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オッサンが一人・・・!  作者: 顔面要塞
第二章 オッサンの異世界
13/25

探索

『異世界』一歩目・・・。ますます、禿に磨きがかかるオッサン・・・・。果たして彼の髪は・・神に見捨てられたのか・・!

 この先の髪の行方は・・・・!!次回『増毛!!』乞うご期待!!


嘘です・・。お待たせいたしました。テンプレ的な展開ですが、ゆっくり『異世界』を探索する予定です。『人外』も出てくると思いますが、どう対抗するか考え中です。


 ご意見お待ちしております・・・!!なんてな・・・。

では、また。

 冬の厳しさに耐えたモノだけが味わうことが出来る、麗らかな優しい陽光を浴びて、地中から萌え出でる様々な植物達が、僅かに降り積もっていた雪をそよぐ風で振り払いながら、命の絨毯を『龍鳳山脈』の麓から遠く『カウド大森林』まで伸ばしていた。

 その草原の中ほどを、大きな山脈が連なる『龍鳳山脈』を源流とする雪解け水が、幾筋もの小さな流れを創りだし、命の流れを『カウド大森林』に繋げていた。


 植物たちが春の息吹に歓喜していることを戒める様に、いまだ冬を含んだ『龍鳳山脈』からの吹きおろしの風が、緑の命の絨毯の上を吹き抜けていった。


 初春を感じさせる草原に、先ほどの吹きおろしとは全く違う『冷たさ』を感じさせる漆黒の球形が急速に広がっていた。そして、その暗黒の球形は、まるで日の光を厭うように、陽光を遮る雲の下に顕われていた。


 『龍鳳山脈』からの吹き下ろしが草原を三度流れ、『カウド大森林』に届く合間に雲は流れ。その暗黒は日の光の下に晒される筈が、何事も無かったかの様に暗黒は消え去っていた。


 だが、暗黒が収まった場所に。朱茶けた土埃を重そうな甲冑に纏わりつかせた男が佇んでいた。甲冑に纏わりついた朱茶けた土が、この男がこの場所に突然出現したことを証言していた。


 如何にも造りの頑丈そうな甲冑の兜の部分。面貌と眉指の間に、奇妙な作動音と共に鈍く光る緑の単眼が顕われていた。


 「全周探査・・パッシブモードのみ。アクティブステルス正常に作動中・・。アクティブ探査機器検知されず・・光学観測、聴音探知、熱探知、電波観測、E波観測・・・動体反応あり。熱量、音量・・おっと、ごく微弱なE波反応・・反応の度合いから察するに小動物の類か・・?光学望遠で・・キツネ・・?の割には大きいな。おっ、ウサギの様な動物を追っかけてる・・。攻撃の意思はなさそうだ・・。植物群には昆虫らしきモノが多数っと・・半径1000m以内に敵性目標検知無し・・」


 自らの全周を隈なく探査し、敵性目標が居ない事を確認しなが自らの状態を確認していた。ベルミナに『異空魔法』での転送時の状況を聞いていた為、肉体や精神、装備類に影響を与えるものでは無い事が分かっていたが。流石に、何処に跳ばされるか皆目分からなかったため。今いる場所に転移出来たことに感謝していた。

 索敵機器に検出された、小動物と思われる反応にE波が含まれていることから推察するに。『この世』はベルミナが居た『異世界』に近い構成になっていると考えていた。しかし、断定するには情報が少なすぎる。


 「流石に、深海や活火山なんぞに転移していたら『この世』とおさらばだったし・・・。」


 自分で呟いた言葉に違和感と、若干の可笑しみを覚えつつ全周のチェックを続ける。しかし、『この世』か・・・何処の『この世』やら・・・。うん・・。まぁ、まだ生きている訳だし、この幸運に感謝しなければな・・・。

 

 さて・・・。全周チェックも終了した、大気成分は呼吸が可能だ。大気組成は地球型・・おっ!1500年代の地球の組成とほぼ同じか・・・。現状で有害成分は無し・・・。よし・・。直接吸ってみるか。

 表面からは確認できない分子レベルで装甲と一体となったヘルメットが、首の部分から外れ一度上に上がり、後方の背部ユニットに格納される。麗らかな陽光を浴びて、ちょっと・・・・いや・・、もうちょっと禿げ上がった額が煌めいていた・・・。(おおうぅ!今の煌めきで狙撃確定・・・・。本人には内緒だ!)


