暗黒
取りあえず、『異世界』に行く第一歩となります。設定が脳内から飛び出したのと、メタルギアを買おうと思っていたところ、スプラトゥーンになってしまい、イカが我が家を飛び回っていて、話の進みが遅くなっています。
申し訳ありません。では、また。宜しくお願い致します。
朱い土の荒野・・・・・。周りより少し高台になっている場所に、突然黒い霧状の『何か』が球形に広がってゆく。
その球形は、時間と共に朱い荒野の地表から100m程の高さまでに暗黒の空間を広げていた。ちょうど高台が中心点となった、半分ほどの球形を形作っていた。
その中心部分から、なにがしかの物質で構成された、巨大な気配を持った存在が現れようとしていた・・。その存在は『言葉』を発しながら暗黒の空間から這い出ようとしていた・・・。
「真龍め・・・・!人共め・・・・・!そして・・・・!『勇者』ども・・・・!!これほどの屈辱・・!これほどの痛み・・・・!そして・・・・裏切り・・・・・!許さん・・!赦さんぞ・・・・!この魂に誓って・・・・・!復讐してやる・・・・・・!」
恐ろしい程の憎しみと、地を揺るがすほどの怒り・・・・。そして、聞いている者が居たら魂すら凍り付いてしまう程の哀しみがこもった呪詛の言葉が、朱い土の荒野に響き渡ってゆく・・・・・。
高台を中心とした暗黒の空間が収束し、その中心から薄暗い肌を持った『人』の形を持ったモノが現れ出でてきていた。
よく観察してみれば身長は2mに届かない程度、銀を凍り付かせたような質感の髪が、頭部から腰のあたりまで伸びている。全身は神が創造したかのような美しいバランスを持っており、その肢体を支える鍛えられつつ程よく肉のついた両脚。その両脚の上で蠱惑的な丸みを帯びている、肉感的な臀部。
そして、艶やかな黒の肌を覗かせる均等に割れた腹部・・・。転じて上を見上げれば、女神ですら嫉妬で卒倒するほどの完璧な胸。
凍り付いた銀彫刻のような髪に隠された頭部は、揺るぎない意志を感じさせる瑪瑙色の眼。その上を形作る薄く伸びたキレのある眉。美しい曲線を形作る鼻梁、うっすらと色気を感じさせる頬、そして何物にも触ることを許さないであろう、張りのある蠱惑的な唇・・・。
人類圏の男性が見たならば十人中九人は振り返るであろう肢体。神々しく、また悪魔的な色気を漂わせる雰囲気を纏って佇んでいた・・・。
だが、人類との相違点が見いだせる箇所が存在していた。
頭部の見事なうねりのある銀髪から左右均等に突き出している小さめの『ツノ』。
背に雄々しく、肉体を覆う神話に出てくる伝説のドラゴンの様な『翼』・・・。
臀部から生えている、黒々とした細く長い蛇の様な『尻尾』が、持ち主の意思を反映して上下左右に動いている。
この見事なまでに美しい肉体だが、あちこちに裂傷や火傷、鋭い刃物による斬撃の痕があり。肉体のあちこちから赤黒い『血』を流していた・・・・。
「くっ・・・・・・・!!肉体の損傷が激しすぎる・・・・・!?このままでは意識を保てなくなってしまう・・・・・!治療しなければ・・・・。だいたい、あの阿婆擦れ何処に跳ばしてくれたんだ・・・?クソ・・・!なんだ?この朱い荒野は・・・?まるで生命が感じられん・・・・。」
自らの肉体の損傷を確認しながら、自らをこの地に追いやった連中の事を思い出す・・・。ダメだ、腸が煮えくり返るだけで、何も思いつかない・・・・。
更に、回復に必要な『魔力』や『生命』が、ごく薄くしか感じられない・・・。ここまで『魔力』が薄いとは・・・・奴等、この私を『異世界』に送ったな・・・・?
