立つジャヌアに、強烈な疑いの目線を送られてしまう。やれやれ・・・こんな状態でヒデトを疑うなど・・・奴には世話になった・・・身元の保証は勿論の事、幾ばくかの褒美を渡さなければな・・・そこまで考えながら、ミヘーナの膝に頭を預けるキュリアーヌだった・・。



 大気の汚れなど感じさせない満天の星空の元、ハイドとレドスに代わり歩哨に立つ。こうやって心を平静に保ちながら星空を眺めるのはいつ以来だったか・・・。

 エルフィリア皇国やゴルドス共和国との戦いでは、星の代わりに夜空に輝いていたのは両軍の航宙艦艇だったし。塹壕から見上げる空は、何時だって爆風や硝煙で色付けされた鈍い灰色に彩られていた。


 「しかし・・・『異世界』か・・。生還の可能性は、あるには在るのだろうが・・。」

 思わず口に出してしまう。不安とか恐れ、焦燥感は全く無いのが不思議だった。最初に実戦に臨んだ第二次虎頭要塞防衛戦での敵戦艦への強襲突入では、全身に起こった『震え』をどう止めようか悩んだものだが・・。

 あの時の『震え』は、突入した敵戦艦で最初に遭遇したエルフィリア皇国の若い士官を、咄嗟に近接武器のチタノタイトブレードで斬殺した時に止まったんだったな・・・・・。


 今でも鮮明に思い起こすことが出来る・・。敵艦の外壁を高出力レーザーで焼き切り、内部に侵入。本来なら最初に突入する班が、突入時の迎撃で負傷。代わりに俺が一番槍に指名された・・。躰に起こる『震え』はますます酷くなり、装甲服の生体チェック機構の警報が鳴り響く・・。

 それらを意志の力で捻じ伏せ、装備の状態確認もせずに突入・・。視界に飛び込んできた美しい敵に、訓練時代に叩き込まれた技術が肉体を反応させ。俺の脳波を受け取った火器管制装置が左手のチタノタイトブレードを選択、美しい肢体の腹部目がけて左手が突き出されていた・・・・。

 装甲服の左手から生えた禍々しい凶器が、エルフィリアの美しい士官を刺し貫き。見た事も無い程の『血』が美しい肢体から流れ落ちていた・・・。


 自分の腹部を貫通する凶器を信じられないといった表情で確認した後、禍々しい悪魔を見るような視線を俺に送り、口から『血』を吐きながら死んで逝くエルフィリア人・・チタノタイトブレードで刺し貫かれた死体は、装甲服の左腕に体を預ける様に斃れていた。普通なら装甲服の倍力機構が重さを感じさせないのだが、『血』によって染め上げられた装甲服は、美しいエルフィリア人の死体に魅入られたように数瞬動けなかった・・。


 俺が初めて殺した『ヒト』・・・・。様々な戦場で数え切れない程の惨状を引き起こす事になる肉体は、この『殺人』以降『震え』を全く起こす事が無くなっていた・・・・。


 『『神』と呼ばれている存在が作り出したとされる『ヒト』・・・。本来なら全ての者を『愛し』、また、全ての者に愛される存在として生み出された・・・。』』


 よく、宗教の講義で使われるであろう言葉・・・。そんな上等な存在なら、『欲望』の為に同胞や他の動植物を殲滅したりなどしない・・・。それに、宗教が違っていれば『殲滅』しても問題が無い・・。とゆう教義も腑に落ちない・・。

 この殺人以降、今までですら懐疑的だった宗教に関しての考えが無関心になっていった・・・・。


 蘇ってくる記憶を押さえつけながら、美しい『異世界』の空を見上げる・・。そこに、航宙艦艇の光は無く・・。何万年も駆けて届いた星々の煌めきだけがあった・・・・。

 



 「うん・・・!人の背に載りながら眺める景色とは・・・素晴らしい物だな・・・!!」

 日が昇って間もない時間帯を、開拓村ビヘナを出て商業都市オプラスに向かう街道上で、ヒデトのバックパックに載ったキュリアーヌ姫が歓声を上げていた。


 「殿下・・・・?一応・・私も『雄』ですので・・・。あまりにも『品』無い行動は・・その・・慎んだ方が良いと思われますが・・・?」


 「何を言うヒデト・・!!こんな機会は今後在り得ない!景色も素晴らしいが、お前の様な偉丈夫を妾の足下に組み敷くなど・・こう・・・何か興奮するものがあるな・・!?何故だと思うミヘーナ?」