 スーツに包まれた体を若干後ろに反らしながら、新鮮な大気を吸い込み、肺に送り込む。うん・・。久方ぶりの新鮮な大気だ。このところオメガ04の朱茶けた土埃の混じった空気しか吸っていなかったから、なんとも旨く感じる。

 これで検出できない微生物や病原菌があったら、感染確定だな。だが、生体強化された免疫機構が対応しきれない物ではあるまい。

 あったとしても手遅れだしな・・。はは、何とも剛毅な性格になったのか?死んだとしても、機械仕掛けの甲冑の中に白骨が残るだけだ・・。『異世界』に遺すには十分な墓標だ・・。うん?墓があるだけましか?どうせ独りだ、誰も気に留めない。それより『この世界』に『ヒト』は居るのだろうか?気にしてもしょうがないか・・?

 どちらにしろ進むしかない・・。『何をすれば分からなければ、取りあえず突撃しろ!』・・。誰の言葉だったか・・?

 まぁいい・・。死を感じながら、己の生を弄ぶのはなんとも愉快だ。


 跳ばされる時に、『タウルス』と『ギガント』も一緒に巻き込まれるのを確認していた。そうすると、あの機材もこちらの世界に『跳んでいる』可能性が高い。

 ベルミナから聞いた『異空魔法』は、まだ未完成の状態だった。跳ばす目標が多数の場合、転移する時間が前後する可能性がある様だった。

 ま、本人も跳ばされただけで確認の仕様が無いらしいが・・。取りあえず、地形データをインプットしておきますか。それと、自分の情報を詰め込んだメモリービーコンを出現地点に埋め込んでっと・・。


 これで探索隊が来た場合や、『タウルス』と『ギガント』が転移してきても自分の存在に気づいてくれる。直線で200kmまでなら通信を受け取ることが出来る。


 「さて、どんな人生が待っているか・・・。取りあえず『ヒト』を探しながら進んでみますか・・・。」


 新鮮な大気に別れを惜しみつつ、ヘルメットを装着し装備を確認するヒデト。その両手にはしっかりと13m強化電磁レールライフルを携え、背部に装着されたバックパックと『100式大型狙撃銃』近接格闘特化兵装『武士』を揺らしながら、雪解けで出来た清らかな流れに沿って歩いてゆくのだった・・・。




 初春を感じさせる陽光を浴び、高原に流れる風と雪解け水の清らかな流れを感じながら歩いてゆくヒデト・・・・・。


 「なんてな・・・。まったく・・。スーツ越しじゃ、そんなもん感じられませんわ。三文小説の出だしかよ・・・。」

 

 流れに沿って歩いていたのだが、水の補給をしなければと考え。雪解け水の流れにバックパックから取り外した浄水フィルター付きパックを沈みこませる。取水部分に取り付けられた簡易検査機が、飲用に問題無い事をディスプレイに表示する。


 スーツ内での独り言だったため、自分の声も外に漏れだすことは無い。勿論、外部スピーカーを使えば問題は無いのだが。この現状ではそんな事は無意味だった。


 「う~ん、先ほどから三十分の移動で五キロか・・。スーツの倍力機構を95%カットしているから、残量エネルギーは予備パックを含めて・・凡そ二週間程度は持つな。だが、何が起こるか分からないし。ウルトラ超電動バッテリーに充電しておきたいな・・。しかし、こんな見晴らしのいい場所でソーラー充電器を展開したらいいマトだ・・・。何処か落ち着ける場所を確保しなければ・・。」


 スーツに蓄積されたバッテリーのエネルギーは、予備も含めて二週間程度しか持たないが。平均的な戦闘時間に換算してみれば、十分に余裕を持たせた容量になっていた。

 だいたい、スーツの充電やメンテナンスは。味方が展開を完了し、十分な安全を確保された時点で行われるのが普通だった。

 もっとも、ソーラー充電器を使えばバッテリーの使用限界期間までスーツを稼働させる事が可能なのだが・・・・。(いくらスーツの整備性が高いといっても、こまごまとした保守や点検は必要だった)