そこまで考えた時、急速に意識が肉体より離脱しようとしていた・・・・。
「いかん・・・・?!少ないながらも『魔力』を補充しなければ・・・・・・。」
その言葉が終わるや否や、彼女?を中心とした100m近い空間に。淡い黄金色の球形が広がる・・・。そして、その球形の中に数百個の光点が輝き、その光点が中心にいる彼女?の内部に浸透してゆく・・・・。
「薄く、足りないな・・・・・・。こんな状態では、亜龍にすら対抗できんな・・・・・。」
渇いた、自嘲気味な笑みを浮かべながら朱い荒野を見渡す・・・・・・。先程の光点を吸収したお蔭なのか、肉体の損傷は目に見えて減って、出血も止まっていた・・。
だが、深く刻まれた右腕の上腕にある刀傷は、小さくなったがまだ存在していた・・・。
「くっ・・・・・・・!!『呪い』の武器か・・・・・!忌々しい・・!!」
痛みもまだあるようで、傷口を見ながら悪態をついてしまう。この『異世界』どうやら『魔力』と『生命』があまり存在してないらしい・・・・。
ここまで希薄だと『元の世界』に帰還するための転送陣を形成するのも、相当な労力が必要だ。さて、この何も無い荒野でどうするべきだろうか?
まぁ、深く考えても事態は好転しない。とりあえず『魔力』を収集し、吸収出来たのだから移動しながら肉体の回復に努めよう・・。
『元の世界』への帰還ポイントを忘れないように、自らの『魔力』でマーキングしておく。そのマーキングを見る事が出来たならば、『ベルミナ・フォン・ハイデルスン』とエルフィリア皇国語で書かれていた。
「さて、忌々しいヤツラもいない事だし。気長に行ってみるか・・・・!」
深く悩むタイプでは無いらしい・・・・。足取りも軽く、この朱い荒野を歩いてゆくのだった・・・・。
その存在の頭上・・遥か高空で、三機の機体が持てるすべての索敵機器を用いて、その正体を探ろうと位置を適度に変えながら追従していた・・。
更に、其の機体の上・・・衛星軌道上では全長10kmに及ぶ巨大な構造体が、全ての知覚を用いて対象の分析に努めていた・・・・。
「変調現象中心より物体反応!」
「変調現象中心点から、半径約100m、球形の時空震を確認・・・?!」
「変調現象、中心点から動体反応・・・!」
「アルファ、ブラボー、チャーリーより索敵情報リンク・・・・。詳細画像・・来ました!メイン戦況表示ホロジェクターにリンクさせます!」
「対象の名称を『クィーン1』とします!』
『イオージマ』のブリッジ。そのメイン戦況表示ホロジェクターに、様々な角度から撮影された静止画像やリアルタイム映像が、様々な分析結果と共に映し出されていた。
「なんなんだぁ、コイツは・・・・?」
先ほどまで緊張感のカケラも無かったブリッジの指揮区画の艦長座席で、チャン・グリュッケン大佐は驚きも隠さず、呻くように感想を漏らしていた・・。
「観測データ、撮影映像、映像から推測される動体のエネルギ―を、超時空間通信で地球連邦本部に転送済み・・。」
索敵担当のブリッジクルーが、『イオージマ』が放った自立無人偵察機『ガーゴイル』から受け取ったデータと。
地表に居るヒデト二等軍曹が放った各種索敵ドローンからの調査データを、『イオージマ』艦内の生体量子思考回路群ナナに転送。そこで各種調査データを精査・分別し、超時空間通信に載せて地球連邦本部へと送っていた。
「分かりません・・・・。各種ライブ映像の分析では、類似しているのは『月』に居る『漂流者』の方たちの一形態に似通っていますが・・・・・?」
チャン艦長の言葉を受け、『イオージマ』副長ゴメス・ベルナンダン中佐が答えていた。
「『漂流者』の方達か・・・・。確かに何回か見かけた『形態』だな・・・。しかし、あの方達は『月』か、『ガイア』から外に出たことは無いのだがなぁ・・・?」
ゴメス副長の感想・意見を参考にしつつ、『漂流者』の生存圏についての自分が持ちうる情報を頭の中で整理していく。
「実際、『漂流者』の方達については、あまり詳しく分かっておりません。私達に高度な科学技術の提供や、『交感』・『交合』による遺伝子レベルでの肉体の強化。さらに、『超時空間航法』などの航宙技術などを教えてくれましたが・・・・。その目的は『パートナー』を得ることとだけしか・・・・。」