 「姫様・・・気分が高揚するのは分かりますが・・・。侍従の立場としては諌め無ければなりませんので・・。でも・・久しぶりの『外』でございますので・・姫様・・、ワタクシも代わって宜しいでしょうか・・?」

 侍従長の立場を強調しながらも、自分の願望を叶えるべく注文を付けるミヘーナ侍従長。しかし、いくら『外』とはいえ貴人である王族や、ソレに仕える侍従の態度とは思えない。


 「ミヘーナ侍従長まで・・・・。私は馬では無いんですが・・・?」


 「そうか・・・。あと1キノいった所でな・・・。それ!ヒデト気張っていけ・・!」

 『馬』の事など気にしていない・・と、ばかりに更に声を上げるキュリアーヌ姫。一応開拓村ビヘナで、逃げるために切り落とした衣装を村人の服に変えていたが、ヒデトの両肩に載る瑞々しく美しい脚は隠せていなかった。


 「姫様・・!ミヘーナ侍従長・・!ちょっと狡くないですか・・?!私も順番に入れて下さい・・!肩に受けた矢傷も完全には癒えていないんですけども・・?!」

 二人の遣り取りに割り込んでくるジャヌア。ビヘナ村と商業都市オプラスとの中間地点で我慢の限界に達した様だ・・・。


 「わかった・・・・。ジャヌアはミヘーナの後でな・・?3キノずつで手を打たぬか・・?オプラスまで二交代出来るぞ・・?それで良いな・・ジャヌア。」


 「仕方がありません・・・!姫様の仰せのとうりに・・・」


 「あの・・・?お三方・・・?私の意見は聞かれないんですね・・・・?ああ・・・、ええ・・・、わかりました・・。そんな哀しそうな目で見つめないでください・・。レドス殿。『チャストリトン王国』では

自由奔放な女性が多いのでしょうか・・?」

 ヒデトの言葉に、傷つけられた子犬の様な目線を送って来る三人・・。これじゃ埒が明かないと感じたヒデトは、5m先を行くレドスに非難がましい質問をする。


 「いえ・・・・・・。そのような事は無く・・・。慎み深い立ち振る舞いが好まれるのだが・・・。ここまで気ままに『躰』を赦すヒデト殿にも非があるやもしれんなぁ?」

 笑いを噛み殺しながらヒデトの質問に答える。ヒデトの2m後方でレドスの答えを聞いたハイドも、起こった笑いを鍛えた顔面筋肉で押さえつけようとしていた。(もっとも、誰が見ても笑いが決壊寸前だったが) 



 そんな事を繰り返しながら、他愛の無い会話を挟みつつ商業都市オプラスに向かうヒデト達。陽が昇って間もない街道上は、オプラスに向かう雑多な人々で混雑していたが、誰一人キュリアーヌ姫に気づく事は無かった。

 確かに、キュリアーヌ姫、ミヘーナ侍従長にジャヌア嬢。三人とも深いフードで顔を隠している。それにしても近くをすれ違う人々の目線に入る筈なのだが、見えたとしても認識できない様だった。

 それら全ては、ミヘーナ侍従長が掛けた『認識阻害』の魔法によるものらしい。このロゴウ大陸では貴人が魔法を掛けて、お忍びで旅をするのは珍しい事では無いらしい。

 まぁ、確かに同行する者達にも『認識阻害』を掛けておけば、『暗殺』『襲撃』『誘拐』等から貴人を護ることが出来る。

 『身分』を隠すことで色々な事も可能になる。それこそ、自分の治世の評価を知ることが出来る為。国を預かる立場の者にとっては必要不可欠なものだった。



 「やはり凄いなヒデトの力は・・・!ビヘナからここまで10キノ程あるが、息も切らさず歩みも弱る事が無い・・・。しかも、妾を載せて・・・!」


 「姫様、感想は後程お願い致します。ワタクシの番ですので。」


 「ミヘーナ侍従長!あと3キノだけですからね・・!」


 街道上を行き交う人々に、何事かと勘ぐられながら。膝を着いた待機姿勢で三人の遣り取りを見つめるヒデト。

 「俺・・・・、馬じゃないんですけども・・・・」


 オプラスに続く賑やかな街道上での旅人達の喧騒に包まれて、ヒデトの独り言は虚しく消えてゆくのであった・・・・・。









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