 いかんせん、ソーラー充電器は陽光を浴びなければ意味を為さないし。展開した場合は『撃ってくれ』と言わんばかりに目立ってしまう。

 そのため、作戦域内での使用は十分な警戒を必要としていた。


 なんとも呑気な考えに陥っているが、この『異世界』がベルミナが生存していた『世界』ならばしょうがない状態と言えた。

 ベルミナから聞いた話が判断の元になっていて、現獣生物(小は先ほどのウサギの様な物から、大はドラゴン・・の様なものまで。)の大多数が自分の領域を侵されなければ、基本的に襲ってはこない。

 さらに、『異世界』の戦闘距離は目視圏内での領域内に留まることが多いとの事も、この判断の補強材料になっていた。


 ともかく、現状では地理、気候、風土、病害虫、野生生物などに対する知識が不足していた。この状況を打破するには、現地住民と接触し情報を提供してもらう必要があった。


 「しかし、接触したとしても取引に使えるモノなんてあったかな・・?戦闘糧食を二週間分程度持っているが・・・。栄養が凝縮されたチューブパックだしな・・。」


 そう呟きながら、ディスプレイに戦闘糧食の情報を表示させる。現状の運動状態でのカロリー計算から導き出される結果に基づき、凡そ二十日分の量を示していた。(あくまで、現状運動状態での計算結果であるから、戦闘行動に発展した場合は二週間程度になっている)


 表示される情報と、戦闘糧食の小さなチューブパックを見ていたのだが。銀色の光沢を持った化学素材で作られた小さなパックが、どうにも取引に使えるような・・・初見で食いつく様な旨そうな物には見えなかった・・。


 「旨そうに見えないのは痛いな・・。だから上層部に進言を何回も送っていたんだが・・。他に使えそうなものは・・・・っと・・・」


 使えそうにない戦闘糧食のパックを見ながら、過去にあった占領地住民とのイザコザを思い出していた。まぁ、味や栄養に関しては文句の無い物なのだが・・・。見た目は重要だよなぁ・・・。

 他に使えそうなものを装備品や大型バックパックの中から探すのだが、これと言って目ぼしい物は無かった・・・。


 色々と考えながらも警戒状態のまま歩みを続ける。考えているうちに10分程度が経っていた、それに合わせて進んだ距離も8kmになりかけた時、索敵機器に反応が出現した。検知距離は3746m。遮るものの無い高原の環境が、この距離での検知を可能にしていた。


 自分の存在を隠蔽するために、光学迷彩を纏っている為。こちらの存在は感知されていないはずだ。受動探知で検知された反応は五つ・・・・。二つの集団に分かれていて、より自分に近い方が二つ、距離を開けて三つの反応が前の集団を追いかける様に、こちらに向かって来ている。

 受動熱探知・聴音索敵・E波観測、ともに小動物とは比較にならない反応を示していて。スーツに蓄積されているデータと照合した結果、人型であり、後ろの集団は八割の確率で武装している様だった。


 両集団とも、何かトラブルを抱えている様な反応だった。しかし、『異世界』に来て初めての接触になる訳だから、なるべく敵対は避けたい。

 ま、取りあえずは光学観測で判断しよう・・・・。最悪、無力化した上で尋問すればいい。それに、この辺りは獣が多い・・何かあっても『処理』には困りそうに無さそうだ・・。


 そこまで考えながら、スーツのメインカメラの倍率を挙げてゆく・・・・・・・・・・。


 スーツのメインカメラが、独特の作動音と共に倍率を挙げてゆき目標の集団を捉える。受動観測による推測に間違いはなさそうだ。


 「対象の集団。距離の近い方をアルファ、遠い方をブラボーとする。アルファ集団・・・人型、女性の容姿・凡そ30代と思われる対象をアルファ1。10代と思われる対象をアルファ2とする。

 後方集団ブラボー。人型、男性の容姿・30代・20代が一名ずつ。それぞれブラボー1・2とする。金属製の鎧らしき物を装備・・それぞれに両刃の剣を所持。その後方に人型、男性の容姿・・?うん?違うな・・。男装をした二十代女性か・・?ブラボー3とする。仕立ての良いマントを所持・・おそらく革製の鎧を装備。武装は・・腰に細身の剣らしき物・・。」