『漂流者』に対して疑問を抱いているゴメス副長。彼が幼い時より『信奉』している『宗教』の教えが、彼の思考の根底に流れていたため。どうにも『神』に近しい存在が、自分たちと同じ時間を共有している事実が、割り切れない様だった・・・。
「ふん・・・・。なんだ、まだ割り切れないのか・・・・。確かに目的は不明な感じがするが、実際問題として我々は彼ら無しには生きていけないぞ・・・・?だいたい、ゴメス。お前のカミさん『漂流者』だろ・・?しかも、滅茶苦茶別嬪さんじゃなかったか・・?」
ゴメスの意見を聞き、嘆息しながら言葉を返すチャン・グリュッケン大佐。
「え?!そうですけど・・・?別嬪と言えば・・・・まぁ、別嬪ですが・・・。でも、彼女の性格に惚れただけで・・・、その・・・、確かに魅惑的な肉体を持っていますし、私の前では可愛らしい態度を崩そうとしないし・・・・、私の手料理を『美味しい!!』と言ってくれますが・・・・。」
チャン大佐の指摘を受けて、自らの『嫁』との、のろけ話を『これでもか!』と話し始めるゴメス副長。
「あーー、その話は、もういいわ・・・。嫁さんの話になると自慢話が止まらなくなるから・・・。だけど、お前さん。宗教と嫁さん、どっちがたいせつなの・・・?」
ゴメスは、自分の嫁の話になると。普段の有能さは鳴りを潜め・・、全く使い物にならなくなる。それだけなら気づかせてやればいいだけだか、必ず『嫁』自慢話・・・所謂、惚気を一時間程喋りまくる。
「え・・?そんな事・・・決まっているじゃないですか!私の可愛い『嫁』に決まっているじゃないですか!」
何を質問しているんだ、この親爺は!宇宙開闢以来の決定事項!自然の摂理じゃないか・・・!と、ばかりに鼻息も荒く答えるゴメス・・・。
「さっきの『信奉』している、『宗教』はどうなんだ?言ってることがチグハグなんだが・・・?」
まるで闘牛の様な鼻息の荒さのゴメスをいなしながら、『信心』について尋ねるチャン大佐。
「『信心』はまた別です・・・。でも、『嫁』が改宗しろとゆうなら・・・今!即刻!改宗します!」
鼻息どころの話じゃなく、恐るべき勢いで話し込むゴメス。
そんな程度なのね・・・・。心の中で感じたことに嘆息しながら『ビョ~キ』気味の副長から目線を外す。
「お二人とも、内輪のゴタゴタは後にしてくれませんか・・・?だいたい、この異常事態に何を話題にしているんですか・・?リアルタイムの現地映像と一緒に、私達の会話も地球連邦本部に送られているんですよ・・・・?!」
地上で、対象の監視任務に就いているヒデト二等軍曹が。体の中にある空気全てを吐き出す様な、残念な気持ちで会話に割り込んでくる・・・。
「でもね、ヒデトさん。私の『嫁』・・・。本当に素晴らしいんです!!一例を挙げますと・・・!」
ヒデトが言っている意味を正しく解釈しているのか、妖しい程のテンションで『嫁』の話を続けようとするゴメス。
「ゴメス中佐・・・・。現在状況は、曲がりなりにも任務中ですよ・・・?それより、この『ファンタジー世界』から出てきたような『クィーン1』に対応するのが先では・・・・?」
ヒデトより、実年齢で3歳年下のゴメス。航宙軍艦艇勤務配置を受ける前は、ヒデトと同じ『空間降下兵』に配属されていた。勿論、ヒデトとは違うバリバリのキャリア士官だったのだが。第三次虎頭要塞防衛戦で左眼球に損傷を負い、艦艇勤務に異動になっていた。
その戦傷を受けた時に、エルフィリア皇国艦艇に取り残されるところを、ヒデトの指揮する班に救出されていた。
その後、戦傷の回復と肉体の強化を指示されたゴメスは。『漂流者』との『交感』と『交合』を軍より指示され、そこで生涯の伴侶となる。自らの『嫁』に出会っていた。
「そうだな。ゴメスに付き合っていたら『異常事態』も莫迦らしく感じてくるからな・・・・。どうだ、ヒデト。奴さん、こちらの監視に気づいたか・・?」
ゴメスの甘苦しい程の話をぶった切る口調で、ヒデトに対象の状況を確認するチャン大佐。
「その兆候は感じられませんね・・・。『対象』から500m程離れていますから。およそ『常人』なら気づける距離ではないでしょう・・。それに、私の『本業』は一応『索敵兵』ですから・・・。まぁ、空間を捻じ曲げて出現した存在を『常人』の範疇でくくっていいものか、わかりませんが・・・。」