 メインカメラに映し出された情景を、音声ファイルに記録してゆく。状況的には二つの集団共に、更に後方を気にしていた。何かに追われている様だ。

 更に詳しく観測をしてみると、武装をしている三名の内ブラボー2が負傷をしている様だった。ブラボー集団から徐々に脱落してゆく。

 距離は更に詰まり、3437m。さて、どうするか・・・。何に追われているんだ・・?巻き込まれ式の出会いは勘弁してもらいたいもんだ・・・。


 メインカメラの倍率を更に上げ、ブラボーの更に後方を観測する・・・。集団から500m程後方に、上半身を金属鎧で堅め、右手には青竜刀の様な物を持ち。左手に薄い金属で出来た、上半身を隠せる程度の丸い盾を装備していた。

 だが、武装は統一されているが身に着けている物はそれぞれ違っていて、野盗や山賊の様に見えた。


 「アルファ、ブラボーの両集団より更に後方・・500m程の場所を16名の武装した集団を確認。これをチャーリーとする。現状の状況から判断するに、アルファ・ブラボー集団は。チャーリーと敵対関係にある模様・・。

 両集団の移動速度・疲労度から計算すると、短時間で補足される可能性が高い・・。っと・・。どうするかなぁ・・・いかにも『悪もんです!!』って外見だが・・・見た目で決めつけちゃ、悪いよな・・?」

 

 集団を探知した場所から、徐々に距離を詰めてゆき、小高い丘の上に膝附姿勢で陣取り、火器管制装置をカメラと13m強化電磁レールライフルに連動させる。光学迷彩の効果で、まだこちらには気づいていない。距離も離れている為、そう簡単には気取られる事はなさそうだ。彼我の距離は1500m程、後方の集団チャーリーも1800m程に迫っていた。


 ヘルメットのディスプレイに、両集団ともに13m強化電磁レールライフルの有効射程に入ったことを示す表示が、火器管制装置によって現れる。光学望遠カメラで捉えられた両集団に、目標指示表示が割り振られてゆく。

 この状況ならば、精密射撃モードで二十秒も掛からず全ての目標を殲滅することが出来た。


 「いや、駄目だな・・・。彼我の状況も推測の結果にしか過ぎない・・。それに、ここで弾薬を消費するのも得策ではないか・・・。省エネで行こう。」


 省エネって・・・旧世紀の昭和かよ・・ww。自分自身で思いついた言葉に苦笑しながら、無力化する方法を考える・・。

 省エネを優先すると両勢力共被害が出てしまう。仕方なく肩部兵装ラックに装備された多目的ランチャーから『非殺傷ガスグレネード』を選択。目標を集団チャーリーの中ほどにして諸元を設定する。


 「さて・・・風向きも森の方向だし。これで、上手く行ってくれるといいんですがねぇ。」


 そう呟きながらディスプレイに表示された、発射準備完了のマークを確認し射出を念ずる。ヒデトの脳波を受け取った火器管制装置が、すぐさま反応。左肩後方から軽い射出音を残して、目標に向けてグレネードが飛び出していった・・・・・。




 萌え出でたばかりの高原の植物たちを踏みしだき、肩口まで少し乱雑に切られた、短い朱い髪を振り乱しながら、整った顔立ちの女性が息も荒く走っていた。


 「ハイド・・!レドス・・!無事か・・・・?!」

 苦しい息を我慢して、自分より先を走る二人の騎士に声を掛ける。


 「はい・・・!私は大丈夫ですが・・・・。レドス殿が先ほどの戦いで負った傷が・・・。」

 重い甲冑を纏った状態とは思えない走りを見せながら、返事を返すハイドと呼ばれる男性。くすんだ色の短く切られた金髪を額に纏わりつかせた顔は整っていて、二十代初め頃。美男子の部類に入るだろう。

 しかし、今は重い装備のお蔭で苦しさに歪んでいた。


 「ハイド・・!余計な事をぬかすな・・!!ジャヌアお嬢様・・!私も大丈夫です・・!この程度で斃れる私ではございません・・。先代様に鍛えられた・・」

 レドスと呼ばれた傷を負った男は、経験を積んだ歴戦の騎士なのだろう。身にまとった雰囲気が先ほどの騎士とは違っていた。

 傷を負っているにも関わらず、強固な意志を宿した瞳は。後方から迫りくる野盗の群れに向けられていた。

 だが、その声は殿を務める朱い髪、のジャヌアと呼ばれる女に遮られた。


 「あ~、その先はいい・・・。ふ・・・、この期に及んでお父様の話が聞けるとはな。まだまだ大丈夫の様だな・・!!キュリアーヌ姫様とミヘーナ侍従長はご無事か・・!!」

 ジャヌアと呼ばれる朱い髪の女性が、自分達より先を行く二人の無事を聞く。


 「200メノ程度先を行っておられます・・!!しかし、お二人とも体力が持つかどうか・・。」

 まだまだ元気だ!と、言わんばかりにジャヌアに答えるレドス。


 「仕方がない・・・・。ここで奴等を食い止める・・!!ハイド・・レドス・・!広域魔法展開まで時間を稼いでくれ!」

 走るのを止め、覚悟を固めた表情で二人の騎士に命ずる。そして、後方から迫る野盗共に視線を走らせ、広域魔法を展開する為の精神集中に入る。

 二人の騎士は、集中を邪魔しない程度の距離を離して、ジャヌアの前方に展開する。そして、何事かを短く呟くと纏った鎧と剣が微かに青色に輝きだす。それを確認し、目を閉じ術式の為に更に深い集中に入るジャヌア。


 しかし、その集中を遮る激しい傷みが、左の肩口に生じる・・!集中を遮った物を見ようと、精神集中の為に閉じていた目を開き、己の左肩を見る・・。

 そこには、野盗が放ったと思われる矢が突き立っていた・・。


 「ぐっ・・・・・・!!くそ、集中が切れる・・・。」

 忌々しげに肩口に突き立った矢を中ほどで折り、刺さっている矢を引き抜く。そして、腰の万能ポーチから魔法の回復薬を少量振りかける。白い煙と、薄い緑の光を出しながら傷が治ってゆく。


 「逃げ足だけは早いですなぁ・・。ジャヌア殿・・。しかし、我々を振り切ることは出来ませんでしたねぇ~。」

 40メノ程度の距離をおいて、野党の群れの中では異彩を放つ紺碧の色の肩までの髪を、無造作に後ろで結び、紫を基調とした甲冑に身を包んだ二十代中ほどの男が。野盗の集団の中心から、傷ついたジャヌアを嘲笑うように現れる。


 「ふざけるな・・!!ヒャリフ・・!!この裏切り者が!代々国王と民に尽くしてきたウラード家の先祖が草葉の陰で嘆いているぞ・・!!貴様もウラード家の一員なら恥を知れ・・!!」

 傷を負ったとは思えない程の、裂ぱくの気合が入った詰問を返す。


 「はは・・、だからこそですよジャヌア殿・・・。先祖代々尽くしてきた我が家を・・・辺境の防衛などに・・・。」

 先ほどの勝ち誇った朗らかさが消え、怨讐に満ちた声が響き渡る。


 「馬鹿なやつ・・・。辺境の防衛ほど重要な職務などないのに・・。王国を護り、民を支える・・。信頼と名誉の重みに耐えられなかったか・・・。」

 自らの宿命に敗れた者に、哀しみと憐みを含んだ目を向けるジャヌア。


 「ふん・・・。王都周辺で治安維持を任せれているアヌドートス家に、我々の気持ちなどわかるまい・まぁ、いい・・。どちらにしろ、この論争に終止符を打つときですな・・・。おい、お前たち・・!ジャヌア殿は立派な人質になってくれる・・。殺すな・・。男どもは・・土に返ってもらえ・・。」