スーツに増設された『索敵・隠密』仕様の装備を稼働させ、超望遠カメラ(光学迷彩を施された)を対象に向け続けながら感想を述べる。
スーツに増設された『隠密』装備・・アクティブステルス機構によって、光や音波・電波はヒデトに到達すると同時に、荒野に存在する『岩』としての情報を見る物に(もしくは索敵機器に)返していた。
それらの電磁的な装置を介さずとも、スーツ全体を覆うカモフラージュネットによって。ヒデトの出す音・熱・光が認識できないレベルまで下げられていたが・・・。
「確かに、こちらの索敵・観測機器でもお前の位置は判明しないな・・・。スーツの必要最小限のパワーしか使ってないだろう・・・?」
いくら艦齢15年といえども、改修の度に電測兵装は最新型を搭載してきた『イオージマ』をもってしても、ピンポイントでの位置情報は判明していない。
どうやら、本部の技研が寄越した『空間降下兵』用の新装備が効果を発揮しているらしい・・・。実験段階でこの程度ならば、素晴らしい『隠密』兵装が量産されるだろう。
勿論、この実践データを収集出来た我々にも。喜ばしい結果が待っている・・・。増額される俸給の額を頭に浮かべながら、家族と何処に行くか・・・?と、休暇の過ごし方を考えるチャン大佐。
そんなチャン大佐を叱るように、新たな現象が『対象』から発現していた・・・。
「『クィーン1』に新たな現象を確認!対象を中心に、薄い黄金色の球形が展開してゆきます!」
「熱量反応なし。質量反応なし。重力場変調無し・・・・・。しかし・・・これは?!E波展開を確認!出力レベルが尋常じゃありません!反応係数測定中・・・・?!エルフィリア皇国航宙駆逐艦レベルです」
チャン大佐達のやり取りを聞いて、いつもの様に場の雰囲気が緩んでいたブリッジクルー達の声音に、緊張感が走る。個体レベルで発現するには、在り得ない出力のE波が観測された事実に『クィーン1』が普通の存在では無い事を証明していた。
「『イオージマ』へ、『クィーン1』に変化あり。対象に見受けられた肉体の損傷が、E波が観測された後に急激に回復。右腕上腕に着いていた、深い刀傷と思われる部分だけ治癒されていない。黄金色の球形帯が構成された後、球形帯内部に数百個の光点が現れ『クィーン1』に吸収された模様・・・・。
まるで、ファンタジーゲームの回復魔法みたいだ・・・・。」
地上で『クィーン』を観測し続けているヒデト二等軍曹から、詳細な情報と感想が送られてくる。その感想を聞きながらライブ映像を見ていた何人かのブリッジクルーが頷いていた。
自分が観測している『クィーン1』に起きた現象を感想を含めて『イオージマ』に送っていたが。あまりにも莫迦らしい自分の感想に、自分自身で呆れていた。
ははwくそ、こんな年にもなって子供の様な感想を漏らすなんて・・・・。『魔法』だと・・・。遂、数か月までゴリウスの筋肉達磨共と殺し合いをしていた自分が・・・・。よりにもよって『魔法』とは・・。
だが、自分が漏らした感想しか状況を的確に伝える表現方法が無かった。『クィーン1』に起きた現象はそれほどまでに、自分の常識を覆す出来事だった。
黄金色の球形帯が『クィーン1』から発現したのは、まだいい。が、その後の『クィーン1』に起こった回復現象については『回復魔法』としか見えなかった。
う~ん、やっぱりこの年まで『女性』と真剣にお付き合いしてこなかった弊害が出ているんだろうか?そんなオッサンに最近の出来事は刺激が強すぎたのか・・・?
確かに、三十路過ぎのオッサンには出来過ぎた美しく、魅惑的な女性達との出会い。しかも、出会う『女性』すべてがオッサンの色々な願望の中に出てくる存在に似通っていた・・・・。
ああ、新型のヴァーチャルプログラムゲームの遣り過ぎだろうか・・?確かにベッセーダ・ゲームスの『核世紀末』は面白かった・・。久しぶりに嵌ったが、世紀末の食料の『味』もリアリティーあり過ぎだったから、MODを入れて変更したけど・・・・。
いかん、いかん。考え方がアホになってきている・・。いくら何でもこじ付けが無茶苦茶すぎる・・。でも、ある条件を満たすと三十路で『魔法使い』から、『仙人』になれると・・。ユーリーが言っていたが・・どおゆう意味なのだろうか・・・?
アホウな思考に染まってゆくヒデト。そこに、『イオージマ』から命令が伝達される。ある意味とても非情な命令だった・・・。
「地球連邦本部発。第一級指令。ヒデト二等軍曹は『クィーン1』に対し、友好親善の為に接触を行え。なお、接触の祭には兵装一切を外すこと。」
対象の危険度も分からないのに兵装を外さなければならないとは・・・。確かに『個体』で駆逐艦級の出力を出せる『モノ』にヒデトが現状で保有する兵器群では対抗できそうにない。
であるならば、丸腰でもって敵意を持たないで接触した方が良いのだろう。観測した自分の感覚では、そこまでの危険は感じられなかった・・・。
まぁ、自分で望んだ結果だ。性根入れて行きますか・・・・。
今まで、朱い荒野に点在する『岩』としか見えない場所に。突然、装甲を纏った人型が現れる。手に持っていたカメラを『索敵兵用装備パック』にしまい、丸腰で『クィーン1』に歩いてゆく・・・。
装甲を纏った人間とは思えないほどの軽々しい動きだったが。その足取りは、紅い地表に微かにしか痕跡を残さない歩みだった・・・・。
相も変わらず、何も感じられない朱い荒野を進んでゆく。
「しかし、この『異世界』・・・。『魔力』が感じられないのではなく、極端に少ないのだな・・。ヤツラに傷つけられた肉体の損傷は、ある程度は回復できたが・・・。やはり、お腹が空いてしまった・・・。かといって『生命』を感ずる物もなし・・・・。この身がもつ感覚器官と索敵魔法の範囲内・・・おおよそ200メノ程度には反応もなし・・・・か・・・。」
う~ん、あいつ等に跳ばされた『異世界』。嫌がらせか?!と思う位に何もないな・・・。戦闘中の事だったから勇者共の使う『拘束魔法』は妨害出来たのだが・・。
『真龍』の使う『異空魔法』までは警戒していなかった・・・。だいたい、アイツめ・・・。『異空魔法』にしてみたところで、未完の『魔法』だったはず・・・?
それをぶっつけ本番で使用してくるとは・・・。よっぽど私が邪魔だったようだ。
まぁ、当然か・・・・。ヤツラが欲している我ら『魔族』の領土や資源・人材・・・。それらを守護する『守護団』・・・・。私の所属する第9守護団は、『魔族』の『守護団』でも最大勢力なのだから。
奴等にとっては最大の障害だしな・・・・。
私は『異世界』に跳ばされたが・・・、『第9守護団』の戦力は、まだまだ充実している・・・。本国に侵攻するには数が足りない・・・。確かに、『勇者』級が後3~4人居れば『質』的には可能だろうが。私を含めた遊撃部隊が後方の補給・設営・工兵部隊を、ほぼ壊滅させたから。部隊の再編にはかなりの日数を要するだろう・・・。
壊滅させたところまでは良かったが・・、まさか巡回していた『真龍』のグループに発見されるとは・・。本国の『諜報部』の『先読みの水晶球』も存外に役に立たんな・・・。
我が国も『魔法』に大きく頼り過ぎている・・・・。もっとも、人の連中は私達以上に『魔法』に頼っているがな・・・・。
しかし、『人類』と我ら『魔族』はお互いに『交流』があったし。戦争状態に突入するほど険悪な外交関係では無かったのだが・・・・?
それが、使者も立てずにいきなりの『侵攻』とはな・・・。奴等、普段から『正義』・『秩序』・『法』と、事あるごとに謳っていたが・・・?
何度か、外交交流であった『人類』の連中は煩くはあったが、お互いに戦うほどでは無かった・・・。
『第九守護団』と交流のあった、辺境の『人類』の部隊や『冒険者』等は。我らと『婚姻』を結ぶ者が居るぐらい友好関係を結んでいたのだが・・・?