 ヒャリフが、率いている野盗に命令を下す。野卑た笑いを浮かべながらジャヌア達に迫ろうとする野党の群れ。


 ジャヌアを護るハイドとレドスが、覚悟を決めたように剣を構え、野盗の群れと対峙する・・・。治癒がまだ終わっていないジャヌアも、腰に佩いているレイピアを抜き構える。


 お互いの緊張感が最高潮に高まった時、空中から筒状の物体が落下。野盗の集団の頭上で炸裂した・・。




 「た~まや~~~~って・・・・。命中!」

 ヒデトが放った『非殺傷ガスグレネード』が、集団チャーリーの中心の頭上10mで炸裂。内部に収められた化学物質が反応を起こし、凄まじい勢いで毒々しい黄色のガスと粉末が拡散し、集団チャーリーを包み込む。


 拡散したガスが、野盗達の目や鼻から侵入。強烈な不快感を与え、咳・クシャミ・落涙・大量の鼻水などの症状を引き起こしていた。その効果は強烈で、声を上げる事すら不可能だった。


 「よし・・。上手く行った。風向きの大幅な変化も無かったから、ブラボーへの影響もない様だ。あのガス・・・訓練時代に何回吸わされた事か・・・。思い出すのも嫌だなぁ・・。まぁ、一時間程あの状態でいてもらいましょう。副作用など無いし、自然分解するから。でも、『異世界』の『ヒト』はどうだろう?いやいや、殺すよりはマシだよな・・・。」

 

 光学望遠カメラで集団チャーリーの状況を確認し、ガスグレネードが及ぼした被害に満足げに頷き、アルファとブラボーと接触する為に歩き始めるヒデト。

 最初に接触するであろう、女性二人組のアルファに恐れられない様にしなければ。と、考えながら光学迷彩の解除を命じていた・・。




 「なんだ・・!?何が起きた・・・?!」


 突然、野盗の集団を包み込む毒々しい黄色いガス。ある程度滞留した後、龍鳳山脈から吹き降ろす風によって流されてゆく。

 ガスが晴れた後の野盗の有様は酷い物だった。叫び声をあげる事すら出来ずに、信じられない程大量の涙と鼻水を流し、地面の上でのたうっていた・・・。


 「ジャヌアお嬢様・・!考えるのは後です!!今のうちに姫様達と合流しましょう!!あの状態が回復するには時間が掛かるでしょう!!今は何より時間が最大の味方です・・!!」

 伊達に戦歴を重ねていないレドスが、状況をいち早く把握。すぐさま逃げの選択を進言する。


 「もっともだ・・。よし!ハイド!!レドスをサポートしろ!レドス・・!これを使え・・!すぐさま姫様達に合流するぞ・・!!この先には危険な魔物もいるかもしれん・・急げ・・!!」

 レドスの進言をすぐさま取り入れ、ハイドに殿を命じ、回復薬をレドスに渡す。その際に、野盗の集団に一瞥をくれ、先に逃げている姫達を追いかけるジャヌア。


 「逃げられんぞ・・・・・ぐ・・くそ・・ジャヌアァァァアアーーーーー!!!」

 その背中にヒャリフの憎しみに満ちた絶叫が覆いかぶさっていった・・・・。



 「凄いな、あいつ・・。ガスグレネード食らって声を出せるなんて・・。結構タフな奴だな。あ、稀に居たよな、何も強化していないのに耐性がある奴・・・。俺も耐性がある方だったが・・。」

 目標アルファに向かいながら、ヘルメットディスプレイの右下に別枠で表示された、集団チャーリーの状況を見ながら呟く。

 

 さて、敵性勢力も取りあえず無力化したし。一時間ほど時間に余裕が持てるだろう。その間にアルファ・ブラボーに友好的に接触、情報交換を行い、その後の方針を決めよう。

 できれば、村や町などの場所を教えてもらえると助かるんだが・・。あと・・通貨なんかが手に入れば、なおいいが・・。難しいか・・?

 対象アルファまで、残り400mか・・そろそろ此方に気づくか・・?そうだ、ライフルを格納しなければ。バックパックの『100式大型狙撃銃』は偽装ネットを巻いて・・釣り具として説明するには無理があるかな・・?テントの支柱とでも説明するか・・。

 『武士』装備はそのままでいいか・・。どう見ても大振りな『剣』に見えるだろう・・。まぁ、反りがあるから『剣』ではないんだけども・・。


 しかし、身分を示せとゆわれたらどうするかなぁ・・?そうだな・・魔獣との戦いで怪我をして、記憶が定かではなく、気づいたら高原に倒れていた・・・・とか・・?

 駄目だ、信じてもらえるとは思えない・・・・。困った・・・。


 考え込んでいる内に、対象アルファとの距離が狭まる・・・。アルファ1がこちらに向かって警告を発している。言語はチョット訛りの強い英語だった。良かった・・連邦第二標準言語だ。

 「身分を明かせ・・・!」と言っている。取りあえず両手を上げ敵意の無い事を示そう。


 アルファ1は三十代前半。黒に少し赤みを帯びた髪を、左6・4で分け。編み込んだ長い髪を左肩から前に卸している。整った顔立ちに知性を溢れさせている蒼い瞳、情熱を湛えた紅玉の様な唇。バランスの取れた成熟した肢体を、エプロンの無いヴィクトリア調メイド服らしき物で覆っている。

 が・・・・、膝の上あたりから切り裂かれている。恐らく逃げるときに邪魔なため、自分で切ったものと思われる。

 脹脛の部分まで覆う深い茶色のブーツを履いていた。しかし、膝とその上の部分の間に白く美しい肌が露出していた。


 もう一方のアルファ2は、アルファ1が庇う様に自分の後ろに隠していた。


 見た目は10代中盤。薄い緑の髪を紐で無造作に束ね、邪魔にならない様にしている。普段は降ろしているのだろう。美しいとゆうよりも、年相応の可愛さを覗かせる顔立ち。それでも美しさの範疇では高い位置を占めるだろう。

 躰の方はまだ幼さが残るが、腰の上で留められた胸元の空いたドレスを着用しているが、こちらも膝までの長さで切られていた。履いているブーツは若草色。こちらを射抜くような目線を、美しい翠玉色の瞳から送って来る。ある種の高貴さを身に纏っている。

 表情は緊張感に包まれているが、興味を抑えきれていないのが伺える・・・。


 「驚かせて申し訳ない・・。私はヒデト。魔獣に襲われたところまでは覚えているのだが・・。そこに至るまでの記憶があやふやでして・・。魔獣と戦った時に負った怪我が原因と思うのですが・・」

 先程、思いついた信じて貰えない話をしていた。


 だめだ・・・・・本当にダメダメだ・・。



 年かさのアルファ1が毅然とした態度で二歩前に出てくる。

 「先の名乗り、有難うございます。申し遅れました、ワタクシ『チャストリトン王国』で、侍従長を務めておりますミヘーナ・チュリスと申します。そして、後ろに控えておりますのが・・・」


 ミヘーナの後ろで警戒しながらも、興味を抱いた視線をヒデトに纏わりつかせながら、アルファ2が前に出てくる。

 「いいわ、ミヘーナ・・。私の名前はキュリアーヌ・チャストリトン。『チャストリトン王国』の王女よ、まぁ・・王位継承権は姉上達より低い第三位だけれども・・。」


 その名乗りを受けて、即座に膝を折り。地面に片膝を降ろし二人に対して頭を垂れるヒデト。

 「恐れ多くも、王族に対する非礼をお許しください。何分、卑しい身分の出で礼儀に疎い物で。我が故郷での挨拶でお許しください。ご尊名を御呼びする栄誉を頂けますでしょうか・・?殿下。」


 ヒデトの挨拶を見て、驚きの表情を見せるミヘーナとキュリアーヌ。

 「差し赦す・・。時にヒデトとやら・・。汝の纏う鎧は我々が知るものとは違うようだが・・?せめて兜を脱ぎ顔を見せてくれぬか・・?『ヒト』種なのか・・?」


 「は、重ね重ねの非礼、誠に申し訳ございません。それでは、失礼いたします。」

 そう言って、ヘルメットを収納する・・。そこには・・先ほどの光景と同じく、薄っ~~~い額が陽光を反射する・・。


 「「それは・・?!奇病『ハ~ゲルン』!!」」

 キュリアーヌ姫、ミヘーナ侍従長共に。憐れみと哀しみに満ちた目でヒデトの(主に額を)見つめていた。


 「え・・・・!?なんです・・・それ?」

 呆気にとられた『ハゲ』・・・いや・・・薄い髪のオッサンの声が高原を渡って逝く・・・・・。



 


 






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