事実だった。 三か月前から『人類』で第二位の規模を誇る『チャインズ人民国家』の軍備が急速に拡大していった。まぁ、それはいい。『人類』同士でも争っているのだから、欲望を抑えられない者が居るのは何処にでもある話である。
だが、その拡充された戦力が。『魔族』と友好を結んでいる『人類』の辺境国家群に向けられるとなると話は別だ。
今回の戦いも、チャインズ人民共和国がその軍備を持って。周辺の辺境国家群に侵攻したのが始まりだった。
そして、占領した国家の人民を強制的に自分の国家に移住させ、労働に従事させている。さらに、それを人質にして、衛星国家群の戦力・・勇者や真龍などを『戦奴』として、更なる領土の拡充を命じていた・・。
ベルミナが戦っていたのも、本国である『ギュイドラン魔道皇国』を侵攻する為に編成された。辺境国家群の一国『ファーグナ辺境王国』の『戦奴』となった勇者や真龍だった。
そこまでの事を知らずに戦っていたベルミナ。『本国』の『諜報部』もファーグナ辺境王国についての詳細な情報は持っていたが、侵攻の背景に蠢く『チャインズ人民国家』の事までは掴み切れていなかった。
(だいたい、外見からして人とは全く違うのである。それが人の世界に入り込んで、あまつさえ、諜報活動を行うなど・・。かなり無理のある事だった・・・。)
「しかし、ジーナンスめ・・。こんなところまで跳ばすなんて・・・。跳躍先の事も調べずに、未完の魔法を放つとは・・・!だが、戦意はあったが殺意は感じられなかったな。嫌々戦っている雰囲気だったな・・・?でも、補給・工兵・設営の部隊をかなりの数屠ったのだが・・・?」
『真龍』ジーナンス・キュリードと戦った時の事を思い出すベルミナ。彼女は気づいていなかったが、ベルミナが壊滅させたのは『チャインズ人民国家』の後方督戦部隊だった。『人類』の服装の違いなどに関心が無かったから、ジーナンスが本気を出さなかった理由にも思い当たらなかった。
「いかん・・・・?!本当にお腹が空いてきた・・・・・。何か食料が無い物か・・・・。『魔力』だけでは肉体と精神双方、共に持たせることが出来ん・・・。食べ物・・・・ないかなぁ~~・・・?」
『神』にでも昇華しなければ『肉体』も『精神』も、欲から解放されることは無い。もっとも、ベルミナの場合は『食欲』が突出していたため『魔将』になっても、執着から逃れることは出来ない様だった。
そんな言葉を漏らしていたベルミナの感覚器官にに反応が現れる。
「うん?!生命反応だ・・・!だが、索敵魔法に引っかからないとは・・・どおゆう事だ・・?しかも、30メノ・・・?!右前方・・?!」
ベルミナの右前方30メノに、なにがしかの装甲を纏った人が現れる・・・。
「何者だ・・?!名を名乗れ・・・・!!」
裂ぱくの気合を込めて、そこまで言葉を放ったところで。自分が名乗っていない事に気づいて、慌てて言葉を改める。
「申し訳ない・・・。名乗るのが遅れた・・。我が名は『ベルミナ・フォン・ハイデルスン』『ギュイドラン魔道皇国』の『魔将』を務める者なり・・・。して、貴方は何処の者だ?」
幼いころより、家族・親族から『礼儀は大事だよ』と教わってきたベルミナ。人に見える者に出会ったことが、ここが『異世界』とゆう事を忘れさせていた。
装甲を纏った者の、兜に当たる部分が外れ。後方に収納され、まさしく『人』の顔が現れる・・・・。
「丁寧な挨拶。恐れ入ります。私は、『地球連邦・深部探査隊』所属。地球連邦二等軍曹。タカハシ・ヒデトであります。」
挨拶をしているのだが、その目線は地に向けて伏せられている。しかし、エルフィリア皇国語での完璧な発音で答えるヒデト・・・・。
しかし、『ベルミナ・フォン・ハイデルスン』の様子がおかしい・・・・・。ヒデトの薄くなり始めた頭部を凝視している・・・・?しかも、憐みの目線である・・・。
「なんと・・・!?『魔』を失う奇病・・・!?伝説の『ウッースーイ』に罹っておられるのか・・?成るほど、私の『索敵魔法』が効かないわけだ・・・。いや、申し訳ないヒデト殿、少し混乱してしまってな・・・。初対面の者に頼むには気恥ずかしいのだが・・・・その・・だな・・・。」
ベルミナがそこまで口にした時・・・・・・・。
「ぐ~~~~~~~~~、ぎゅるるぅぅうう~~~~~~~~」
朱い荒野に、ベルミナの美しい腹部から空腹を訴える音が響き渡っていた・・・・・・・・・。